注目の“縦の旅行”とは?「子どもの世界観」を広げる体験価値の考え方
臨床心理士・公認心理師のyukoです。今、ノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロが語った「縦の旅行」「横の旅行」という言葉に注目が集まっています。子どもの価値観を広げるためには、ただ家族行事をこなしたり、旅行に行ったりするだけでは十分ではありません。どんな旅行が子どもにとって必要なのかを考えます。
ノーベル文学賞受賞者が語る、現代社会の危うさ
地域を超える「横の旅行」ではなく、同じ通りに住んでいる人がどういう人かをもっと深く知る「縦の旅行」が私たちには必要なのではないか。自分の近くに住んでいる人でさえ、私とはまったく違う世界に住んでいることがあり、そういう人たちのことを知るべきなのです。
これは、2017年にノーベル文学賞を受けたイギリス人小説家のカズオ・イシグロ氏がパンデミック以降の世界の変化に関して語る中で述べられた言葉です。
記事の中では、「インテリ系(=知識人、教養を持った人)は一見、世界を広く旅行し、国際色豊かな交流をしていると思われがちだが、実際はどこへ行っても自分と似たような人たちとしか会っていない」とも指摘しています。
日本とは文化の異なる国に住み、いわゆる一般的な階級とはほど遠い話をしているのかもしれませんが、この知見は私たちにもあてはまる重要な考え方のように思います。
イギリスやアメリカでは、通り一本隔てたところに所得や社会的な地位が全く異なる人が暮らしている状況が多々あります。
日本における格差社会はそれほどまで極端ではなく、近隣の地域に住む世帯は似た所得の方が多いでしょう。
ですが、自身の有する所得で暮らす文化や地域の中で、「見たいものだけを見ている」点は世界に共通する特徴といえるのではないでしょうか。
親が子どもに見せている「世界」の狭め方と広げ方、子どもの視野を広げる「旅行」について、考えていきます。
親は子どもにどんな世界を見せている?
教育熱心な方や経済的に余裕がある方は、子どもによりよい経験をさせようと試行をこらしている方も多いでしょう。
・夏休みは家族で沖縄に行ってシュノーケリングやダイビング、冬休みは北海道でスキー旅行に行くのが定番。
・幼少期から、体操・ピアノ・スイミングに通い、小学校からは予備校にも通わせている。
・よい仲間と質の高い教育を受けてほしいので、幼稚舎や小学校から高校までエスカレーター式の一貫校。
今の日本において、このような家庭は理想的であり、羨望の眼差しを向けられる対象のように感じられます。
たしかに、充実した教育環境やパッケージ化された自然体験、安心できる人間関係は大切ですよね。
それに、金銭的に余裕がないと、させてあげられない経験や所属が難しいコミュニティがあるのは事実です。
ですが、偏差値や学費の高さ、子どもに投資する金額の多さだけが、子どもの心の豊かさに反映されるといえるのでしょうか。
「親が考えた最善のレール」に乗せ、今いる環境に甘んじてしまうと、子どもの視野を狭めてしまうかもしれません。
綺麗でわかりやすい世界のみではなく、本当の意味での広い世界にも目を向けられるような関わりも、子どもにとっては必要なのではないしょうか。
子どもにとって必要な「旅行」とは?
決められた場所で、大人が「よい」と決めた価値観の中で、限定された情報のみを学ぶのではなく、幅広い視野を養っていくのも必要です。
今ある環境をがらっと変えるのは難しいですが、日々の関わり方を見直していくのも大切です。
・子どもが選んだ交友関係には極力口を出さない。
・小学校・中学校から私立に進学したとしても、地元の子との繋がりを維持し続ける。
・親の知り合いの子どもなど、学校や地域に留まらない交友関係を作る。
・旅行先や観光地をいつもとは変えてみる。観光地化されていない地域に足を運んだり、コアなスポットに行ってみる。
・親が持っている文化や宗教、地域への偏見や価値観を自覚して、子どもと一緒に多角的な情報を学ぶ。
人が人を育てる中での正解はありませんし、偏りや個性は必ずついてくるもの。
ですが、自身の家の特徴や偏りを自覚せず、「これが常識だから」「普通みんなこうだから」と定めてしまうと、子どもが見る世界も狭まっていきます。
子どもを「正しい道に導く」ばかりではなく、子どもと「新しい世界を旅行する」ような視点も大切にしていきたいですよね。
引用資料
東洋経済オンライン カズオ・イシグロ語る「感情優先社会」の危うさ
yuko/臨床心理士・公認心理師