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発達障害息子が中学校で運動部デビュー!遅刻や忘れ物、思春期ならではの友達関係はどうだった?

LITALICO発達ナビ

発達障害息子が中学校で運動部デビュー!遅刻や忘れ物、思春期ならではの友達関係はどうだった?

監修:森 しほ

ゆうメンタル・スキンクリニック理事

なんとなく始めた卓球部、中学生活はまさかの理由で遅刻を連発

タクは中学校から卓球部に入部しました。なんとなく面白そうという軽い気持ちで入部を決めたようです。今まで触ったこともない卓球をいきなり始めると聞いた時はびっくりしましたが、顧問の先生が特別支援にも精通したベテランの先生だったこともありタクの挑戦を応援しようと考えました。タクが中学校になる頃、数年習っていたダンス教室を突然辞めることになり熱中できるものがなくなっていたという背景があったので、身体を動かせる運動部に入りたいんだろうなぁと思いました。

そんなタクは卓球にのめり込むのがとても早かったです。ラケットを握るとすぐに夢中になり、練習を重ねるごとにどんどん上達していきました。コツをつかむとさらに楽しくなり、放課後の時間があっという間に過ぎていきます。家に帰ってからもラケットを手放さず、夜遅くまで壁打ちをしていました。コンコンと響く音がなかなか止まらず、「もう遅いからやめてね」と何度声をかけたことか。

そんな変化の中で心配なことも出てきました。帰宅時間が遅くなることで、一人での寄り道が増えたのです。特に気になったのは「道端での石拾い」。タクは昔からキレイな石や面白い形の石を見つけるのが好きで、部活帰りに立ち止まっては夢中になって石を集めていました。部活の疲れを忘れてしまうほど熱中してしまい、気づけば日が暮れかけていることも。「ちゃんと帰れるかな?事故にあってないかな?誰かの敷地内で石拾いしてないかな?」と親としては心配が尽きませんでした。

さらに朝の登校時間にも影響が出始めました。ある日、先生から「タクくんが遅刻しました」と連絡があり、理由を聞くと「校庭で石を拾っていて、気づいたらチャイムが鳴っていた」とのこと。卓球への情熱と同じくらい、石拾いへの情熱も衰えてはいなかったようです。熱中できるものが見つかるのはうれしいけれど、好きな事には時間を忘れて夢中になりすぎてしまうタク。親としては「部活と日常生活のバランス、大丈夫かな?」と、少し気がかりな部分もありました。

その後、石拾いが収まるようにいろいろと対策をしてみました。校庭の砂利は希少石が含まれている可能性か限りなく低いことや、化粧砂利に使われている種類を実際に図鑑で調べたり、市街地で自然の化石が見つけられないことを説明し納得させるようにしました。日々の石探しは少しずつ減らしていき、そのかわりに天然石採掘で有名な観光地に家族旅行を計画したり、石の博物館に連れていき好奇心を満たしてあげられるようにしました。

思春期の友達トラブルに困惑……親としてできること

卓球部に入ってすぐ、タクの実力はぐんぐん伸びていきました。努力の成果が目に見えて分かるのはうれしいこと。でも、その急成長が思わぬトラブルを引き起こしました。

ある日タクが「最近、部活がちょっと嫌だなぁ」とぼそっとこぼしました。詳しく聞くと、一緒に練習していた友達がタクの上達を快く思わず嫉妬から無視をしたり、わざとラリーを途中でやめたりしてくるというのです。先生の目の届かないところで起きる静かな対立。中学生という多感な時期だからこそ生まれる、複雑な人間関係でした。

「なんでそんなことするんだろう?」とタクは戸惑っていました。勝ち負けにこだわるスポーツの世界ではライバル心が生まれるのは当然。でもタク自身は「卓球が楽しいからやっているだけ」。そんな純粋な気持ちでいるからこそ、友達の態度が理解できず、どう接したらいいのか悩んでいました。

私もすぐに解決策を見つけてあげることはできませんでした。無理に「気にしないで」と言うのも違う気がしたし、親が介入する問題でもない。でも一つだけできることがありました。それは、タクの気持ちに寄り添うこと。「それは嫌だったね」「そりゃモヤモヤするよね」とタクの話に同調しながら、時には「私だったらこう言い返すけどなー!」なんて冗談を交えたり。「そういうの、あるよね」「でもさ、タクが頑張ってる証拠でもあるよね」そんな風に話しているうちに、タクも少し気持ちが軽くなったようでした。

部活の中のトラブルは、どうしても避けられないもの。それでも一人で抱え込まずに家で話してくれて良かったなと思いました。

人との距離感が近いタク……でもそれが長所になるスポーツという場所

運動部に入ると他校との試合や合同練習があり、小学校との違いを感じました。遠征のたびに「ユニフォームを忘れた!」「シューズを忘れた!」と、私は振り回されっぱなし。準備の大切さを何度伝えてもなかなかうまくいきません。その頃は私自身も発達障害と診断されていて日々苦労の連続でした。それでも顧問の先生がサポートしてくださり、なんとか乗り越えることができました。具体的には、試合の日程の連絡は口頭だけではなくタクにメモを取るよう指示してくれたり、直接電話で連絡してくれたり本当に感謝ばかりの日々でした。

本番に弱いタクは、緊張からミスを連発し試合にはなかなか勝つことができませんでした。でも、試合後の合同練習では良い意味で目立っていました。顧問の先生は「どんどん他校の生徒と練習試合しておいで」と声をかけていましたが、ほとんどの子が遠慮して動きませんでした。そんな中、タクは持ち前の人懐っこさで初対面の子たちにもどんどん声をかけ、たくさんの試合をこなしていました。その事は他校の顧問の先生からも褒めていただいて、親として誇らしい気持ちになりました。

特別支援学級に在籍していることを知らない他校の生徒たちは、タクのことを特別視することなく自然に接してくれていたようです。タク自身も純粋に卓球を楽しみながら、いつの間にか仲間を増やしていました。中学校生活では、実は細かいトラブルもたくさんありました。それでも部活という存在のおかげでタクは良い汗をかき、充実した3年間を過ごせたのではないかと思います。

中学校と放課後等デイサービスを卒業して、これから……

タクの中学校生活は決して平坦なものではありませんでした。友達とのトラブルに悩み問題行動が出たり、児童相談所にお世話になった時期もあったり。親として、どうすればいいのか悩むことが何度もありました。それでも、部活という存在はタクにとって大きな支えになったように思います。

練習を重ねるうちに、ただ「楽しい」だけではなく「もっと強くなりたい」「勝ちたい」という気持ちも育っていきました。試合で悔しい思いをすることもありましたが、その分成長を実感できる場にもなっていました。中3の夏に部活を引退するまでの間、卓球に熱中する日々を過ごして心も成長できたんじゃないかと思います。

引退した後のタクは部活が無くなってしまってしばらくは落ち着かない様子でしたが、休日に友達と市民体育館で卓球をしたり近所をランニングすることでフラストレーションを発散しました。タクにとって身体を動かす事はこの先もずっと必要なんだと思っています。

また、タクは放課後等デイサービスでも卓球を楽しんでいました。そこでは特性を理解してくれる大人がそばにいて、安心できる環境の中でプレーすることができました。ただわが家は放課後等デイサービスの利用は中学生までで高校からはその場がなくなるため、タクが自然体で周りとうまく生活していけるか心配な面もあります。

高校でも卓球を続けるつもりのタク。技術を磨くことももちろんですが、それ以上に「自分らしくいられる場所」としてこれからも楽しく取り組んでいけたらと思います。発達障害のある子の学生生活は、親子で一緒に悩みながら進んでいくもの。タクなりのペースで、これからも自分の道を歩んでいってくれることを願っています。

執筆/もっつん

(監修:森先生より)
もっつんさん、お子さんが部活動での経験を通じて大きく成長した体験談をありがとうございます。保護者として寄り添いながら支えてこられたのですね。お子さんがお友達とのトラブルで悩んでいるときに、家族が解決策を示すことはなかなか難しいかと思います。それでも、ただ気持ちを聞いて共感したり寄り添ってくれる家族がいる、というだけでもお子さんの気持ちは軽くなるはずです。

さて、発達障害の傾向がある方は、特定の興味や活動に極端に没頭する傾向があり、ルーティンからの逸脱にストレスを感じやすいことが知られています。日常生活に一定のルーティンやスケジュールを設けることで、変化によるストレスを軽減できます。部活の後や学校から帰宅後の時間を決めて、石拾いや卓球の練習を計画的に行うことも、ストレスの軽減につながったのかもしれません。また、身体を動かすことはストレス発散や感情調整に非常に重要です。運動はドーパミンの分泌を促し、ADHD(注意欠如多動症)の症状を軽減する効果もあります。お子さんのケースでは、部活動がまさにそのようなポジティブな影響を与えたのではないかと考えられます。これからの高校生活も、卓球を通じて「自分らしくいられる場所」を見つけ、さらなる成長を遂げられることを願っています。お子さんの個性や強みを活かしながら、これからもご家族で力を合わせて、素敵な毎日を過ごしてくださいね。

(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。

神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。

ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。

ADHD(注意欠如多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。

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