【東京都内】看板猫のいる店6選。愛し愛され生きる彼・彼女らの物語
日々、さまざまな人と接して過ごしている看板猫たち。店の子になったきっかけは、みなそれぞれ違うけれど、人を愛し、愛されながら生きる彼・彼女らの素顔に迫る。
9SARI CAFE & BAR(クサリ カフェ アンド バー)
物おじしない柔軟さ。名は体を表すのかも『Gallery éf』【田原町】
「猫が下りたがっているので連れて来ていいですか」。ランチタイムが一段落したカフェでスタッフの晶子さんからひと声。はい、喜んで!
階段から現れたのは、白黒ハチワレのすずのすけだ。
「普段は2階で寝ていることが多いですが、下りたい時は鳴いて上で待ってますし、『お客さまがお呼びですよ』と言うとちゃんと起きて来るんです」
2014年、常磐道で拾われた時は推定生後6カ月。名前は店の母体である金属会社にちなみ、金属の「錫」から取った。浅草の旧店舗ですくすく育ち、2022年に移転した今の店にもすぐになじんで、誰にでもフレンドリー。だが、決してテーブルに上がらず、料理にも手を出さず、分をわきまえ静かに座っている。お気に入りのマットの上で“腰トントン”や背中を撫でられるのが大好きで、手を止めると振り返り「やめんのか?」と言わんばかりにじっと見つめてくる。
「だんだん、目で訴えるというか、言いたいことがなんとなく分かるようになりましたね。人間らしくなってきたのかな」とほほえむ晶子さん。
柔軟な金属で、酒や水をまろやかにする錫。名は体を表すのか、すずのすけは今日もしなやかに店に下り立ち、私たちの心をほぐしてくれる。
『Gallery éf』店舗詳細
Gallery éf(ギャラリー エフ)
住所:東京都台東区寿4-6-11/営業時間:11:00~17:00(ランチは12:00~14:00)・18:00~22:00(水・金・土のみバータイム営業)/定休日:月・火/アクセス:地下鉄銀座線田原町駅から徒歩4分
二人三脚の相棒はさみしがりで食いしん坊『和紙ラボTOKYO』【新御徒町】
佐竹商店街から脇に入った和紙工房。作業する篠田佳穂さんの傍らで、キジトラ混じりの三毛猫が体を丸めて眠っている。
和紙の“紙”、そして福の“神”にあやかり名付けられたかみは、2022年に突然現れたさまよい猫。エサをせがんで店に居座り、根負けした篠田さんに一時保護されるも飼い主は見つからず、里親トライアルもうまくいかず、最終的に看板猫となった。
「家でも店でも二人なので、私が少し外出しただけでも人形をぶん投げてさみしさをアピールするんです」
夜明け前から「おやつ! ごはん!」と篠田さんを叩き起こすほど、食いしん坊なかみには楽しみな時間がある。ワークショップだ。
「おやつあげが特典なんです。日本の方も外国の方も喜んでくれますよ。かみちゃんは遠目で様子を見ていて、そろそろかと思うと近づいてきます」
そんなかみは篠田さんにとってどんな存在かと聞けば、「相棒です」と即答。「店を一緒に切り盛りしてる感覚なんです。手すき和紙作りは原料を叩くのに大きな音がしますが、かみちゃんは全く動じない。そこが好きだし、彼女がここを選んで来たのだなあとつくづく思うんです」。かみはきっと天職を見つけたのだ。
『和紙ラボTOKYO』店舗詳細
和紙ラボTOKYO
住所:東京都台東区台東3-30-2 市川ビル1F /営業時間:11:00~17:00/定休日:日・祝/アクセス:地下鉄大江戸線・つくばエクスプレス新御徒町駅から徒歩4分
本性は二人だけが知る猫かぶりなアイツ『古本らんだむ』【新秋津】
小説に漫画、実用書と本を物色していると、足元に黒い影。が、目が合った瞬間に身を隠し、ダミ声で「みゃあ」とひと言店主に鳴いた。
「アイツ、知らない人と目が合うと逃げちゃうビビリなんですよ」
丹波静樹さんが指すのは黒猫のラムネ。2020年、友人宅に迷い込んできた猫だ。妻の葉月さんと「黒猫を飼いたい」と話をしていた矢先のことで、縁を感じて引き取った。
「お客さんには『大人しい子ですね』と言われますけど、全然(笑)。内弁慶で、本当によく鳴きます」と、丹波さん。葉月さんも「まさに猫かぶってます」と苦笑する。
店内にはラムネの居場所があちこちに。「高い所が好きで、本棚に上ろうとして本と一緒に落ちてきたことも。危ないので上れる場所を作りました」と丹波さん。また、ビビリなのに外に出たがりで、万が一店から飛び出してもパニックを起こさぬようにと散歩もする。ラムネの大好きな日課でなんと1日5回も! 「外でトイレは絶対しない。ただコイツ、虫とかカナヘビとか捕まえちゃうんです」。
丹波さんが発する“アイツ”“コイツ”ににじみ出る愛情。手のかかる子供のようなラムネに、二人は今日もうれしそうに振り回される。
『古本らんだむ』店舗詳細
古本らんだむ
住所:東京都東村山市秋津町5-25-94/営業時間:10:30~22:00(月・金は12:00~、日は~21:00)/定休日:水/アクセス:JR武蔵野線新秋津駅から徒歩2分
人懐っこさも受け継いで堂々デビューの3代目『musubi -くらしのどうぐの店-』【谷保】
店舗と事務所と住まいを兼ねた2階建ての家に、黒猫スミがやってきた。開店して13年、3代目となる看板猫だ。店舗から続く小上がりには家族が集う台所と食卓があり、買い物しながら生活の気配を感じられる設計になっている。
スミの定位置は上がり口あたり。「開店時間には、いつものポジションにちゃんと座っているんです」と、店主の坂本眞紀さんは感心する。「お客さんが来ると遊んでもらえるので、それがうれしくて待っているのかな。人が大好きなんでしょう」と分析。誰にでもフレンドリーで、人懐っこくおだやかな性格は、2代目の白黒ハチワレ猫トトとそっくりだ。
「昨年(2023年)、トトは急に亡くなったのですが、たくさんの方が弔問に来てくださってびっくり。慕われていたんだなあと、とてもうれしかったです」
半年が過ぎた頃、次の猫を考え始めて譲渡会へ。「たまたま出かけたつもりが、出会ってしまいました」。
眞紀さんがセレクトする『musubi』の商品は「天然素材で、使い勝手が良くて続けられるもの」が基準。まず普段使いしながら試し、自信を持って薦めているが、スミもウール素材のマットから離れず「気持ちいいよ」と、さりげなく宣伝している。
『musubi -くらしのどうぐの店-』店舗詳細
musubi -くらしのどうぐの店-
住所:東京都国立市富士見台1-8-37/営業時間:12:00~18:00/定休日:日・月・火/アクセス:JR南武線谷保駅から徒歩5分
酒を飲むほど好かれる!? 接客上手な猫たち『4C’s Bar ROSSO(ヨッシーズ バー ロッソ)』【新宿】
「きっかけはネズミ対策ですよ」。猫が店にいる理由をにこやかに明答するマスター吉池忠男さん。自身が保護したキジトラの千恵蔵(故)を店に連れて来たのが始まりだ。その後、近くの店から譲り受けた三毛の琥珀(こはく・12歳)、置き去りにされていた白黒の奈々(11歳・家出中)、小梅(故)と増えていき、開店10周年を迎えた2024年現在は、琥珀、メル、マル、ピノコ、シャルがスタンバイする。
猫たちは控え室になっている3階と2階にある店内、外を自由に行き来するので、タイミング次第で遭遇できない夜もある。そんな時は吉池さんが「上に誰かいたら連れて来て」と、恋しい気持ちを察してくれる。
人と猫の心地よい接客と酒に酔い、そろそろ引き上げようかとお勘定をお願いするや否や、どこからともなくマルやメルが膝に乗ってくる。温もりと重みにうれし負け、もう一杯飲ませる営業力は天晴(あっぱ)れだ。
さて、ネズミはどうなっただろう。「猫が来た途端、店の中にはいなくなったけど、そこらのネズミやハト、トカゲを獲って来る」と苦笑い。
新宿ゴールデン街は、人に愛され人を遊ばせ、野性本能も発揮できる街。猫が住みたい街にランクイン!?
『4C’s Bar ROSSO』店舗詳細
4C’s Bar ROSSO(ヨッシーズ バー ロッソ)
住所:東京都新宿区歌舞伎町1-1-10 ゴールデン街G1通り2F /営業時間:18:00~翌2:00(金・土・祝前日は~翌5:00)/定休日:第1日(不定あり)/アクセス:JR・私鉄・地下鉄新宿駅から徒歩8分
自由奔放な元野良猫。そこが似てる俺もお前も『9SARI(クサリ) CAFE & BAR』【西早稲田】
ラッパーの漢(かん) a.k.a. GAMIが率いるヒップホップレーベル『9SARI GROUP』。その直営カフェには2匹の看板猫がいる。店長のキューと副店長のエルフだ。
「キューは9SARIの9(キュー)から、エルフはオランダ語で11という意味。キューとの出会いは、店ができる直前の2014年です」と漢さん。店の裏でずっと鳴いている子猫がいて、周りには母猫も見当たらない。不憫に思った漢さんは保護して育てることに。
「当時は僕の吸っていた赤マルぐらい小さくて。添い寝のとき、いつも甘えて耳を噛んでくるんです」
エルフを近所の知人に譲ってもらったのは、その約1年後。おっとりした性格で、人見知りらしい。
「対してキューは好奇心旺盛で逃走癖もある。一度家出をしたときは、スタッフ総出で探した。やっと見つけたら野良のメスとじゃれてて(笑)」
元野良だけど運動神経が良くなく、鳴き声も華奢。そんな弱い部分にも愛着が湧くのだそう。
「ただ、最近キューはあまりなついてくれなくて」と我が子の親離れを嘆く漢さん。黎明期からバトルシーンを盛り上げてきたゴリゴリのラッパーが見せる猫への溺愛——そのギャップにも愛着が湧いてしまった。
『9SARI CAFE & BAR』店舗詳細
9SARI CAFE & BAR(クサリ カフェ アンド バー)
住所:東京都新宿区大久保3-13-1 都営西大久保アパート1号棟 1F/営業時間:12:00~21:00LO(日は~19:00LO)/定休日:水/アクセス:地下鉄副都心線西早稲田駅から徒歩2分
取材・文=下里康子(Gallery éf、和紙ラボTOKYO、古本らんだむ)、松井一恵(musubi、4C’s Bar ROSSO)、鈴木健太(9SARI CAFÉ&BAR) 撮影=鈴木奈保子(Gallery éf、和紙ラボTOKYO)、鈴木愛子(古本らんだむ)、高野尚人(musubi、4C’s Bar ROSSO)、佐藤侑治(9SARI CAFÉ&BAR)
『散歩の達人』2024年12月号より
※猫の年齢は2024年11月時点。