九州・有明海のシンボル<ムツゴロウ> 干潟に特化した生態と変わった捕獲方法とは?
有明海は日本最大の干潟をもつ海です。堤防で淡水化され、生態系が大きく変わった場所もありますが、特徴的なサカナたちが今もたくさん生息しています。
そんな特徴的なサカナたちのなかで一番知られている魚といえば、ムツゴロウです。
有明海のシンボル<ムツゴロウ>
ムツゴロウ Boleophthalmus pectinirostris (Linnaeus)はスズキ目ハゼ科に属する、13センチ程度の大きさの魚です。
瞳孔がハート形をしている可愛い目と、ヒレや体側にあるスカイブルーの水玉模様が特徴的で、魚には珍しい下まぶたがあります。
大きな干潟のある朝鮮半島や中国沿岸、東南アジアなどに生息し、日本では有明海と八代海の一部にだけ分布が確認されています。
干潟に特化した生態
エラと皮膚の両方で呼吸ができるため、水中を泳ぐというよりも干潟の上を這って珪藻を食べて過ごしています。
目玉が飛び出しているため、危険察知能力が非常に高く、人や天敵が近づくとすぐに泥の中に隠れます。
柔らかい泥の干潟に穴を掘って棲み、産卵期には1万個ほどの卵を産みつけ、孵化までオスが世話をするそうです。卵は1週間ほどでふ化します。
絶滅危惧種に指定されている
環境省の汽水・淡水魚類レッドリストでは絶滅危惧種IB類(EN)に指定されていますが、保全活動により生息数は安定しています。
そのため、漁獲は少ないながら継続しており、今でも食べることが可能。絶滅危惧種を食べるとなると少し気が引けるかもしれませんが、伝統的な食材のひとつとなっています。
一度は味わってみると良い体験になるでしょう。
ムツゴロウはどうやって捕獲する?
ムツゴロウは干潟の泥中に棲むため、網や釣りで捕ることができません。
そのため、有明海独特の漁法で捕獲します。主に、ふたつの方法があり、ひとつはむつかけ、もうひとつはタカッポです。
むつかけは釣りキチ三平(昭和40〜50年代に流行った矢口高雄氏の漫画)のコミック第23巻でも登場する漁ですが、「潟スキー」と呼ばれる道具を巧みに操りながら、カギ針のついた錘でムツゴロウを引掛けます。
むつかけの秘技「ツバメ返し」は、子どもながらにとても興奮したのを覚えています。なお、有明海では、潟スキーやむつかけの体験もできます。
一方のタカッポは、ムツゴロウの巣穴に鰻を捕るような竹筒の罠を仕掛けます。どちらも、とても労力のいる漁法です。タカッポ漁では魚体に傷が入らないため、高価で取引されます。
福岡県柳川市にあるレジャー施設・柳川むつごろうランドでは、4〜10月にむつかけ体験が可能。また、道の駅鹿島でも本格的なむつかけ体験や干潟体験に挑戦できます。
ムツゴロウの食べ方
有明海周辺では、お盆にムツゴロウを食べる風習がありました。
漁期は5〜8月頃ですが、近年では漁獲量が激減したことや食習慣の変化でムツゴロウを食べる習慣が減ったため、漁をする人も減っているそうです。
ムツゴロウの一般的な食べ方は蒲焼で、鮮度が命のため、生きたまま串に刺し炭火で素焼きにしてから蒲焼にします。
その他、干物にしたり、素焼き後に佃煮にしたりと、保存食的な調理が多いようです。私は、素焼き後に甘辛く煮たムツゴロウを佐賀で食べましたが、美味でした!
有明海でムツゴロウに触れると、干潟の生態系にも興味が湧き出てきます。
(サカナトライター:額田善之)