「誰にでも愛してくれる人が必ずいる」Furui Riho、人生のバイブルとなるアルバム『Love One Another』に込められた愛と決意
北海道出身のシンガーソングライター・Furui Rihoが、人生のテーマとして掲げる『Love One Another』を表題にしたメジャー1stアルバムを4月にリリース。全国5箇所を巡るツアーでは大阪・名古屋・札幌での公演がソールドアウトの大盛況となり、6月7日(金)東京・EX THEATER ROPPONGIでファイナルを迎える。「お互いを愛し合う」という意味のタイトルの通り、愛を歌ったリードトラック「Your Love」のほか、Furui Rihoが自分自身ととことん向き合い、見つけた言葉や考え、スタイルが詰まった全9曲を収録。普遍的な葛藤や喜びが等身大の歌詞で綴られ、時に背中を押し、時に心を軽くしてくれるような楽曲ばかり。Furui Rihoの軌跡を辿ることができる1枚であるからこそ、本人にとっても、そしてリスナーにとってもこれからの人生で立ち止まって、立ち帰りたくなるような「バイブル」といえるアルバムになったといっても過言ではないだろう。そんなアルバムについてはもちろん、「愛とは何か?」という哲学的な問い、自身のルーツであるゴスペルの魅力についてなど、たっぷりと話を訊いた。
「弱いままでもいいから、ありのままを見せていく」
決意を忘れないためのアルバムに
ーーリリースされてしばらく経ちましたが、印象に残っている反響はございますか?
YouTubeで、「すごく落ち込んで喫茶店に入ったら「LOA」が流れていて救われました」といったコメントがあって。それを見た時はめちゃくちゃ感動しました。というのも、この曲は辛い思いをして悩んでいた妹に向けて書いた曲で、どうすれば楽になれるかを考えて作ったんです。私の書いた言葉で妹を救える自信はなかったんですけど、ちょっとでも楽になってくれたらいいなと。それがまさか私の知らないところで、コメントをくださったようなことがリアルに起こっていてすごく驚いたし、書いてよかったなと。
ーー1st アルバム『Green Light』から約2年を経て、今作『Love One Another』が完成となりました。これまでたくさんの変化があったと思いますが、前作と比較してみてどういった作品になったと思いますか?
『Green Light』は、なんとか自分を好きになるためのプロセスとして、頑張って曲を書いていた時期でした。なので、とにかくがむしゃらに作ったアルバムだったなと思います。それに比べると今回の『Love One Another』は、あの頃より自分を許せるようになって、自分自身のことを少しだけ認められたり、客観的に自分のことを見れるようになったり、新たなテーマが見えるようになった曲が書けたかなと。
ーーどのようにして、自分自身を認められるようになったのでしょうか?
一つひとつの経験かもしれないですね。スタッフやバンドメンバー、関わってくれるみんなとの関係値もそう。あとはやっぱり、自分と向き合うことを続けてきたからかもしれません。例えばライブでいうと、ずっとステージに立つのが怖かったんです。だけど、いかにして恐怖を感じず、楽しくライブができるかを考えて、何度もトライアンドエラーすることで克服できました。それから「100点の自分じゃなくても良い」と思えるようになって、80点の自分を見つけられたことで少し気が楽になったのも大きくて、そう思えるようになるまでのプロセスも自分を成長させてくれた気がします。人間関係でも、相手の苦手なところは変えられないけど自分は変えられるなと気づけたり。そうやって忍耐力や人を愛する考え方を学んでいく過程で、自分が変わって、変えられて、 今回のアルバムの曲に繋がったのかなと思っています。
ーー1年をかけて少しずつリリースされてきたシングルを中心にアルバムができているので、まさに今日までのFurui Rihoさんの歩みを辿っていくような1枚になっていますね。
私は曲のストックが全然なくて、リリースに向けて作ることがほとんどです。だからこそ、その時に考えていることがリアルに曲に反映されているので、まさに自分の成長の過程が見えてくるようなアルバムになったと思います。
ーーFurui Rihoさんの楽曲は、その時に感じたことを等身大で、背伸びせずありのままに歌っているところがとても印象的です。そこは特に意識されているところでもありますか?
そうですね。嘘をつかない、カッコつけないことはすごく意識しています。もともとはすごいカッコをつけていたり、見栄をはって自分を良く見せるタイプの人間だったんです。だけど、そういう自分が嫌になってダサいと思うようになってからは「弱いままでもいいからありのままを見せていこう」と思えるようになりました。そのことを忘れないための曲が、今回のアルバムにはたくさん入っています。
「自分を愛で満たしてから初めて
周りの人のことも愛することができるんじゃないか」
「LOA」MV
ーーアルバムのタイトルは、Furui Rihoさんが人生のテーマとしても掲げている『Love One Another』に。「お互いを愛し合う」という、この言葉がアルバムの指針になったのでしょうか?
「Love One Another」という言葉はレーベル名で使っていて、最初は「素敵な言葉だな」「自分もそうありたいな」と漠然と思っていたくらいなんですね。だけど、この言葉を略した「LOA」という曲を作った頃に、この言葉こそが自分が叶えていくべき人生のテーマだと思うようになって。だから、アルバムの指針にしていたというよりも、アルバムに向けてリリースを続けていく中で「私のやるべきことはこれだ」という気持ちに合致してタイトルになりました。
ーー「LOA」のほかにも、「Your Love」が今回のアルバムの鍵となっているように感じました。「愛」って何? と聞かれてもはっきりと答えるのは難しいと思うんですけど、この「Your Love」を聴くと、「もしかすると、この曲で歌われていることが愛かもしれない」と思えるような気がして。言葉を投げかけたり、手を伸ばしてみたり、誰かのことを大切に想うことが、愛のひとつの形なのかなと。つまり、自分と相手がいてこそ生まれる、一人では生まれないもの。あるいは、相手からよくしてもらうことで、愛してもらえてるなと気付けるもの。そういうことを考えながら書いたのかなと。
みんなそれぞれ愛について考えていること、感じていることが違うと思うので、まさにいま話してくださった考えもひとつだと思います。私は相手を追ってしまうタイプで、人に頼るのが苦手なタイプなんです。ひとりじゃダメ、私も誰かがいないとダメなんですよね。それに誰にでも愛してくれる存在が絶対にいると思っているので、その存在を忘れないようにしよう、というのが「Your Love」です。ひとりじゃない、必ず誰か愛してくれる人がいるからこそ、私もあなたのために生きていられるという。世界では今も不条理なことがたくさん起きていて、「なんで私がこんな目に合わなきゃいけないんだ」「なんのために生きてるんだろう」と思うこともたくさんあって。だけど、そんな世の中でも唯一、生きていてもいいと思えるポイントが愛を感じた時なんです。それぞれにいろんなカタチの愛があると思うんですけど、その人が感じている愛が本物だし、それがなくなることはない、ということを信じて書きました。
「Your Love」MV
ーー先ほどのお話にも繋がってくるなと感じました。自分自身のダメなところを認めて頑張ろうと思うには、やっぱりひとりでは難しいところもある気がして。 ダメなところも含めて認めてくれる誰かがいて、応援してくれる人、愛してくれる人がいるからこそ、その人のためにも頑張ろうと思えるのかなと。
それもあると思います。ただ、あまりに他者に頼ってしまうのは、ちょっと怖いところもあると思っていて。 私自身が過去に、いつのまにかその人に好かれるために変わろうとしていた経験があって、それで自分をなくしちゃったことがあるんですよね。なので、1番いいのは自分自身が自分を愛することだと思っています。ありのままの自分を受け止めるということですね。それができて初めて、他者を愛せるような気がしていて、それが「LOA」です。やっぱり疲れてる時は、人を愛せないじゃないですか?
ーー余裕がない時ほど。
そうそう、ちょっと冷たくしちゃったりとか。「なんだよあいつ」とか思っちゃうし。 でも、すごく機嫌がいい時や体調がいい時って、ちょっと優しくできる。
ーー相手はいつもと同じなのに(笑)。
そうです! その人はいつも通りなのに。自分自身に余裕があれば、きっと人のことも愛することができるはず。なので、自分の心が健康であることが必要だと思うんです。まずは自分を愛で満たして、心のコップをいっぱいにして、溢れてからやっと周りの人に伝えられるんじゃないかなって。私は1stアルバムでそのコップをいっぱいにすることを続けて、今回の2ndアルバムで、コップから溢れ出した中から「Love One Another」というテーマが出てきた感じですね。
ーー自分自身と向き合い尽くして、愛せるようになったFuruiさんの言葉だからこそ説得力があるんですね。「Super Star」で歌われているように、自分のことが好きといえるようになれたら、というのは生きていく上ですごく大切なヒントのような気がして。
自分の好きなものがわかんない人もいますからね。何がしたいのかとか。
ーー好きなことがあっても周りを気にして言えない、言っちゃいけない気がするとかも。
確かにそれもありますよね。私もずっとそういうふうに過ごしてきたから、すごくわかります。「Super Star」は自分は何が好きなのかを探しに行こう、という歌です。 普通に生活しているだけでも毎日忙しいから、なかなか自分と向き合う時間はないと思うんです。それに自分は何がしたいのかを考えるのって、自分のできないことに直面しなきゃいけないから疲れるし、傷つくし……。 でも、それをやらないともったいないとも思っていて。何も考えず、人生をそれなりに楽しく生きていくのと、自分で何をしたいか考えて、やりたいことをやって、経験して、成長して、たくさんのものを得る人生を比較してみると、私は後者の方がやりたかった。すごく時間がかかりましたけど、自分と見つめ合ったからこそ、私は好きなことややりたいことが見つかったし、「Love One Another」という人生のテーマを見つけることができたので、辛いこともあったけど良かったなと思っています。
「めちゃくちゃみんなに愛されて、みんなをめちゃくちゃ愛したい」
人生の最終目標、そしてルーツであるゴスペルの魅力について
ーーちょっとアルバムから逸れてしまうかもしれないですけど、そうして自己を見つめて、見つけた一番やりたいことは、音楽ということでしょうか? それとも「Love One Another」という指針でしょうか?
私にとっては音楽でしたね。辞めようと思ったんですよ、5年前に。音楽で売れなきゃ自分に価値がない、と変に固執していたところがあって。だけど全然売れないし、もう辞めて就職活動をして働こうかなと考えたこともあったんですけど、 やっぱり音楽を手放せなくて。それは自分と向き合っていくうちに、やっぱり音楽をやりたいんだとわかったんです。どういうアーティストになりたくて、どこに向かっていくのかと言えるようになったら、ゴールが明確になって生きるのが楽になりました。
ーー音楽を通して、向かうゴールというのは?
最後の目的地は、私が死んで目を閉じるその瞬間に「あたしの人生、めちゃくちゃみんなに愛されて、みんなをめちゃくちゃ愛して、超幸せだった。うん。さよなら!」で、チーン! って人生を終えるのが目標です! 今は、そこに向かって生きてて、その目標を音楽で叶えようとしています。それが自分の理想像。どうすれば音楽で実現できるかというのは、やっぱりまずは自分を愛して、みんなを愛することだと思っています。それが「Love One Another」であり、私はそういう人間になりたいんです。みんなに愛される素敵な人間になりたい。それが最終目標です。
ーー今回のアルバムは、今までの自分と向き合ってでた答えの1つが残された作品であり、さらにこれからの指標でもあるんですね。
そうなんです。だからひとつのゴールでもあるので、次の作品からどうしようかなと困っているくらいです(笑)。
ーー「We are」は、先ほどの「Your Love」から派生して生まれたんですよね。1つの楽曲が、2つに分かれたということでしょうか?
2019年に、私のゴスペルの師匠でもあるSayo Oyamaさんのピアノで弾き語ったデモがあって、それがすごくいい曲だったんですね。「めちゃくちゃいい曲だから絶対リリースしよう!」と言って、2人で作り始めたんですけど、その時の私にはちょっと大人っぽすぎて。それと、リリースのタイミングが夏だったので、もう少しポップにしてみたのが「We are」です。それからしばらくして、「LOA」を作った時から私のルーツであるゴスペルに回帰することをテーマにしていたので、ゴスペルの要素を入れた曲を作りたいと思った時に、あのデモがあるじゃないかと引っ張り出して、元々のデモに忠実に作っていたのが「Your Love」でした。
ーー曲のルーツが同じなんですね。
そうなんですよ。なので、コード進行もちょっと似てるし、実はメロディーも若干似てるとこがあって、そこをあえて残しています。
ーー「We are」では<あなたのためなら頑張れるのよ>と歌われていたり、<君>との関係で相対的に感じることができる愛について歌われていることが印象的でした。「Your Love」のタイトルだけを見ると、愛は単数(一人称)なのかなと感じたのですが、「We are」を聴いて、それぞれ同じルーツの曲だったと知って納得です。
意図的ではないんですけどね。確かに、どちらも自分と他者との関係の歌ですね!
ーールーツであるゴスペルをより意識されたとおっしゃっていましたが、Furuiさんはどういうところにゴスペルの魅力を感じますか?
いくつかあるんですけど、なにより歌っていて楽しいところです。ひとりで歌うより全然楽しい! みんなで声を重ねる喜びもあるし、ハーモニーが重なった時はすごく気持ちがいいし。ノリノリな楽曲もたくさんあるので、みんなで手拍子しながら歌っていると心がワクワクする。それから、みんなの気持ちが高揚して盛り上がった時に、涙が出るぐらい感動する瞬間があるんです。これは、ゴスペルが聖書を基にしてできた歌で、教会の礼拝で歌われていたというルーツもあるからだと思うんです。例えば、アメリカのハーレムにある教会に行くと、「助けて」「ありがとう」という切なる思いをぎゅーっと歌詞に込めて歌っていて、聴いていると心が震え上がるんですよね。その力をゴスペルを歌ってる時は特に感じますし、 自分がクリスチャンでなくても、目に見えない心を揺さぶるなにかを感じることができるんです。 それは、ゴスペルを歌ってる時にしか感じられないもので、思わず涙が出てくるようなすごい魅力だと思っています。そう思うと、今お話ししながら改めて、私の中にはずっとゴスペルがあったんだと感じました。ライブにも楽曲にも、無意識に取り入れている部分があると思います。一番好きなので、ゴスペルを歌っている時が!
ーーゴスペルの魅力は、音源はもちろんライブでさらに感じられるものですよね。
一緒に歌えたらより楽しんでいただけるはずです! 「Super Star」「We are」とかノリノリで楽しめる曲もあれば、「Your love」とか「Friends」とかちょっと心にグッとくるような曲も意識して作っているので。ゴスペルは上手に歌えなくても大丈夫なので、ぜひ一緒に歌って欲しいですね。
取材・文=大西健斗 撮影=ハヤシマコ