元スタバ店員の産業保健師が「バリスタ保健師」として活動するワケ。
※ご本人のご了承のもと、noteから画像を引用しております。
スタジオパーソル編集部が、世に発信されているさまざまな個人のはたらき方ストーリーの中から、気になる記事をピックアップ。
今回は、大手企業からスタートアップ企業への転職について語った記事をご紹介します。
Shino.さんは、現在、はたらく人々の健康を支えたいという目標を掲げ、企業で産業保健師としてはたらく傍ら、“バリスタ保健師”としても活動されています。28歳の時に、「今のはたらき方では自分のやりたいことが実現できない!」と感じたことから、スタートアップ企業へ転職した話をnoteに投稿しました。
※本記事の引用部分は、ご本人承諾のもと、投稿記事「大手企業を辞めて、スタートアップの保健師に転職した理由」「バリスタ保健師の働き方。コーヒーを通して「働く人」の健康を支えたい。」から抜粋したものです。
保健師を目指したきっかけは、がん患者さんとの出会い
もともと養護教諭を目指していたShino.さんは、看護師と保健師の資格を取得できる大学に進学します。しかし、実習の中で40代男性の肺がん患者さんと出会い、価値観に大きな変化が。その患者さんが入院中、お見舞いにはご家族や同僚の方が訪れていました。
「もっとはやく、たばこをやめていたらよかった……」との男性の一言に、「病気になってから後悔するのは遅いのかもしれない」という考えが頭をよぎります。その患者さんと自分の父親が重なり、ご本人やご家族の気持ちに想いを馳せたそうです。
まだ社会人経験がない学生の私は、その方の立場になって状況を理解することは少し難しかったので、自分の父親に重ねて考えていました。お父さんが病気で入院のために数ヶ月家にいない、会社を休む。娘の立場で想像したとき、すごく悲しく不安な気持ちになりました。
大手企業を辞めて、スタートアップの保健師に転職した理由 より
この出来事をきっかけに、「今よりも健康な状態をつくることができたら、みんなが笑顔で楽しく過ごせる時間が増えるのではないか」と、Shino.さんは病気の治療ではなく予防に関心を持つようになります。また、人生の中で多くの時間を占めるのが仕事。「はたらく世代」の健康予防に関わりたいと、従業員と対等な立場で健康のサポートができる産業保健師の道を目指すように。
大学卒業後、大手電機メーカーの産業保健師としてはたらき始めたShino.さん。これまでに、約9,000人の従業員の健康管理と面談をしてきたと言います。そこで分かったことは、「健康診断の結果から見えるものが、すべてではない」という事実。
健診結果は特に大きな問題がない従業員さんが「辛いし大変なこともあるけど、この面談で1年に1回会って話聞いてもらえるのが結構救われるんだよね」と話してくれた時、安心して話せる時間・空間に需要があることに気づきました。
バリスタ保健師の働き方。コーヒーを通して「働く人」の健康を支えたい。 より
Shino.さんは従業員の方々と関わる中で、生活やはたらく環境によって健康状態が大きく影響されることも痛感します。
製造現場の工場では、休止時間を知らせるために決まった時間に音楽をかけて、社員が休憩しやすい環境を整えていました。はたらく環境や仕組みがどのように設計されているかという視点で、健康を考える重要性に気が付きます。
個人の悩みや健康相談など1対1の支援ももちろん大切な関わりですがどのような環境があれば人が健康的でいられるのか、会社(組織)の課題を理解した上で健康的な組織の体制をつくっていく支援ができるのは、産業保健職の視点をもつからこそできる強みであると思います。
大手企業を辞めて、スタートアップの保健師に転職した理由 より
その一方で、不調を実感しづらい20〜30代の、健康予防に対する意識が低いことにもどかしさを感じていました。
「健康診断は会社で受けてるけど結果が返ってくるだけで医療職との面談はない。産業医の存在は知ってるけど健康に問題がある人が会うイメージ。」「基準値超えてるのはちょっと気になるけど、見方もよくわからない。A判定だから大丈夫だと思ってる。」というみんなの話を聞いて、なんてこったと思った。
バリスタ保健師の働き方。コーヒーを通して「働く人」の健康を支えたい。 より
そんな状況に気づいたShino.さんは、とある活動を始めます。
コーヒーを通して「みんなの保健室」のような居場所づくりを
誰でも気軽にちょっとした相談ができる「みんなの保健室」のような居場所があればいいのではないか。「ないなら私が作ればいい!」と、コーヒーを入口に社員とコミュニケーションを図る、バリスタ保健師としての活動をはじめます。主な活動は、コーヒーを淹れながら、みんなの話を気軽に聞くこと。
コミュニケーションのきっかけにコーヒーを選んだのは、気軽さが1つの理由でもありますが、学生時代のスターバックスでのアルバイト経験も大きかったと語ります。コーヒーの知識に詳しい人が行うことで、自然なかたちでたくさんの人と対話できると感じていたと言います。
仲良くなったコーヒーを淹れてくれる人が、健康に詳しい人だった。コーヒー飲むついでに、最近ちょっと気になることを聞いてみよう。
大手企業を辞めて、スタートアップの保健師に転職した理由 より
今は特に困っていない元気な人は、あらたまって健康相談には来ない。でも、誰かに気軽に話を聞いてもらう場があれば、きっと心や体が不調になる前に、健康について考える機会をつくれるはずだと、Shino.さんは考えたのです。
おいしい、たのしい、うれしいを感じること自体、心の健康につながるけど、そのうれしい気持ちを人と一緒に共感して繋がりをもつことは健康にプラスになります。
バリスタ保健師の働き方。コーヒーを通して「働く人」の健康を支えたい。 より
バリスタ保健師としての活動は、ありがたいことにはたらく人からの反応も良かったと語ります。一方で、「出会った人にしか機会をつくれない」「会社の従業員さんの健康にしか関われない」という壁も感じることに。
自分が保健師として何をしたいのか考えた結果、健康予防について考える機会がない人たちに、もっと機会を提供したいという気持ちが芽生えたと言います。
産業保健活動の基盤を整える会社を増やしたい
その後、自分の価値観の届け方を模索していたところ、あるスタートアップ企業が目に留まります。そこでは、企業向けの健康管理のクラウドシステムを展開していました。
Shino.さんは、産業保健活動の基盤を整える会社を増やすことで、もっと多くの人の健康を支援することができるのではないかと考えます。
システムと専門職支援の両軸をBtoBでサービスとしている会社で自分自身が産業保健師として「あったらいいな」の世界がつまっていて感動しました。
大手企業を辞めて、スタートアップの保健師に転職した理由 より
健康診断などのデータがあっても、ご本人が使い方を知らなければ意味がない。その使い方を専門職が支援するという両輪を掲げていることに魅力を感じたと言います。
自分の価値観と重なる会社に出会い、そこではたらけることになったShino.さん。前職とはたらき方は異なりますが、健康予防を広めていきたいという想いは変わらないと語ります。
保健師として働くひとの健康を支援したいという軸は今も変わりません。
大手企業を辞めて、スタートアップの保健師に転職した理由 より
新しい会社ではたらくとともに、バリスタ保健師としても活動する。その先には、産業保健師の可能性を広げたい想いもあるのだとか。
かなえたいことがある。その道に近づくために、切り口を変えて軽やかに行動してみる。そうすると、新しいはたらき方や夢がかなう未来が見えてくるかもしれません。
<ご紹介した記事>「大手企業を辞めて、スタートアップの保健師に転職した理由」「バリスタ保健師の働き方。コーヒーを通して「働く人」の健康を支えたい。」【プロフィール】Shino.コーヒーを通して働く人の健康を支えたい。 コーヒーをいれて、気軽にお話をきくバリスタ保健師の活動をしています。
(文:朝海弘子)