のんほいパークで<ラッコの組立骨格・はく製>展示 標本の学術的意味を学ぶ【愛知県豊橋市】
愛知県豊橋市にある豊橋総合動植物公園(のんほいパーク)で現在、ラッコの組立骨格とはく製が展示されています。展示は3月31日まで。
のんほいパークではかつてラッコを飼育。来園者たちに愛されていたラッコたちは現在、標本となり教育普及活動や調査研究に活用されています。
同園にもラッコがいたということを多くの人に知ってもらいたいとの思いで企画したといい、「お父さんお母さん以上の世代だと、のんほいパークで実際にラッコを見た方も少なくないと思うので、家族の会話のきっかけの一つになれば」と、博物館では多くの来場を呼びかけています。
ラッコが水族館から姿を消したワケ
ラッコは、毛皮を求めて乱獲されたことや生息海域の環境悪化などを理由に、野生の個体数が激減。絶滅のおそれのある生物の取引を管理するワシントン条約によって国際的な取引が規制され、1998年にアメリカからの輸入が途絶えます。
水族館でも繁殖を試みましたが難しく、かつて国内で120匹以上飼育されていたラッコは2025年3月現在、2頭のみとなってしまいました。
のんほいパークでは、1994年の極地動物館のオープンに伴いラッコの飼育・展示を開始しましたが、2014年にメスの「ヤヨイ」が死亡して以降、ラッコの飼育は行っていません。
のんほいパークで愛されていたヤヨイの組立骨格
今回、のんほいパークの自然史博物館イントロパークに登場したのはヤヨイの組立骨格です。
1994年生まれのヤヨイは、1996年にのんほいパークに来園。2014年に老衰のため死亡しました。
死亡時は、国内で飼育されているラッコのなかで2番目の高齢である19歳10か月でした。
組立骨格の見どころは?
組立骨格で注目してほしい場所は「後あし」だといいます。泳ぐ際にヒレのように後あしを使うため、後あしの指は小指が1番長く、薬指、中指、人差指、親指と短くなっていきます。
また、貝やカニなど固い殻を持った生きものをエサとするため、それらをかみ砕くための強靭な顎の筋肉がつきます。その筋肉がつく、頑丈な頭骨と上下の顎に並んだ碁石のような歯を観察できます。
別個体のはく製も展示
組立骨格のほかにも、のんほいパークで飼育されていた別個体のはく製も展示されます。小さな耳介やミトンのような前あしがみられます。
前あしに注目すると、発達した肉球や出し入れ可能なカギ爪が確認できます。
全身を覆う長い毛は哺乳類のなかでも毛の密度が高く、柔らかな質感が伝わります。
調査研究や教育普及活動に活用
のんほいパークでも人気を博していたラッコたちは、死亡した後も骨格標本やはく製として自然史博物館で大切に保管され、調査研究や教育普及活動に活用されています。
今回の展示の企画者で主任学芸員である安井謙介氏は、「ラッコを知るには生態や行動の観察だけではなく、体の形状や骨の形態を十分に調べる必要があります。そのため、死亡した飼育個体から作製した骨格標本やはく製は、野生個体からそれらを製作することができない現状において、非常に貴重な資料です」と説明します。
博物館と動物園が同じ敷地内にあるのんほいパークは、死亡した飼育個体を組立骨格やはく製といった標本として博物館として半永久的に保存し、将来にわたってそれらを利用していくことが可能なことだといいます。
安井氏は、現在普通に飼育・展示されている動物も10年後、20年後には見られなくなるかもしれないとし、「その際に標本があれば、それら動物の実態を標本から知ることができます。また、最近は 標本からDNAを取り出す技術の発展が著しく、これまで以上の情報を標本から取り出すことが可能になると思われます。次世代に標本を残すことには、大きな学術的意義があります」と語ります。
標本として第二の人生を送るラッコを通して、野生にすむラッコのことや、博物館が果たす役割について考える機会にしてみたいですね。
トピック展示「ラッコ」は3月31日(月・臨時開館)まで、豊橋市自然史博物館・イントロホールで開催。豊橋総合動植物公園への入園料のみで観覧可能です。
詳しくは、豊橋市自然史博物館の公式ホームページ内トピック展示特設ページに掲載されています。
※2025年3月7日時点の情報です
(サカナト編集部)