【NPO文化財を守る会の霊山寺所蔵資料修理】江戸時代の表具を修理。時間の流れにあらがう作業
静岡新聞論説委員がお届けする、アートやカルチャーに関するコラム。今回は8月30日に静岡市葵区のNPO文化財を守る会事務局で行われた文化財修理の現場取材を題材に。
江戸時代の表具の修理の現場を目撃するチャンスに恵まれた。文化財保護のボランティア育成に取り組むNPO文化財を守る会の友田千恵理事長に、会員の研修を兼ねて修理現場を公開するから、とお誘いを受けた。
対象物は静岡市清水区の山間部に位置する霊山寺の資料。檀家有志が2024年9月に仮倉庫の片付けを行った際に出てきたもので、表具が入った木箱2点の傷みが激しい。修理を依頼された「守る会」でも、1点は開封できなかった。
箱が開いた1点には「悲願海」の文字があった。本堂に掲げられた扁額の下絵であることが判明した。江戸時代に中国の高僧高泉が筆を執ったものとみられる。
本紙は比較的良好な状態だったが、裏に貼られた紙や布は劣化が激しく、繊維がふわふわと分解してしまうほどだった。そこで、丁寧に本紙だけを取り外し、新たに裏打ちを行うことになった。
本紙を裏返し、レーヨン紙に載せる。霧吹きで湿らせてから刷毛で丁寧に広げていく。しわをなくし、裏紙がぴったり貼り付くようにするための下準備だ。
小麦粉由来ののりを適正な濃さに調整し、裏紙に用いる美濃紙の全体に行き渡るように塗りつける。
定規を使ってつり上げた裏紙を本紙に貼り付ける。和紙の繊維が出た部分喰裂(くいさき)を丁寧に合わせる。
文化財は災害による散逸や劣化、破損が注目されがちだが、時間の経過も大きな「敵」である。保存場所の温度や湿度の影響も受けやすい。文化財を守る会の作業は「時間の流れにあらがう」という意味もあるようだ。「ゼロから1」は難しいが、「1から10」はやり方次第。そんな心境になった。
(は)
<告知>
静岡県博物館協会は9月27日(土)、静岡市葵区の静岡歴史博物館で講習会「能登の文化財レスキューと静岡県」を開催する。能登半島地震で被災した地域で、当事者として文化財レスキューに携わった教育委員会、博物館関係者の話を聞く。
会場:静岡市歴史博物館(静岡市葵区追手町4-16)
日時:9月27日(土)午後1時~午後4時
プログラム:
「能登の文化財レスキュー 現場からの報告」張替清司さん(輪島市教育委員会文化課)
「能登半島における石川県立歴史博物館の文化財レスキュー活動」林亮太さん(石川県立歴史博物館)
「クロストーク:震災と文化財レスキュー」張替さん、林さん、静岡県博物館協会事業推進グループ
観覧料(当日):無料
申し込み、問い合わせ:静岡県博物館協会(054-263-5857)※9月24日締め切り