「やっと会いにいけます」ピノキオピー全国ツアー『モンストロ』 7/28 Zepp Sapporo開催直前スペシャルインタビュー
2009年にニコニコ動画にVOCALOID楽曲を発表して以来、活躍を続けるボカロP・ピノキオピーさん。活動開始15周年を迎える2024年、これまでの活動の中で最大規模の全国ツアー『モンストロ』を開催します。Zepp Sapporoでスタートを切るこのツアーが、どんな内容になるのか?これまでの活動を振り返りつつ、今回のツアーがどのような内容になるのか。現在の心境を語ってもらいました。
初めての投稿から温かく迎えられたニコニコ動画
――活動15周年を迎えました!現在の心境はいかがですか。
こんなに長く活動が続けられるとは思わなかったですね。高校生の頃にギターの弾き語りで宅録こそしていましたが、ボカロPとして活動を始めた当初は音楽理論もそこまで把握してませんでした。コンプレッサーやイコライザーなんてまったく分からない状態でしたし。当時のカルチャーの中で活動していたほかの投稿者たちに、使い方を教わったり質問したり、コミュニケーションを取りながら学んでいきました。
――活動初期の頃はどういう心境だったんでしょう?
初投稿したときは、ひどいことを書かれるんじゃないかと不安に思いながら投稿をしたんですけど、温かいコメントばかりいただきました。当時の動画のサムネイルが鼻が伸びた初音ミクだったこともあり、「ピノキオP」と名付けてもらって……。それまでは自分が作ったものを不特定多数の人に褒められた経験がなかったので、すごく元気がもらえました。それがうれしくて2曲目、3曲目と投稿していったんですよね。そのたびに温かいコメントをもらって、続けていく原動力になっていきました。
――これまでの活動の中で転機になったのはいつ頃だったんですか?
転機は2009年4月ですね。初期の楽曲はマイリスト登録者数が2桁でしたが、10曲目の『eight hundred』は4桁まで行きました。このときに、自分でも何かしら人の心を動かせるものを届けられるかもしれないと思ったんです。
高校生のときは曲を作って友達に聴かせることを趣味にしていました。最初の頃は面白がって聴いてくれるんですけど、あまりにしつこいんでウザがられちゃいました(笑)。自分の曲が喜ばれるっていう経験がなかったんですよね。ニコニコ動画に投稿することによって、自分が想像していなかった範囲にまで曲が届いてるという実感が持てました。それまでは自分のためにしか曲を作っていなかったんですが、聴いてくれている人に伝えることを意識するようになりましたね。
曲に込められたメッセージと、ライブを意識した瞬間
――昨年はアルバム『META』を発表されました。周囲の反応はいかがでしたか?
あのアルバムは「自分ではない何かになりきって曲を作る」というのがテーマでした。「自分らしくないこと=模倣」をしながらも、根底には自分がいることが伝わればいいなと。特に収録曲『エゴイスト』『META』はテーマ性を強く含ませていたので、即売会イベントに来ていただいたファンの方たちにその2曲に触れていただいたのが嬉しかったです。伝わる人には伝わったかなと。
――収録曲の『神っぽいな』(2021年発表)もAdoさんがカバーした際に話題になりましたよね。
歌詞の中でAdoさんの『うっせぇわ』を批判してると思われたこともありましたが、本来はあれを模倣した人たちを描いたつもりなんですよね。『神っぽいな』は様々な視点を描くことがテーマになっていたんですが、伝わりにくかったかなと思いました。ただ、Adoさんがカバーされた動画を見るとまさに“何かっぽい”。各パート、セクションごとに声色を変えて歌っていて、「あの人っぽい歌い方してるな」っていうのを感じました。曲に込めたメッセージを理解された上で歌ってくれていたので、それがすごく面白かったですし、うれしかったですね。
――15年間コンスタントに楽曲を発表し続けていますが、ボカロを使って曲を作り続けているモチベーションは?
かれこれ15年間ミクと音楽活動を続けていますが、ミクがいなかったら僕の曲は届いていなかったという思いがすごく強いんです。人間のボーカルが歌うとキツくなってしまう歌詞も、ミクが歌ってくれることで成立している気がします。自分自身が歌うソロプロジェクトもやりましたが、やっぱりボカロの方が良い曲を作れる実感があるし、ボカロで音楽を作るのが自分にとって向いていると思いますね。
――ライブは初音ミクとピノキオピーさんがデュエット、共演するようなスタイルですが、そもそもそのスタイルでやることを前提に活動していたんですか?
もともとは全然考えてなかったんですよね。2015年からライブ活動を始めましたが、最初は「ボカロを使ってのライブってどうなるんだろう?」って不安に感じてました。当初はトラックを流して僕は前に出ず、代わりに金色の全身タイツを着た知人に踊ってもらって「自分自身に対する目くらましをしてもらう」みたいなステージでした。でもそれって不誠実だなって思ったんです。
それであるとき、自分が前に出て歌ってみたんですが、聴いている皆さんの「おぉ!」っていう表情を見て、やっとライブをやっている実感が持てました。それからは今のスタイルでライブ活動をするようになりましたし、ライブを意識した曲作りをするようにもなりました。アルバム『HUMAN』(2016)では「人間とボカロの融合」をテーマにしましたが、それもライブ活動の影響ですね。
念願がかなった全国ツアー。初の札幌ワンマンにかける思いとは
――今回全国ツアーは5年ぶり、しかもご自身にとってもっとも大規模なツアーです。そこまでに至った経緯を教えてください。
ライブ活動は音楽事務所に所属していたときに始めたんですが、2020年に独立してからはコロナ禍も重なり、なかなか実現できなかったんです。ところが、以前所属していた事務所でお世話になったスタッフの宮島さん(現在は株式会社HIKEに在籍)から「ライブしませんか?」と声をかけていただいたんです。今この取材にも同席していただいていますが、宮島さんがいなければライブは実現しませんでした。本当に感謝しています。
――宮島さんにお伺いしますが、ピノキオピーさんへ声をかけたきっかけを教えてください。
宮島さん:私も当時の事務所から転職して今に至るんですが、ピノさん(ピノキオピー)とはずっと仕事をご一緒させていただいていました。2020年に「浅草花劇場」でライブの予定があったんですが、コロナの影響で無観客ライブに。その後、ピノさんは事務所を独立し、私も転職したのですが、コロナが落ち着いてきた時期に偶然、浅草花劇場の空き情報を知ったんです。「あの時叶えられなかった有観客ライブができる!」と、コロナ禍に中止になってしまったライブのリベンジをしたいという思いでピノさんにお声がけさせていただきました。それで実現したのがワンマンライブ『パラレルエッグ』(2022年開催)です。
――初めての札幌ワンマンですが、やはり緊張感はありますか?
ライブを良いものにしたいとか、無事に終わらせたいという緊張感はありますが、それよりうれしさが勝っていますね!やっと全国各地の方に会いにいけます。
今回のツアータイトル『モンストロ』は、ピノキオに出てくる巨大クジラの名前から付けました。15周年という節目に自分の名前のルーツ「ピノキオ」に立ち返るとともに、自分にとって今までにない大きさのツアー、大きい箱(ライブハウス)でできるということも意識して付けたツアータイトルです。
――初めて来られる方も多いと思われますが、どのようなライブになるのでしょうか?
15周年ということで、昔の曲から最近の曲まで全部入り混じったようなステージになります。初めて来る人も、昔から聴いてくれている人にも楽しんでいただけるはず。一人はもちろん、家族で来られる方もいますので、平和な雰囲気で安心して楽しめるライブです。
初期の頃のバンドサウンドを意識して打ち込みした曲は、よりライブ感を意識して打ち込みをし直したり、ライブで乗れるようなリミックスをしています。昔から知っている人にとっても新鮮に楽しめる曲があると思います。
――家族連れもいらっしゃるということで、世代を越えて愛されているんですね。
子供が聴いているのを聴いて、好きになっていただいた方が多い気がします。歌詞には時代が変わっても変わらない感情を描くことが多く、そんな普遍的な情景やメッセージを込めているからこそ、世代を問わず楽しんでいただけるのかもしれません。
――ライブではクワガタを投げるという噂を聞いたのですが……?
『祭りだヘイカモン』という曲があるんですが、曲中でビニール風船のクワガタを投げるのを定番にしてるんです。最初は紙製の小さなお神輿を投げていたんですが、それもなんか罰当たりかな……と思って(笑)。ほかに夏らしいものを考えて行き着いたのがクワガタでした。今回は何になるかな?ということで、楽しみにしていてください。
――4月23日にされた生配信ではライブに向けて新曲を作っていると話していましたが、その後の進捗はいかがですか?
すでに曲は出来上がっていて、現在は動画を制作しています。ライブ前には公開されるので、ぜひ見ていただければ。つい思いつきで作った、結構変な曲ですけど。
――えっ、ライブ前に変な曲ですか?(笑)
曲を投稿する間隔が4カ月空いてしまうと落ち着かなくてソワソワしてくるんです。曲のアイディア自体は1月頃からあって、その発表がライブのタイミングとたまたま重なりました。曲を作っているのは、ある意味で生活のルーティーンというか、生理現象みたいなものかもしれません(笑)。
――ちなみに、ライブ以外に札幌で楽しみにしていることはありますか?
やっぱり「食」ですね。海産物にスープカレーに……。いろいろなものを食べたいですが、以前食べてビックリしたのが「布袋」のザンギです。揚げ物なのに重たくなくて、いくらでも食べられちゃうなって。
――個人的には布袋の「マーボーメン」もおすすめです。ぜひザンギとセットで!
いいですね、お腹をすかせてぜひ食べてみたいです(笑)。あと最近サウナにハマっているので、札幌でも良いサウナを探したいと思います。
――最後に、初の札幌ワンマンライブへの意気込みをお聞かせください。
ツアーの一発目な上に、初めての札幌ワンマンライブ。さらに、初音ミクを生んだクリプトンさんがある地でのライブ!感慨深いですし、全力でやらせていただきます!お祭りみたいなライブになるはずなので、ぜひお越しいただけたらうれしいです。そして、何より健康第一でお過ごしください!
ピノキオピー
2009年に動画共有サイトにてボーカロイドを用いた楽曲を発表し、ピノキオピーとして活動開始。以降も精力的にオリジナル楽曲を発表しつつ、イラストやMVの制作、他アーティストへの楽曲提供など多方面で活動している。ライブでは電子と肉体の共演・融合を基軸に、ドラムとスクラッチ&サンプラーをサポートメンバーに加えたバンドセットでのパフォーマンスを行っている。
ピノキオピー2024 TOUR モンストロ
開催日時:7月28日(日)開場17:00 開演18:00
会場:Zepp Sapporo(札幌市中央区南9条西4丁目4)
料金:スタンディング 5500円、着席指定席 6600円
チケット購入:https://eplus.jp/pinocchiop/(e+)
来場者特典:モンストロステッカー
問い合わせ:050-3504-8700(Mount Alive)
(インタビュー・文:山下恭平)