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ミニマリズムを極めた先のタイムレスな美、「ポール・ケアホルム展」が開催中

タイムアウト東京

ミニマリズムを極めた先のタイムレスな美、「ポール・ケアホルム展」が開催中

1950〜70年代に活躍した、20世紀のデンマークを代表する家具デザイナー、ポール・ケアホルム(Poul Kjærholm、1929〜1980年)。石や金属などの硬質な素材の特性を生かしたミニマリズムを極め、洗練された名作デザインの数々を発表した。特に建築やデザインの分野で高く評価されてきた人物だ。

汐留の「パナソニック汐留美術館」で2024年9月16日(月・祝)まで開催している企画展「ポール・ケアホルム展 時代を超えたミニマリズム」は、国内の美術館でケアホルムの仕事を初めて本格的に紹介する展覧会であり、半世紀を経てもなお愛される、彼の代表的な作品が一堂に会した貴重な機会である。

Photo: Naomi展覧会のエントランス

国内有数のデザインコレクションと建築家・田根剛のコラボレーション空間

本展で展示されているのは、北海道東川町が有する「織田コレクション」から厳選された約50点の家具。椅子研究家の織田憲嗣(おだ・のりつぐ)が長年にわたって収集したプライベートコレクションが基となっており、椅子約1400脚をはじめ、テーブルなどの家具や照明、食器などの日用品、関連書籍など、約2万点に上る国内有数のデザインコレクションである。

Photo: Naomi「Ⅱ. DESIGNS: 1951-1980 家具の建築家」の展示風景

会場構成は、パリを拠点に世界的に活躍する建築家の田根剛が手がけた。開幕前のプレス発表会に登壇した田根は、織田の教え子であるがゆえに、本展には個人的な思いもこもっていることを明かした。

また、かつて学生時代に北欧へ留学した経験を振り返り、同世代の学生たちの人間的な成熟ぶりに驚いたことに触れた。彼らのような人間が育つ北欧の社会や文化、歴史的な背景も踏まえながら、展示や会場の構成を考えたことを語っていた。

Photo: Naomi会場構成を手がけた建築家の田根剛

モノクロフィルムを鑑賞するようにデザインを読み解く

3部構成の最初のセクション「Ⅰ. ORIGINS 木工と工業デザインの出会い」では、ケアホルムがどんな人生を歩んできた人物なのかを、ターニングポイントとなった出来事や、ビジネスパートナーらとのエピソードを交えて紹介している。

デンマーク北部で生まれ育ったケアホルムは、画家になることを夢見ていたが、父の勧めで木工家具工房に弟子入りする。昼は家具職人の仕事を、夜は絵を描きつつ技術学校で学んだ。19歳で木工家具製作のマイスターの資格を取得し、さらにコペンハーゲンの美術工芸学校で工業デザインを学ぶが、ここで彼を指導したのが、ハンス・J・ウェグナー(Hans J Wegner、1914~2007年)だった。

Photo: Naomi「Ⅰ. ORIGINS 木工と工業デザインの出会い」の展示風景

そして、21〜22歳の若いケアホルムが卒業制作としてデザインしたのが、現代でも製品として販売され続けている椅子「PK 0」と「エレメントチェア(PK 25)」だ。彼がどれだけ先進的かつ天才的なデザイナーであったかを思うと、非常に驚かされる。

「エレメントチェア(PK 25)」には、最小限の要素で最大限の効果を作るという、ケアホルムのデザインの神髄が見て取れる。一方の「PK 0」は、たった2枚の合板から複雑な三次元曲面を作り出したものだが、考案当時の技術では量産化が難しかったという。

Photo: Naomi右から「エレメントチェア(PK 25)」(1951年、織田コレクション蔵)、左手奥の黒い椅子が「PK-0」(1952年、織田コレクション蔵)

続く「Ⅱ. DESIGNS: 1951-1980 家具の建築家」では、一転して黒一色の空間にケアホルムがデザインした家具がずらっと並べられ、過剰な装飾が一切ない、ミニマリズムの造形の美しさが際立つ。各作品についての説明は、製品名や素材、所蔵者などの情報のみで解説は一切なく、展示台の間を縫うような導線になっている。

椅子やソファ、テーブルなどの一つ一つを、360度ぐるりと観察したり、座面の裏側や脚のパーツに何の素材が使われ、どのようにデザインされているのか、しゃがみこんでじっくりと眺めたりする鑑賞者がとても多かった。

デザインとは観察から始まる、と言っても過言ではないが、本展のイントロダクションに掲げられていた「モノクロームのフィルムを鑑賞するように、ケアホルムを前にして私たちは受け身で怠惰でいることは許されません」という言葉を思い出した。

Photo: Naomi「Ⅱ. DESIGNS: 1951-1980 家具の建築家」の展示風景

展示室では時折、モデルごとの特長や、ケアホルムのデザイン哲学について語る織田の音声が流れているので、耳を傾けてほしい。

また展示台には、ケアホルムが残した言葉が日本語と英語でいくつかあしらわれている。デザインについて多くを語らなかったケアホルム。しかし、だからこそ、紹介されたフレーズからは、木工職人として対峙(たいじ)するものづくりに工業デザインの発想を融合させようとしていたことや、一貫してぶれないデザイン哲学、時代の流行やニーズをとらえたり自身の仕事に妥協したりすることのなかった人物像が読み取れるだろう。

Photo: Naomi「PK-11」(1957年、織田コレクション蔵)

最後の「Ⅲ. EXPERIENCES 愛され続ける名作」では、家具の図面や関連写真などの資料とともに、ケアホルムのデザインが現代の生活や日本の建築空間において、どのように受容されてきたのかについても紹介している。

Photo: Naomi「Ⅲ. EXPERIENCES 愛され続ける名作」の展示風景

撮影もできる「名作椅子で味わうルオー・コレクション」

ケアホルムが逝去した1980年、椅子の研究室を立ち上げた織田は、相次ぐメーカーや工房の閉鎖が象徴するデンマーク家具業界の衰退を危惧し、研究対象としてデンマークを選んだという。

デンマークデザインといえば、織田が監修者として携わった企画展「フィン・ユールとデンマークの椅子」(2022年秋に「東京都美術館」で開催)が記憶に新しいだろう。その際、数多くの織田コレクションの椅子に実際に座ることができ、筆者も感激したが、なんと本展の最後の展示室でも、「PK-0」などケアホルムの名作椅子(本展出品作品の現行品)に座ることができる。

Photo: Naomi「名作椅子で味わう ルオー・コレクション」の展示風景

しかも、同館が誇るジョルジュ・ルオー(Georges Rouault、1871〜1958年)のコレクションを常設展示している「ルオー・ギャラリー」で作品を鑑賞しながら、という非常に贅沢(ぜいたく)な試みだ。普段なら写真撮影はできないが、本展では撮影可能とのこと。実際に座って名作の理由を体感したい。

なお、鑑賞空間の快適さと作品の保全を考慮し、7月20日(土)以降の土・日曜日・祝日のみ、日時指定予約制となる。あらかじめ、同館の公式ウェブサイトを確認してほしい。

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