すぐに“キレる”我が子 もしや「発達障害」?と思ったら[児童精神科医が解説]
児童精神科医が説く「キレる子ども」の受け止め方第3回。子どものキレる行動と、発達障害について。全4回。
【イラストで見る】発達障害の特性にはいくつかの種類がある“キレる”子どものなかには、発達障害の特性が関連している場合があります。特性がまわりの大人になかなか理解されず、怒りを貯めて“キレ”てしまう。大人のほうも理由が分からず途方にくれてしまい、疲弊してしまう……。大人も子どもも疲弊し深刻化する前に何らかの対策が必要です。児童精神医学を専門とする原田謙先生の書籍『キレる子どもの気持ちと接し方がわかる本』(講談社)から、発達障害の特性と“キレる”の関係性について一部抜粋して紹介します。
発達障害の特性は理解されにくい
キレる子どもの相談を受けていると、その子に発達障害が認められることがあります。発達障害は脳機能に関連する障害です。
発達障害の特性。子どもによっては併発することも。 『キレる子どもの気持ちと接し方がわかる本』より
こちらの図のように、いくつかの種類があります。発達障害の子は脳機能の働き方が他の多くの子どもたちとは異なります。そのために心理や行動などに特定の性質が見られます。それらを発達特性といいます。医学的には、発達特性によって生活面でなんらかの支障が生じている場合に、発達障害と診断されます。
こだわりや衝動性が強い場合
子どもに自閉スペクトラム症の特性があり、こだわりが強い場合には、例えば同級生たちが遊びのルールを変更したときに強く拒絶して、トラブルになることがあります。
他の子は気にしないような細かい点にこだわって、怒ってしまうことがあるのです。結果として、親や先生、他の子に「言うことを聞かない子」などと思われてしまうことがあります。
「言うことを聞かない子」には、その子なりの理由がある。 Photo by iStock
また、ADHDの特性があって衝動性が高い子の場合、感情が即座に言動に出てしまうことがあります。
例えば同級生にからかわれたとき、それほど悪質なことを言われていなくても、感情的になって強く言い返したり、相手を叩いたりすることがあるのです。行動を制御するのが難しいときがあり、「キレやすい子」と言われる場合があります。
発達の特性は、対応次第でなくなるものではありません。持って生まれた特性です。ですから子どもの行動を直そうとするのではなく、特性によって問題が起きるリスクがあることを理解して、対応する必要があります。
追いつめられて「不適切な怒り」が出る
大人が子どもの発達特性を理解して対応できればよいのですが、うまくいかない場合もあるでしょう。
例えば、不注意の特性がある子は本人なりに気をつけていても、うっかり遅刻や忘れ物をすることがあります。そこで大人がその子の特性を理解して、不注意なところをカバーするような対応を取れればよいのですが、「ちゃんとやりなさい」と咎(とが)めてしまう場合もあります。
そのとき大人は子どもに「過去の経験をふまえて、次の行動を修正してほしい」と期待して、注意しています。子どもがその期待に応えて成長していくことももちろんありますが、発達特性があって特定のことが苦手な子は、何度注意されても、本人が「ちゃんとやりたい」と思っていても、うまくいかないことも少なくないのです。
𠮟られることが続けば、キレやすくなる
不注意な子は、気をつけていないわけではありません。本人なりに遅刻や忘れ物を防ごうとしています。それでも改善できないのです。本人もそのことに悩んでいたりします。そのつらさを理解する必要があります。
本人としては一生懸命やっているつもりなのに、大人にその努力を認めてもらえず、繰り返し注意されていたら、不満を感じるでしょう。その結果として、キレてしまうこともあり得ます。追いつめられて、不適切な怒りが出てしまうのです。
しかしそれは「発達障害の子はキレやすい」という話ではありません。発達障害の有無にかかわらず、自分のことが十分に理解されていない環境で、不当に𠮟られることが続けば、誰でもキレやすくなります。
本人なりにがんばっていても、その努力が認められず𠮟られてばかりいたら、子どもは追いつめられてゆく。 イラスト/めやお『キレる子どもの気持ちと接し方がわかる本』より
不注意な子を見ると、大人は「気が抜けている」「よく言い聞かせなければ」と考えがちです。しかしその圧力で子どもを追いつめ、より一層キレやすくさせています。
そうではなく、問題につながりやすい部分をサポートする必要があります。これは発達障害に関係なく、どの子の養育にもいえることです。
キレる問題の背景を考える
もう一度言いますが、「発達障害だからキレやすい」ということはありません。発達特性は数ある要因のなかの一つです。「特性があるからキレる」「特性がなければキレない」という話ではないのです。
ですから発達特性があっても、キレる問題に対処していくことは十分に可能です。むしろ「発達特性がある」ということがわかれば、子どもがキレる理由を理解しやすくなることもあります。
発達障害がない場合でも、一つの要因のせいにしないことが大切です。それよりも、どのような背景があるのかを総合的に考えていきましょう。発達障害以外にも「勉強の難易度が高すぎて苦しんでいる」「いじめの被害にあっている」といった背景があって、キレやすくなっている場合もあります。
背景を理解しながら、できることを考えていく。そのような心構えを持って、対応していきましょう。
子どもは何に怒っているのか?
さて、先ほど“不当に𠮟られる”という事例がありましたが、子どもが“キレる”ときの気持ちを考える上でヒントになるキーワードがあります。「不当性」と「故意性」です。
感情心理学者で、怒りの制御やマインドフルネスなどを研究している湯川進太郎氏は、怒りというのは、自分や社会に対して不当な、もしくは故意による物理的・心理的な侵害があったときに、自己防衛や社会維持のために生じるものだと定義しています。
この定義にそって考えると、なんらかの出来事によって被害を受けたとき、それを「正当ではない」または「わざと行われた」と感じた場合に、怒りが生じることになります。
例えば、子どもが家庭内のルールを守ってゲームをしているときに、親の急用で中断することになったら、その子はおそらく怒るでしょう。「自分は約束を守っているのに、どうしてこんな扱いを受けるのか」と「不当性」を感じて、キレるのです。
また、子どもが友達に悪口を言われたり、からかわれたりして怒ることもあります。相手の言動に悪意を感じて、「この人はわざとひどいことをしている」と思ったときにも、怒りがわいてくるわけです。このときに感じるのが「故意性」です。
子どもは「自分が悪いことをした」という自覚があるときには、𠮟られても激しく怒ったりはしないものです。子どもが怒ってキレるときには、多くの場合、不当性や故意性を感じています。その思いを誰かが受け止めて、理解してくれれば、子どもの怒りや悲しみはやわらいでいくのです。
大人は子どもの発言を打ち消しがち
子どもが何を不当だと感じて怒ったのかは、本人に聞いてみなければわかりません。
例えば、子どもが「学校に行きたくない」と言ったとき、親は「そんなこと言わないで」と応じてしまう。子どもの発言が期待に反した内容だった場合に、大人は即座に否定的な反応を返してしまうことがあります。この場面で親は「がんばって登校したほうがいいよ」と伝えたかったのかもしれません。しかし結果としては子どもの訴えを打ち消すような返答になり、子どもは反発してキレてしまいます。
会話は言葉のキャッチボールです。相手の言葉を打ち返していては、会話は成り立ちません。子どもが何か言おうとしているときには、その言葉をバットで打ち返すのではなく、グローブで受け止める必要があります。
子どもとの会話では、言葉のキャッチボールが大切。 イラスト/めやお『キレる子どもの気持ちと接し方がわかる本』より
子どもは急に無茶な話を始めることがあります。学校に行きたくないから「引っ越したい」などと、非現実的な要求をしてくることもあるかもしれません。それは受け入れられないでしょう。
しかし、即座に否定するのではなく、まずは「そのくらいつらいんだね」と子どもの言い分を聞いてください。受け止めることを優先し、ものごとを教えるのは後回しでかまいません。
子どもの話を聞くときのポイントは「子どもの話を否定しないこと」です。「そんなこと言わないで」と頭ごなしに否定するのではなく、まずは話を聞きます。話を聞いて、お互いに少し落ち着いてきたら、「どういうところが嫌なのかな?」と質問するのもよいかもしれません。
明確な答えが出なくてもよい
子どもに質問をしても、明確な答えが返ってこない場合もあります。そのときは、無理に聞き出そうとするのはやめましょう。「本人もまだよくわかっていないけど、とにかく抵抗を感じているんだな」と理解しておけばよいのです。「なんとなくモヤモヤするんだね」と答えておくのもよいでしょう。
子どもの言葉を繰り返すつもりで、言い換えてしまうと、子どもが違和感を持つことも。 イラスト/めやお『キレる子どもの気持ちと接し方がわかる本』より
受け止めるというよりも、包み込むようなイメージを持つとよいかもしれません。子どもが幼いときには抱っこして安心させることがありますが、それと同じように、子どもの不安な心情をそっと抱え込むようなイメージで「そうなんだね」と話を聞くのです。そうすることで、問題が解決しなくても、子どもは安心することができます。
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次回は、“キレる”我が子との信頼関係の築き方についてご紹介します。
構成/佐々木奈々子
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■今回ご紹介の書籍はこちら
『キレる子どもの気持ちと接し方がわかる本』(著:原田謙/講談社)
児童精神科医の著者が25年以上の臨床で培ってきた、キレる子どもへの対応・支援法を、マンガを交えて解説します。
「暴力の止め方」「話の聞き方」「ほめ方・𠮟り方」「発達障害の場合」など、ノウハウ的な接し方だけでなく、子どもと向き合うときに意識したい大人側の心構えも重要。ブレない姿勢で、子どものこころに寄り添いながら対応をしていくことで、キレる行動は減っていくでしょう。本書では事例をマンガで紹介しながら対応のしかたを解説。子どものこころに寄り添う対応法がわかります。
『キレる子どもの気持ちと接し方がわかる本』(著:原田謙/講談社)