いつか大けがをする!自閉症息子の衝動性と物への執着、破壊行動…編み出した4つの対策
監修:初川久美子
臨床心理士・公認心理師/東京都公立学校スクールカウンセラー/発達研修ユニットみつばち
家の中で繰り返される衝動的行動
わが家の一人息子おとは、軽度の知的障害(知的発達症)を伴うASD(自閉スペクトラム症)で、知的障害特別支援学級に通う小学4年生です。
おとが歩き出した時期は比較的遅く、1歳3か月のことでした。そこから私は、おとの家の中での衝動的行動や物に対するすさまじい興味・執着に悩まされるようになりました(外出時の衝動的行動については以前のコラムをご覧ください)。
壊れゆく物、棚、家電
1~2歳時、おとによって家の棚に置いていた物が全て出され、乱雑に調べ上げられるのはもちろんのこと、物、棚、家電が数多く破壊されました。夫の趣味のレコードプレイヤーを置いていた棚は、棚とプレイヤーどちらも破壊され、レコードは割られ、CDも全てケースから出され傷だらけになり、いくつものCDケースが割れました。またおとは何度も何度も、あきらめることなくテレビ台によじ登り、いつもテレビを床に倒そうとしていました。私はテレビが倒れないようテレビとテレビ台をロープで縛り、テレビ台を柵で囲うなど対策をしていたためテレビが倒れることはほぼなかったのですが、そのうちにテレビ台が壊されました。テレビ台はなんとかガムテープや接着剤で補強して使っていましたが、次にテレビ台に置いてあったブルーレイレコーダーが壊されました。さらに音楽プレイヤーもスピーカーも壊され、電話台も壊され、リビングにある棚という棚がおとによってほぼ全て壊されました。おとは自分の絵本が入った棚だけは壊さないので、それには笑いました。
衝動的な破壊行動を止めても、とりつかれたように戻っていく
私はできるだけおとの破壊行動を止めていましたが、当時のおとに聞き入れられることはまったくありませんでした。私がおとの行動を止めて別の部屋に連れて行き、別のことに興味をそらせようとしても、とりつかれたようにその場に戻っていき、破壊行動や物の調査に熱中するのです。次々と壊されていく家具家電や物を見て、「この小さな体にいったいどれだけのパワーが秘められているんだろう」と毎日驚いていました。そしておとを制止するために、いちいち怒りつつ声掛けしてしまう自分が嫌になっていました。
衝動的行動、物への執着への対応
私は「このままではいつかおとは大けがをする、危険だ」と感じたのと、自分がいつも怒ったようにおとを制止し続けていることに嫌気がさし、対策を考えることにしました。
対策1 物を減らし、物置部屋をつくる
まず、棚が壊れたついでに物を減らすことにしました。おとに壊された物はもちろん、おとが触ると危険だと思う物は処分し、リビングにあるのは壊れかけたテレビ台とテレビ、ソファ、ダイニングテーブルと椅子、おとのおもちゃや絵本という状態になりました。寝室は、ベッドと布団と枕だけ。おとに触られて困るようなハサミなどの文房具、貴重品、趣味の物などは、1部屋をつぶして物置部屋とし、そこに全て保管し、おとが入れないようカギをかけようと考えました。しかしわが家は転勤族、会社借上げの賃貸住宅に住んでいます。よって後づけで物置部屋に鍵を取りつけることができませんでした。鍵をつける以外の対策を模索し、当初プラスドライバーを使ってドアノブを横から縦に方向を変え、おとが開けられないようにしていましたが、これはすぐに突破されました。試行錯誤して行きついたのが、縦型の突っ張り棒をドアノブの横、天井から床に取り付け、ドアノブと突っ張り棒をクッションワイヤーでぐるぐる巻きにするという手法でした。当時のおとはこのぐるぐるワイヤーをほどくことはできず、これによって私はだいぶ楽になりました。
対策2 キッチン周りの安全確保
キッチンは包丁やお皿など、触られると危険なものばかりなので、おとにキッチンに入られることは絶対に阻止しなければならないと私は考えていました。当時対面カウンターキッチンの物件に住んでいたので、リビングとキッチンの境に置くだけでOK!という売り文句のベビーゲートを置いてみました。親の制止を聞いて止まる子ならこれでいいのですが、おとはすぐに突破しました。賃貸なので両面テープやビス固定はできないものの、隙間につっぱるタイプのベビーゲートを見つけたので導入しました。このゲートはかなり頑丈で、おとはいつもガタガタと揺らして破壊しようとしていましたが、ほぼ突破されることはありませんでした。しかし、そのゲートは90cmほどの高さがあるのですが、おとは椅子を持ってきて乗り越えようとしてくるので、私はダイニングテーブルに椅子を紐で縛りつけて動かせないようにしたり、キッチン全体に鳥よけのネットを張り巡らせるなど、キッチン周辺は異様な光景でした。しかしこれらの対策によって、おとはキッチンで危ない目にあうことはありませんでした。
対策3 窓の安全確保
おとが1~2歳時は集合住宅の4階に住んでいたため、窓からの転落もまた絶対に阻止しなければなりませんでした。おとは扉の開閉のような反復行動を好んでいたので、当然窓も開閉しようとしていました。当初は窓に付属しているカギをかければよかったのですが、カギ開閉の手順は簡単に覚えてしまいました。このままだと私が目を離したすきに窓から落ちるのではないか……と思い、対策を施すことにしました。本来は防犯用に使われる二重ロックを窓に設置したところ、おとが窓を開けることはできなくなりました。私が洗濯物を干す時と取り込む時だけ、面倒ですがロックを解除して出入りしていました。窓枠の上下に取りつけることでより強度が増します。子どもの転落事故対策におすすめです。
対策4 その他の対策
洗面所では洗面台下の収納に、100円ショップで購入した粘着テープでつけるタイプのロックをつけていました。洗剤をどうしても触られたくなかったので、賃貸ですが仕方なくつけました。後で原状回復費用を支払いましたが、今考えればシール剥がし液を使って自分で剥がせばよかったです。洗濯機はドラム式を使っていましたが、いつも洗濯機本体のロックをかけていました。
またおとは色んなドアの開閉をよくしていたので、指を挟まないようすべてのドア上部にドア用のクッションをとりつけていました。玄関ドアは無策でしたが、押して回すタイプの鍵だったのと一番上の内カギにおとの手が届かなかったので、玄関からの脱走は一度もありませんでした。そもそもおとにとって家の外への脱走は、なぜかあまり興味がない様子でした。
加湿器をキッチンカウンターに置いた時は、賃貸でもDIYを楽しめるというグッズを駆使して、ツーバイフォー材と有孔ボードを使って簡易的な壁をつくり、その奥に加湿器を置いていました。このようにいろいろと対策をした結果、家の中の危険は減り、私も注意する機会が減って楽になりました。
その後、どうなったか
おとの衝動的行動は、1~2歳をピークに少しずつ減っていきました。わが家はこれまで夫の転勤でおとが0歳、2歳、3歳、6歳、8歳の計5回引っ越しをしているのですが、0~2歳の時に住んでいた家で一番衝動的行動が多く見られていた記憶です。その後もおとは衝動的行動や物への興味は依然強かったものの、徐々に力が加減できるようになり、私の言葉も少しずつ聞き入れるようになり、ついに6歳の引っ越しの際、キッチンにつけていたベビーゲートを処分しました。4年間大活躍で、ボロボロでした。粗大ごみに出した時、「これまで大変だったな。家の中で何も事故が起きなくて本当に良かった」と、私は心から思いました。
おわりに
衝動性や物への執着が強いというおとの特性に、私は当初とても悩まされていましたが、物を減らし、触られて困る物は隔離し、さらに便利グッズを活用することで悩みが減り、親子でこれまで楽に、無事に過ごすことができました。小さな子どもは思いもよらぬ行動をとりがちですが、そこに発達特性が加わると親はさらに大変なことと思います。物と向き合って便利グッズを活用することで、少しでも楽になれる方が増えれば良いなと感じています。
執筆/かほ
(監修:初川先生より)
おとくんの幼少期の衝動性や物への執着の強さ、それへの対応のエピソードをありがとうございます。なんと大変な日々だったのでしょう。かほさんが試行錯誤され奮闘された様子が目に浮かぶようなコラムでした。幼い子に対して、言葉で注意してもあまり伝わらないですし、そもそも自分の衝動性をコントロールできるほど脳が育っていません。そうするとどうしても環境調整をするしか道がないということになります。賃貸住宅かつ転勤族であられるということで、住宅側に手を加えることに限界のある中で、よくぞここまでさまざま工夫されてどうにか怪我なく事故なく今日に至られたのですねと心から感心と労いを送りたいです。お疲れさまでした。そして、おとくんの衝動性やこだわりも、永遠に続くものではなく、徐々に収まってきたとのことも何よりです。こうした展開をうかがえるのは、今まさに困っている保護者の方々にとって、一筋の明るい光だなと感じます。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。程度に応じて軽度、中等度、重度に分類されます。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。