拉致被害者・横田めぐみさん待つ約束のワインが伊賀に 30年近く酒店主が保管
「帰ったら一緒に」
北朝鮮に拉致された横田めぐみさん(失踪当時13歳)の帰りを待ち続けるワインが、三重県伊賀市上野東町の酒店「ヴァインケラーハシモト」に存在する。店主でソムリエの橋本文夫さん(76)が「めぐみさんが帰国した時に開ける」と誓い、30年近くが経った。いまだにコルクは抜かれず、時間だけが過ぎている。
このワインは、めぐみさんが生まれた1964年に収穫されたブドウで醸造。フランス・ボルドーを代表するワインの一つ、「シャトー・オーゾンヌ」で、店内のワインセラーで今も大切に保管されている。
橋本さんが拉致被害者救出の署名活動を始めたのは約30年前。そのころ、このワインの存在をめぐみさんの母・早紀江さん(89)に伝えた。父・滋さんがワインを好んでいたこともあり、「めぐみさんが帰ってきたら、みんなで一緒に飲みましょう」と約束を交わしたという。
2001年、橋本さんはめぐみさんの救出を願い、早紀江さんがラベルを揮毫した日本酒「乙女乃いのり」を発売。その後も店内でめぐみさんの写真展を開催し、今でも早紀江さんとは年に数回、手紙を交わしている。
しかし、滋さんは娘の帰国を見届けることなく、20年に89歳で他界。今年2月には、拉致被害者の有本恵子さん(失踪当時23歳)の父・明弘さんも96歳で亡くなった。政府が認定する未帰国の被害者12人のうち、親で健在なのは早紀江さんだけとなってしまった。
見えぬ解決、過ぎる時間
歴代政権は拉致問題を「最重要課題」と掲げ続けたが、北朝鮮が拉致を認め、5人の被害者が帰国した2002年以降、目に見える進展はない。拉致被害者家族会と支援団体「救う会」は2月16日、親世代が存命のうちに全被害者の一括帰国を求める新たな運動方針を発表。5月には全国一斉の署名活動を実施するという。参加方法は救う会ホームページで確認できる。
「抱きしめる日、一日も早く」
年代物のワインをおいしく飲むには、沈んだ澱を取り除くデキャンタージュが必要。「めぐみさんが帰ってきたら、私が振る舞いたい」と橋本さん。「拉致問題は『今』の問題。早紀江さんがめぐみさんを抱きしめられる日が一日も早く訪れるように」と願い続けている。