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人気絶頂期に21歳の若さで事故死し〝和製ジェームズ・ディーン〟とも呼ばれ伝説となった〝日活第三の男〟トニーの主演映画のヒット主題歌 赤木圭一郎「霧笛が俺を呼んでいる」

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人気絶頂期に21歳の若さで事故死し〝和製ジェームズ・ディーン〟とも呼ばれ伝説となった〝日活第三の男〟トニーの主演映画のヒット主題歌 赤木圭一郎「霧笛が俺を呼んでいる」

 昨年10月、11月にCS放送のチャンネルNECOで赤木圭一郎主演映画『霧笛が俺を呼んでいる』が放送された。以前にも何回も観ていたが、今回、改めて録画し繰り返し観るうちに、俳優・赤木圭一郎の魅力をまざまざと見せつけられたような気がした。現在活躍している若手俳優たちを見渡してみても、赤木圭一郎のような個性の俳優は見つからない。僕は気がつけばこの映画の同名主題歌「霧笛が俺を呼んでいる」を口ずさんでいた。

 赤木圭一郎は1958年、日活第4期ニューフェイスとして日活へ入社し、石原裕次郎主演の『紅の翼』に群衆の一人としてエキストラ出演し、スクリーンデビューを果たすが、赤木圭一郎の名が初めてクレジットされるのは、59年の『狂った脱獄』で、その次の作品『拳銃0号』で演じた不良少年役が評判になり、同年に鈴木清順監督の『素っ裸の少年』では不良少年のリーダー格役で、早くも初主演を果たす。そして続く『清水の暴れん坊』では石原裕次郎と初共演となり、話題を呼んだ。スター裕次郎と、次世代を担うスター候補生として期待を寄せられていた赤木圭一郎の顔会わせは、裕次郎や浅丘ルリ子、また、監督の中平康、蔵原惟繕らを見い出した日本映画初の女性プロデューサーで、NHKの人気番組「ジェスチャー」の紅組キャプテンとしても人気があった〝ターキー〟の愛称でも知られる名プロデューサー水の江滝子のアイデアだった。クライマックスでの裕次郎と赤木圭一郎の向き合う場面は大いに見応えがあった。ヒロイン役で北原三枝が、赤木の姉役で芦川いづみが共演している。赤木圭一郎の名前がクレジットされた作品だけでも、59年には12作を数える。
 そして、60年には赤木圭一郎を一躍スターダムにおしあげる『拳銃無頼帖』シリーズの4作が公開されている。赤木が拳銃使いを演じ、宍戸錠がライバルとなる殺し屋を演じる人気シリーズだ。第1作の『抜き射ちの竜』、第2作の『電光石火の男』ではヒロインを浅丘ルリ子が演じている。シリーズ第3作『不敵に笑う男』、第4作『明日なき男』でのヒロインは笹森礼子。『電光石火の男』は、吉永小百合の日活デビュー作で、続く『不敵に笑う男』にも出演している。赤木圭一郎は、50年代から60年代にかけて人気があったハリウッド・スター、トニー・カーティスとどことなく風貌が似ていたところから、いつしか〝トニー〟の愛称で呼ばれるようになっていた。

 そして、映画『霧笛が俺を呼んでいる』も60年公開の映画である。この映画の企画も水の江滝子によるものだ。日活お得意の港町・横浜を舞台にした船乗りの男を主人公にしたサスペンス・タッチのアクション映画で、横浜港で外国船を一人でながめている時間が好きだったというトニー念願の航海士役で、相手役は芦川いづみ。吉永小百合も出演している。そして、トニーが歌う同名主題歌「霧笛が俺を呼んでいる」がヒットした。裕次郎や小林旭はじめ日活の俳優たちがそうであったように、裕次郎、旭に続く〝日活第三の男〟トニーもそれ以前にもたびたび主題歌を歌っていたが、いままでにないヒット作となった。その主題歌がラストシーンで流れてエンドマークが出るのだが、このシーンは、記憶に残る印象的なエンディングだった。

 事件が解決し、横浜港を歩くトニーと芦川いづみ。トニーが船に乗るのを見送るのだ。トニーの白い航海士の制服がよく似合っている。

芦川「今度の航海はどれくらいかかりますの」

赤木「約4か月です」

芦川「お帰りは冬になりますね」

赤木「でも、僕はもしかすると当分日本には帰りません」

芦川「どうしてですの」

赤木「ケープタウンの友人と一緒に働くつもりです」

芦川「ずいぶん遠いところですのね」

赤木「悪い夢は消してしまいたいんです。浜崎(悪事に手を染めて死んでしまう友人で葉山良二が演じた。吉永小百合はその妹役)のいい面だけが思い出せるようになったら、また戻ってきます」

(中略)

 芦川「私もこれから平凡な生活でいいから自分の本当の幸せをつかみたいと思いますの」

 赤木「きっといい人に会えますよ。目まぐるしい数日で、哀しいことも多かったけれど、あなたと一緒で楽しい時もありました。最初の霧の晩、ホテルの窓辺で初めてあなたとお会いしたときの霧笛が今でも耳に残っています」

 芦川「さよなら」

 赤木「ごきげんよう」

と握手して去るトニーの背中を見送る、どこか未練をかかえたまま佇むなんとも切ない表情の芦川。そして何かをふっきったように歩き出す。そこに「きりーのはとばに……」とトニーが歌う主題歌が流れ出す。トニーのどこか不器用な歌い方が、むしろ情感がにじみ心に迫ってくる。裕次郎とも小林旭とも違う魅力的なヒーローだ。

 日活撮影所での撮影の昼休み、輸入代理店のセールスマンが持ってきたゴーカートの試乗中の事故だった。その6年前に、やはり自動車事故でジェームズ・ディーンが24歳の若さでこの世を去ったことから、〝和製ジェームズ・ディーン〟と言われた赤木圭一郎。格別仲が良かった宍戸錠は、赤木の死に顔を見て「まるでハリウッド・スターのルドルフ・ヴァレンティノのようだった」と語っている。いずれにしても、〝日本人離れしたムード〟と言われていたことを裏付ける。

 俳優としての活躍は約3年と短い期間だったが、30作くらいの映画に出演した。後年、小林旭は「もし、赤木が生きていたら、俺も裕次郎も霞んでいた」とそのスター性を高く評価する発言をしている。また、雑誌の取材で一緒になったことをきっかけに、加山雄三とは日活と東宝という映画会社の垣根を越えて、赤木の死まで親しくしていたという。3年間という限られた俳優人生だったが、流星のような光を遺してくれた赤木圭一郎。死後7年経った68年まで、プロマイド売上は男性部門のベスト10位内に入り続けた。その姿を思い浮かべるとき、BGMには「霧笛が俺を呼んでいる」の歌声が流れている。

 今回のイラストは、レコードがリリースされた当時のジャケットではないが、パナマ帽のようなストローハットを阿弥陀にかぶったトニーのムードがよく出ているので、こちらのジャケットを紹介したい。

文=渋村 徹 イラスト=山﨑杉夫

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