【ばけばけ】髙石あかり、岡部たかし、池脇千鶴...役者の力を堪能できた新・朝ドラ2週目を振り返る
毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「ヒロインの婿探し大作戦」について。あなたはどのように観ましたか?
※本記事にはネタバレが含まれています。
小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)とその妻・小泉セツをモデルにし、ふじきみつ彦が脚本を、主演を髙石あかりが務めるNHK連続テレビ小説『ばけばけ』。第2週「ムコ、モラウ、ムズカシ。」では、松野家一同による壮絶な婿探し大作戦が繰り広げられる。
没落武士の働かない父によるうさぎビジネスでの一瞬の成功とバブル崩壊、川向こうの長屋への転落、そして小学校を辞めて織子として働き始めるトキ。父は牛乳配達、母は内職をするも借金は一向に減らず、ついには借金取りから遊郭行きを迫られるという転落人生を描いた激動の第1週。第2週では一転、笑いの濃度が急速に高まる。
働き手をゲットするため、トキ(髙石あかり)が婿探しを決意。見合い相手の希望を聞くと、祖父・勘右衛門(小日向文世)は「士族」、トキは「怪談好き」。それを受けた父・司之介(岡部たかし)が「河童みたいな?」と聞くと、トキは「河童とか天狗とか小豆洗いとか」と答え、一同で導き出した結論が「士族の小豆洗い」。もう何を探しているのかわからない混沌とした状態である。
頼りになるのは何かとトキを可愛がってくれる親戚・雨清水家だ。婿探しに難航するトキを「ランデブー」に誘った傳(堤真一)は、松風の怪談の舞台となる清光院へトキを連れていく。そこで語られるのは、嫉妬にかられた侍から逃げようとこの寺院に追い込まれて亡くなった芸者の悲しい話。怪談は怖いだけでなく、寂しいものだと語る傳の言葉は、後に重要な伏線となる。
その後、雨清水家の口利きで見合いが実現。見合い当日、お相手はざんぎり頭だったが、司之介と勘右衛門は「立派なまげ」を褒められる。緊張で顔も全身も硬直したからくり人形状態のトキが茶を運び、互いの顔を見合うと、これまた好感触。「ようやった! ようやったぞおトキ!」と興奮して身をくねらせる司之介と、「日本一じゃ!」と誇らしげに讃える勘右衛門のエールを受け、襖を締めた途端、達成感で床に寝そべり、手足をばたつかせるトキ。
その夜、一家は感慨深げにトキを労い、司之介とフミ(池脇千鶴)の見合い秘話まで出て盛り上がる。しかし、見合いの結果は、まさかの「即答」での断り。理由は、司之介と勘右衛門がいまだに引きずっている「武士らしさ」だった。見合いの失敗は父・祖父のせいだったことを知ったトキは、それでも武士にこだわる2人を詰る。「人を幸せにする武士」になってくれ、それが駄目ならせめて人に迷惑をかけない武士に、娘の縁談を邪魔しない武士になれ、と。「人を幸せにする武士」----人生で初めて聞く新鮮なワードである。
後日、雨清水家で腹を斬る覚悟はできていると勘右衛門が言うと、傳は「武士らしさ」が破談の原因だったのだからと諫める。そんな中、タエ(北川景子)はトキに話があるから3人(司之介、フミ、勘右衛門)は外すように言う。「あの......いったいどげな話を?」と尋ねる司之介に、「それを言ったら席を外してもらう意味はない」と傳。「あの、あの話ではございませんでしょうね」(司之介)「どの話だ?」(傳)から、勘右衛門、フミ、さらにタエも加わり、キョトンとするトキだけを置き去りにして「あの、あの話」の探り合い・掛け合いが延々と繰り広げられる。すごい朝ドラだ。
雨清水家がトキにしたのは「あの話」ではなく、家を出て嫁に行けという提案だった。松野家の借金はそれだけ深刻であり、嫁に行くほうが「楽で豊かな暮らしができる」という提案に対し、トキは礼を言うも、嫁入りはしないと返す。理由は「だって、つまらんですから」「私一人だけ幸せになってもつまらん。みんなで幸せになって初めて幸せなので」。出口の見えないド貧乏なのに、なんと「無類の松野家好き」なのだろう。
かくして雨清水家の尽力により、二度目の見合いが実現。性懲りもなくまげを整え、気合十分の勘右衛門をよそに、司之介は牛乳配達から戻ってこない。しかし、いざ雨清水家を訪ねると、そこに司之介の姿が。その姿はまさかのロン毛。「辻斬りか⁉」と殺気立つ勘右衛門だが、前回の見合いを反省し、理髪店に行ったのだった。だが、月代で前頭部から頭頂部まで髪がない状態でのざんぎり頭は「落ち武者」状態。肩につく長髪を指先でいじいじ弄びながら「正直、恥ずかしくって......」と言う司之介に、勘右衛門は「まげは武士の魂ぞ!」と激怒。それに対し、司之介は「おトキを幸せにする武士になろうと思う」と宣言し、父に土下座で赦しを請う。「仕方あるまい、お嬢のためじゃ」と一家は団結し、見合いへ。
ところが、対面した見合い相手・銀二郎(寛一郎)と父はまさかのちょんまげ。武士の心を守っていると聞き、「切るんじゃなかった......」とへたりこむ司之介に、「まさに落ち武者じゃ」と勘右衛門は呆れ、傳も「すみません。うちの落ち武者が」で、両家は笑う。
好スタートを切った見合いだが、今度は結婚が急に現実味を帯びてきたことに不安を覚えたトキが、またも硬直した様子で茶を運び「不安」を率直に話す。すると、銀二郎はトキを「特別な場所」へ散歩に誘う。奇しくもそこは、松風の怪談の清光院だった。なんと彼も怪談好きで、しかも怪談を好きな理由も怖いだけでなく、悲しく寂しいからという銀二郎。運命のような出会いである。そして祝言当日。やってきたのはまげを切った銀二郎だった。怪談好きで、しかも義父と「落ち武者仲間」になることを選んでくれた銀二郎。これぞ大団円である。
2週目にしてハッピーエンド......のようだが、次週はトキが養女であることが明かされ、雨清水家も大変な様子。三男・三之丞(板垣李光人)と目も合わせない傳の関係も気になる。そして何より、本作の真のお相手・ヘブン(トミー・バストウ)に出会うまではまだまだ遠い。
それにしても、あらすじは2週目にしてシンプルになった一方、笑いのギアを一気に上げてきた『ばけばけ』。髙石あかりの表情筋の柔軟さと自在に照度を変える眼の光、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世という松野家一族の掛け合いに、堤真一、北川景子まで加えた雨清水家との絡みは見事。特に「あの、あの話」の掛け合いは、朝ドラでこんな展開が許されるのかと思うほどコミカルだ。独特で現代的な言語感覚の脚本と役者の力を堪能できた2週目だった。
文/田幸和歌子