片岡仁左衛門出演、大阪松竹座にて上演中の『七月大歌舞伎』オフィシャルレポート到着、8歳の五代目中村梅枝が初舞台を踏む
7月3日(水)から26日(金)まで大阪松竹座にて上演中の、関西・歌舞伎を愛する会 結成四十五周年記念『七月大歌舞伎』。片岡仁左衛門をはじめ、初代中村萬壽、六代目中村時蔵の襲名披露、五代目中村梅枝の初舞台も兼ね、多彩な演目で夏の道頓堀の大芝居を賑々しく届けている同公演のオフィシャルレポートが到着したので紹介する。
今年の大阪松竹座『七月大歌舞伎』は、「小さん金五郎」で開幕。幕が開くと、そこは桜が咲き誇る大坂の安井天満宮。お百度参りに来た人々で賑わっている境内に、広瀬屋新十郎(坂東彌十郎)、太鼓持の六ツ八(中村隼人)、そして六ツ八と恋仲の芸妓のお糸(中村壱太郎)がやって来る。彼らのやり取りを見て寄ってきたのは、お百度参りに来ていた女髪結のお鶴(中村扇雀)。お鶴は、「金五郎命」と腕に彫るほどに、同じ髪結の金五郎に惚れているが、当の金五郎は相手にしていない。続いて、金橋屋の金五郎(中村鴈治郎)、芸妓額の小さん(片岡孝太郎)も入れ替わり立ち替わり境内にやって来る。次々に登場する人々の複雑な恋模様、最後の春雨の振る石段での、金五郎と小さん、そしてお鶴を交えた立廻りなど、見どころが散りばめられ、客席も華やいだ雰囲気に。上方の風情あふれる明るい世話物狂言を楽しめる。
続いて趣向の異なる舞踊二題「藤娘」「俄獅子」で届けられる一幕。舞台と客席が明るくなると、そこには「藤娘」の藤の精(尾上菊之助)が、舞台一面に広がる藤の花を背に登場。客席からは、その美しさと華やかさに感嘆が漏れ、一気に引き込まれる。娘は藤の枝を手に可憐に踊り、やがて、恋をする乙女の切ない胸の内をしっとりと、艶やかに踊る。錦絵から抜け出したかのような美しさに、大きな拍手が送られた。
「俄獅子」では、賑やかなお囃子とともに幕が開くと、年中行事の「吉原俄」の日とあって、いつにも増して華やいだ江戸吉原の世界に誘われる。芸者(中村時蔵)と二人の鳶頭(中村萬太郎、隼人)が祭り気分に浮かれて華やかに踊る。「よろずや」と書かれた傘をもった立廻りで決まった後は、扇獅子を手に息のあった踊りを披露し、最後は絵面になって決まると、客席も大きな盛り上がりを見せた。
昼の部を締めくくるのは、初代中村萬壽襲名披露、五代目中村梅枝初舞台となる「恋女房染分手綱」重の井。乳人重の井を萬壽、自然薯の三吉を梅枝が勤め、離れ離れとなった母子の悲劇を描く重厚な義太夫狂言だ。由留木家では、入間家へ嫁ぐこととなった調姫が、「東へ行くのはいやじゃ」と言って聞かず、乳人の重の井や入間家の奥家老、本田弥三左衛門(中村歌六)を困らせている。そこへ、侍女の若菜(扇雀)が屋敷の前にいた馬子を呼び入れて、姫の前で道中双六を見せることに。梅枝勤める自然薯の三吉が花道から登場すると大きな拍手が沸き起こり、三吉が双六の遊び方を説明する様子や、弥三左衛門をからかう様子に、客席からも笑みがこぼれる。重の井が褒美の菓子をもって再度登場するところから芝居の色が変わり、重の井が自分の母と気づいた三吉が「かか様じゃ」と言って一緒にいたいと訴えるが、重の井はこの願いを聞き入れることはできない。最後にもう一度顔を見たいと抱き寄せる場面では、客席からもすすり泣きの声が。悲しい母子の別れを演じきった梅枝と、片はずし物の大役を勤める萬壽に、盛大な拍手が送られた。
夜の部は、歌舞伎の三大義太夫狂言に数えられる「義経千本桜」より、三段目にあたる「木の実・小金吾討死・すし屋」を上演。主人公にあたるいがみの権太を片岡仁左衛門が演じる。前半の「木の実・小金吾討死」は、後半の「すし屋」につながる伏線を描く大事な場面。平維盛の妻、若葉の内侍(孝太郎)と六代君(中村種太郎)が家来の小金吾(中村歌昇)とともに維盛の行方を捜しているところ、いがみの権太と出会う。ゆすりを働き、小金吾から金を巻き上げた権太が、女房の小せん(上村吉弥)、倅の善太郎(中村秀乃介)と仲睦まじい様子をみせる場面では、権太の、夫や父としての姿を印象付けた。その後、小金吾は追手に囲まれ、壮絶な立廻りの末、あえなく討死。そこへ通りかかった鮓屋弥左衛門(歌六)は、小金吾の首を持ち帰った。
続く「すし屋」は、奉公人の弥助として身をやつしている維盛(萬壽)とお里(壱太郎)の仲睦まじいおかしみのある場面から。仁左衛門の権太が母に甘える様子や悪党ながらもどこか憎めない姿は観客の心を引き付け、魅了する。眼目となるすし桶を抱えての花道の引っ込みから、梶原平三景時(彌十郎)の前に身代わりにした妻と子を連れてきた後の首実検まで、権太の一挙手一投足に目が離せない。権太が真相を語ろうとする矢先に父の弥左衛門に刺され、手負いのなか述懐する場面は最大のみどころ。勘当された権太が父に抱く本心が涙を誘い、幕が閉まってからも、劇場中が鳴りやまない拍手に包まれた。
続いての「汐汲」は、須磨に流された在原行平が、蜑女の姉妹と恋仲となった伝説に基づく能の「松風」を題材とした歌舞伎舞踊。月の出る須磨の浜辺にやってきた蜑女の苅藻(扇雀)は、汐汲桶に映る月影に、会うことの叶わぬ恋人への思いを馳せて舞を舞う。恋人の形見の烏帽子と狩衣を身にまとい、様々な技巧を用いた変化に富む踊りで、しどころが続く。そこへ、漁師の此兵衛(萬太郎)が現れ、場の雰囲気は一変。以前より苅藻に思いを寄せていた此兵衛が口説きにかかるが、相手にされない。なおも迫るところをあしらって、その場を立ち去る。古風な風情と磯の香りが客席いっぱいに広がる、歌舞伎舞踊の名作。
切狂言となる「八重桐廓噺」嫗山姥は、六代目中村時蔵襲名披露狂言として上演される。荻野屋八重桐を初役で勤める時蔵の花道からの登場に、客席も熱い拍手で迎える。行方知れずの夫がつくった歌を耳にし、声のする館の中へ入り込んだ八重桐は、そこで夫の坂田蔵人時行(菊之助)と再会。竹本に合わせて仕方噺をする「しゃべり」はこの役の最大の見せ場で、しっとりとした色気を感じさせた。その後、親の敵討ちのために家を出た時行だったが、妹の白菊(孝太郎)が討ち果たしたことを知ると、切腹をして我が身の臓腑を八重桐の口に含ませ、息絶える。やがて、八重桐は子を身ごもり、大力無双の山姥となって、大勢の手勢を引き連れた太田十郎(鴈治郎)を相手に勇壮な立廻りを見せた。新・時蔵の魅力が存分に発揮された一幕で、最後はぶっかえりで決まるなど豪快なクライマックスは、夜の部の切にふさわしい華やかな幕切れとなった。
関西・歌舞伎を愛する会 結成四十五周年記念『七月大歌舞伎』は、7月26日(金)まで大阪松竹座にて上演中。チケットはイープラスにて販売中。