Yahoo! JAPAN

「漫画」を読むのは「劣った読書」なのか? 想定外の「漫画の効能」を話題の〔出版ジャーナリスト〕が徹底解説

コクリコ

出版産業や子どもの本、漫画などについて多くの取材や調査を重ね、書籍『町の本屋はいかにしてつぶれてきたか』などの著書で知られる出版ジャーナリスト・飯田一史さんが子どもの「漫画×読書」を解説。

【画像】飯田さんおすすめ 「不登校の子」と親の気持ちがラクになる小説・マンガ5選

「欧米では子ども向けのコミックの出版が盛り上がり、司書や教師も含めて大人たちはどんどんコミックに対してウェルカムになっている。コミックの読書のほうが、字が中心の本よりも読者に提示しやすいメリットがいくつかあるからだ。一方、日本は学校や図書館の大人たちは今も慎重派が多いだけでなく、書店減少などもあって小学生はマンガから遠ざかっている。

このギャップを埋めていくためのひとつの答えが、『大人が安心して与えられる』+『子どもが楽しんで読める』=『児童書の丁寧なコミカライズ』だろう」とは、出版ジャーナリスト・飯田一史さん。

出版産業や子どもの本、漫画などについて多くの取材や調査を重ねてきた飯田さんに、今回は子どもの「漫画×読書」を解説してもらいました。

欧米ではコミックの読書を積極的に推進

近年、欧米ではコミックの読書も「本物の読書」として推奨されている。

未就学児や児童向けのグラフィックノベルも増え、大手児童書版元から刊行されている(日本のマンガはティーン以上向けという扱い)。

図書館の司書も保護者もコミック肯定派になってきたのには、いくつも理由がある。

まず、「子どもが自ら選んだ一冊の本を読み切った」という達成感を与えるものになるからだ。読書の入り口になり、また、読書体験が途切れたときも戻ってきやすい。

それから、映像がはびこる現代において、絵と字の組み合わせから成るコミックが、自発的に読み解くビジュアルリテラシーを高めてくれるという考えがある。

スマホやタブレットでYouTubeやTikTokをただ眺めているくらいなら、スクリーンタイムの代わりにコミックを読んでくれたほうがずっとマシ、と語る保護者も多い。

写真:Hakase/イメージマート

さらに、生まれつき字を読むのが得意ではない人、画像があったほうが理解しやすい人もいるが、そうした人たちにも読書の楽しみや本からの学びを提供できる。

日本では「読書バリアフリー」は視覚障害者、身体障害者の方向けの取り組みが中心だが、目が見えていて本が持てたとしても、じっと字を追って読むのが苦手な人はいる。そうしたニューロダイバーシティ(発達特性を踏まえた多様性)的な観点からも、コミックは「字だけの本」では届きづらい人たちにまで届く可能性を持っている。

いまでは児童文学から現代文学までのグラフィックノベル版、日本風に言うと小説のコミカライズもさかんにつくられている。

日本では「マンガは子どものもの」ではなくなっている

一方、日本はどうだろうか。

そのむかしは小学生が自分のおこづかいで当たり前にマンガ雑誌を買っていたが、いまはもうそういう時代ではない。スマホを手にするような年代になると、マンガアプリやウェブマンガ誌を読むことも選択肢に入るが、小学生、とくに女子は紙のマンガ雑誌を買わなくなっている。

そもそも地域によっては、小学生向けの少女マンガ誌を買える場所が近くにない。書店がないところも多いし、コンビニも雑誌から撤退しつつある。コミックスも、児童向けのタイトルは書店のマンガ棚では隅のほうにあり、なかなか目に入りづらい。

学校図書館も公共図書館も、多くはいまだにマンガに対しては比較的慎重だ。

保護者はというと、子どもに話を聞いても、しばしば「マンガは学習マンガしか買ってくれない」といった声があがる。

「コミックなんか読書じゃない」という意見が20世紀のあいだ主流だった欧米は、2010年代以降、猛烈な勢いでコミックの読書推進に積極的になり、実証的な研究をもとにそのポジティブな効果が謳われるようになっている。

対して「マンガ大国」を自称し、20世紀には放っておいても子どもがマンガを読むような環境だった日本のほうが、今では子どもがマンガから遠ざかっている。

写真:graphica/イメージマート

べつに私は「マンガだけ読めばいい」と言いたいわけではない。

ただ、先ほど言ったように「読み慣れていない子にはマンガのほうが入りやすい」「読み切ったという達成感を得やすい」「字が苦手な子も比較的抵抗が薄い」といったメリットがある。であれば読書の「選択肢」として、あったほうがいいと思う。

「図書館にマンガも置いておくとマンガ以外の本の貸出も増える」とか「ずっとマンガしか読まない子は少数派」といったことが読書研究ではわかっている。

マンガから多くの楽しみや感動を得てきた世代が大人になっているのだから、子どもに対して児童書もマンガも両方提供するほうが自然ではないだろうか。

子どもに安心して手渡せる「児童文庫・児童文学のマンガ版」

もちろんそうはいっても、大人としては
「安心して子どもに与えられるマンガがどれなのかわからない」
「どうせならちゃんとしたものを読んでほしい」

という心配や想いがあるだろう。書店で児童書や学習参考書の棚は行き慣れていても、子どもを連れてコミックの棚には行かないという親御さんも多いと思う。ただ実は、最近ではそのあたりのニーズに応えるべく、小学生が読める、児童文庫のコミカライズなどが少し出てきている。

講談社も“児童書ファンのためのマンガサイト”と銘打った「ビブリオシリウス」を立ち上げてウェブで連載マンガが読める。

また、2025年7月にはコミックス第1弾として『ひなたとひかり』と『竜が呼んだ娘』を刊行した。

『ひなたとひかり』は講談社青い鳥文庫で非常に人気の高い「双子の姉妹の入れ替わりもの」の作品。

『竜が呼んだ娘』は、青い鳥文庫の名作『雲のむこうのふしぎな町』を手がけた柏葉幸子による異世界ファンタジーの児童文学だ。

『ひなたとひかり』1巻 漫画:べあろ/原作:高杉六花/キャラクター原案:万冬しま(講談社)

『竜が呼んだ娘』1巻 漫画:浅井連次/原作:柏葉幸子/キャラクター原案:佐竹美保(講談社)

どちらのタイトルも非常に丁寧にコミカライズされているし、「小学生が読む」という前提で表現に配慮してつくられている。

「児童文庫はまだちょっとむずかしい」「児童文学の長編だと読み切れない」という子でもすんなり読めるだろう(もちろん総ルビ)。

マンガを気に入ったら原作を手渡して読み比べてもらうのもいいと思うし、「マンガのほうが好き」という子もいるかもしれないが、それはそれでいい。

両作品ともに作画のクオリティも高く、じっくり何度も見る価値のある絵だ。キャラクターの表情ひとつとっても、そこから読み取れる情報量は多い。字からイメージをふくらませるのが読書だが、描かれた表情から、文字にはなっていない人物のきもちを汲み取るのもある種の読解だ。

原作にはない「マンガ」という表現媒体ならではの部分からも、読者にたくさんのことを感じさせてくれる。

「絵が多い本」を読むことは、「字が多い本」と比べて決して「劣った読書」ではない。別の豊かさのある読書体験として、いまの子どもたちにマンガもぜひ選択肢に入れてみてもらいたいと願っている。

文/飯田一史

【関連記事】

おすすめの記事

新着記事

  1. 猫に『引っかかれやすい人』に共通する3つの特徴 猫ではなくあなたに原因があるかも?

    ねこちゃんホンポ
  2. 雨の中保護された子猫→人間に捨てられた様子だったのに…泣けるほど尊い『まさかの行動』が15万再生「純真無垢な姿に涙」「本当にいい子」

    ねこちゃんホンポ
  3. 気持ちよさそうに眠る猫の『顔』を見たら…想像を超えてくる『衝撃的な表情』に爆笑の声「ホラーw」「可愛い寝顔を期待したらw」と34万再生

    ねこちゃんホンポ
  4. シワが気になりにくい!扱いやすいワンピース5選〜2025年晩夏〜

    4MEEE
  5. もはや週5で食べてます。【業務スーパー】「リピ買い確定」「本格的な味」SNSで大絶賛の人気商品だよ

    4yuuu
  6. <まさにお悩み相談>悩みは人に話す?話さない?重い話だと相手の負担になるし、恥ずかしいし…

    ママスタセレクト
  7. 無限に食べられそう……。レンチンでできる「大葉」の激ウマな食べ方

    4MEEE
  8. 【コラム】今年も暑い8月です|益田浩(元新潟県副知事・前中国運輸局長)

    にいがた経済新聞
  9. 旗艦店戦略の「カルバン・クライン」、ブラピ主演の『F1』の「トミー・ヒルフィガー」が好調 PVHの第2四半期は最終利益が41%増

    セブツー
  10. 広瀬香美が総合プロデュースを手がける音楽イベント「Kohmi EXPO 2025」が開幕!

    WWSチャンネル