長谷川ミラ×産婦人科医・宋美玄「いつか子どもが欲しいけど、仕事も頑張りたい」とき、どうすればいい?
「いつかは子どもを持ちたい」と思っているものの毎日の仕事や生活が忙しく、そのタイミングをいつにするべきなのか、自身のライフプランに迷いや焦りを感じている女性は少なくないのではないでしょうか。
今回は「今は仕事を頑張りたい」という理由で卵子凍結を検討したことがあるモデル・タレントの長谷川ミラさんと、女性の体について幅広く情報を発信しているほか、高齢出産の経験者でもある産婦人科医・宋美玄さんの対談を実施。
もともと親交が深いというお二人に「仕事と子ども」に迷いを抱える女性がライフプランを描く上で大切なことは何なのか、そのヒントを伺います。
仕事における自分の「頑張りどき」を決めておく
妊娠の適齢期はいわゆる「働き盛り」の頃でもあります。お二人は「仕事と子ども」についてどのように考えてきましたか?
長谷川ミラさん(以下、長谷川):数年前までは、卵子凍結をしておこうかなと考えていたんです。子どもが欲しいかどうかは正直分からなかったけど、仕事が増えているタイミングだったし、将来欲しくなったときに困らないようにしたいなと思って。
でも自分で調べたり経験者の話を聞いて、20代ではまだやらなくていいかな、と結局やめたんです。まずは一緒に子どもを育てるためのパートナー探しを優先しようかなと。
長谷川ミラさん.....1997年生まれ、現在27歳。女性の権利や社会問題に関する発信を行い、モデル、ラジオ番組のナビゲーター、テレビ番組などで活躍。専門家と一般の人をつなぐオピニオンリーダーとしての発信が評価され、2022年、雑誌『フォーブス・ジャパン』の「世界を変える30歳未満の30人」に選出された。/
宋美玄さん(以下、宋):私は子どもが2人いて、それぞれ35歳と39歳のときに産みました。いわゆる「高齢出産」ですね。
私は30代前半に胎児診断(出生前診断)を学ぶためロンドンに留学したんです。当時はパートナーはいるけれどまだ結婚はしておらず、産婦人科としての今後のキャリアを見据えてもこのタイミングしかないぞと。
でも、分野が分野だけにどうしても不妊や妊娠など高齢出産の「リスク」を実感して………。本当は3年は留学したかったのですが、1年弱で帰国したのちに結婚・妊娠・出産をしたんです。
宋美玄さん......産婦人科医。丸の内の森レディースクリニック 院長。「診療95%、メディアへの露出5%」としながらも、“カリスマ産婦人科医”として、女性の体や性の悩み、妊娠出産などについて積極的な啓蒙活動を行う。現在48歳、2児の母。
「働きたい」と考えている女性にとって、仕事を優先するか、妊娠・出産を優先するかは難しい選択ですよね。
宋:過去の私のように、出産のベストなタイミングについて常に考えてしまうのは、精神衛生上、あまりよいことではないと思います。とはいえ、加齢に従って妊娠しづらくなるリスクをまったく頭に入れていないのもよくないなと......。難しいところですね。
長谷川:先生の話を聞いていて思ったんですが、「いつか子どもが欲しい」という人は、「いつか」というのがいつ頃なのか、具体的なゴールを決めておけるとよさそうですよね。
先生が留学から早めに帰ることを選択したみたいに、「何歳までには出産したい」というゴールが見えればある程度逆算することができて、自分の選択も変わってくるのかなと。もちろん計画通りにいかないこともあるから、ゴールは仮置きくらいで全然いいと思うのですが。
宋:たしかにそうですね。ミラさんは結婚や妊娠・出産について、現時点ではどんなふうに考えられてるんですか?
長谷川:今は「子どもがいてもいいかも」と思い始めています。
私がSNSやテレビなどを通じて「自分の意見」を積極的に発信するのは、女性の健康や権利、社会問題などの「情報」を広く伝えるためだったんです。でも、ここ数年で少しずつそれらの課題意識が社会に浸透してきていると感じていて。
もしかして私の活動も何かにつながったのかな、なんて思ったら目標が1つ達成されたような気になって、ここ1年くらいは燃え尽き症候群に近い状態だったんです。なので今はいったん、仕事の「頑張りどき」を下りて、周囲との交流やパートナーづくり、子どもを産む可能性について考えてみてもいいのかなと。
宋:ビジョンがしっかりしていて、ミラさんはすごいなあ……。
長谷川:いや、もっと正直に言うと、結婚や育児って面白そうだから「そのプロジェクト、私もやってみたい!」と思うようになっただけなんです(笑)このまま仕事ばかりしていたら、今と変わらない暮らしをしている未来が想像できてしまって、ちょっとつまらないなあって。
でも、そう思えるようになったのは、仕事の目標を1つ達成できた感覚があるからだと思います。だから、自分の「頑張りどき」はいつ頃までで、何が達成できればひとまずの区切りなのかを決めておくのは大事なんじゃないかなと。
私の場合、残りの20代でパートナーを探すことが次の目標です。30歳頃までに出会えなかったらもう一度卵子凍結も視野に入れようかな、と考えています。
妊娠・出産の話題をタブー視しない
いま長谷川さんからも「頑張りどき」を決めるというお話がありましたが、ライフプランを決めきれず不安や焦りを感じる場合、どう対処すればいいとおふたりは思いますか?
長谷川:ライフプランに悩んで不安になる気持ちはすごく分かります。ただ、焦りに関しては、情報や知識が足りないこともその一因になっているんじゃないかと思うんです。
私の場合、自分の体のことや女性特有の悩み、ライフプランなどについて、学生時代の友人や業界の先輩方とよく話すんです。「生理が重かったらピルを飲んだ方がいいよ」や「乳がん検診は絶対行きなね!」といった話は、お酒を飲みながらもしょっちゅうしますね。
そういった話題についてカジュアルに話し合うことを習慣化していると、情報収集も自然とできるのかなと思います。
宋:すごくいいですね。体や性についての話は過剰にタブー視しない方が情報が入ってきやすくて、自分ができるチョイスの幅も広がると思います。
長谷川:不妊治療などセンシティブな話題もあるとは思いますが、私の周りでは生理や妊娠・出産に関して教えてほしいという姿勢で丁寧に話を聞けば、快く体験談を話してくれる方が多い印象です。
もちろんネットで検索して調べる方法もありますが、それだけだと「これさえやっておけば全て解決する」というような偏った情報が入ってきてしまうことに少し怖さを感じます。
女性の体にまつわる悩みは本当に個人差が大きいので、「リアルな体験談」が耳に入ってくるような関係性を日頃から作っておくことはすごく大事なんじゃないかなと。
卵子凍結は「全てが解決する魔法」ではない
先ほど、長谷川さんが「仕事の頑張りどき」に卵子凍結を検討したというお話をされていましたが、同じように「今は仕事を頑張りたいけれど、将来子どもがほしくなるかもしれないから」という女性の選択肢の一つとして卵子凍結があると思います。長谷川さんは、なぜ「やめた」のでしょうか?
長谷川:卵子凍結を選択した知人たちに経験談を聞いてみたら「排卵を誘発させる注射の副作用がかなり長く続いた」や「受精卵凍結でも妊娠に至らなかった」という話をしてくれて。採卵に時間がかかるケースでは、かえって仕事や生活に支障が出ることもあると知って「卵子凍結さえしておけば!」と考えていたけれど、決してそんなことはないし、もうすこし慎重になった方がいいと思ったんです。
宋:おっしゃる通りだと私も思います。卵子凍結の成功率は卵子1個あたり4.5%から12%というデータ(※1)があり、決して高いとは言えません。その上、卵子凍結は身体的にも時間的にもかなり負担がかかります。
(※1) Fertility Steril 2013; 99: 37-43, Mature oocyte cryopreservation: a guideline
卵子は最低10個ほど、できれば20個ほど採っておくのが理想的なのですが、そのためには何カ月も排卵誘発剤の注射を続け、卵子の育ち具合次第で次の採卵日を決める必要があります。
採卵日が急にずれてスケジュール通りいかないこともありますから、どうしても仕事や生活に影響が出てしまう。キャリアのために卵子凍結を選んだのに、そのせいで仕事に集中できないとなるのは本末転倒ですよね。
なるほど……。2023年に東京都が18歳から39歳までの女性を対象に卵子凍結関連費の助成を始めたこともあり、卵子凍結が気になっている方は多そうです。
宋:現在の日本では、卵子凍結に50万円前後かかるケースが多いため、助成により前向きに検討する方もいると思います。ただ、まだ20代なのであれば、卵子凍結を選ぶのは私はあまり賛成できません。
卵子凍結の後にパートナーができて自然妊娠するケースや、できるだけ若いうちに卵子凍結をしておいたけれど、結局その卵子は使わなかったという人も多いですから。
長谷川:私の周りにも、卵子凍結を選んだという友人はいるけれど、実際に凍結した卵子で妊娠したという体験談はまだ聞いたことがないです。先生の周りはどうですか。
宋:10年ほど前に卵子凍結を選んだ友人や知人が何名かいます。ある友人は38歳で卵子凍結をしたけれど、その後結婚して40代で自然妊娠したため、卵は破棄したと言っていました。
同じく38歳のときに卵子凍結をした別の友人は、40歳で卵子を解凍したら、卵子17個中15個が変性していて、残りの2個も異常胚だったため妊娠には至らず、その後、新たに採卵した卵子を使って無事に妊娠・出産しました。
その友人は最初の卵子凍結時に卵巣過剰刺激症候群(※排卵誘発剤が卵巣を過剰に刺激することで起きる症状)になってしまい、とても大変そうでしたね……。
妊娠に至るまでにはいろいろなケースがあり、「卵子凍結しておけば妊娠できるから安心」というわけではないのですね。
宋:はい。40代に入ってから不妊治療を始め、過去に凍結した卵子のおかげで妊娠できた友人もいますが、卵子凍結はあくまで妊娠のための選択肢のひとつ。それだけを当てにするようなものではないし、ましてや時を止めて全てを解決する“魔法”でもないということが伝わってほしいですね。
妊娠率が決して高くないことやホルモン剤による副作用、金銭面、時間的コストなどをきちんと理解した上で、ひとつの選択肢と思っておくくらいがいいんじゃないかな。
では、卵子凍結という選択肢はどのような方にとって「良い選択」になり得ると思いますか。
宋:AMH検査(※卵巣の中に卵子がどれくらい残っているかを調べるための血液検査)の数値が著しく低い場合は、「良い選択」だと思います。AMH検査の値は個人差がとても大きくて、若くても数値が低く、早期閉経になりかけている方もいますから。
また、今30代前半から半ばくらいの年齢であれば、「パートナーはいないけれど、いつか出産はしたい」と考えている方にとっても「あり」の選択かなと。
「いつか子どもが欲しいけど、今じゃない」人はまず体のメンテナンスを
いつかは子どもが欲しいけれど、仕事や生活のタイミングで「今じゃない」と感じている女性が取れる選択肢には、何があるとお二人は思いますか?
長谷川:「いつか子どもが欲しい」と考えているなら、まずは基礎的な体のメンテナンスをした方がいいんじゃないかと私は思っています。食生活や睡眠、仕事の量を見直してみるとか。そもそも自分の体の不調にあまり目を向けられていない人がすごく多いんじゃないかな、と……。
宋:その通りで「いつかは子どもを」と思うのであれば、適正体重を大きく下回ったり上回ったりしないように心掛けたり、たばこの喫煙や受動喫煙をできるだけ避けたりと、体のコンディションを整えておくことはとても大事です。
特に、生理不順の人や月経痛など生理に関してなんらかのトラブルを感じている人は、まずは婦人科に足を運んで検査をしてほしいです。合うかどうかは体質次第ではありますが、将来子どもが欲しい人には子宮内膜症の予防になるピルの服用も私はおすすめしたいですね。
仕事や日々の生活に時間を取られて、なかなか婦人科の優先度が上がらない方も多そうです。
宋:気持ちは分かります。でも最近はレディースクリニックも増えているし、どうか気軽に受診してほしいですね……。
特に子宮がん検診はどうか欠かさないでください、と強く言いたいです。ピルを飲んでいる方は半年に一度、飲んでいない方は一年に一度が目安です。
妊娠が分かり初めて病院に行ったら実はがんが進行していて、子宮を摘出しないといけなくなった……といういたたまれないケースも実際にあるので、子宮・卵巣の健康には気を使ってほしいと思います。
長谷川:子宮がん検診に行ってない人、周りにもすごく多いです。絶対に行った方がいいですよ!
宋:こういった体の話をすることは最初は戸惑いを感じても、だんだんと慣れてくるものだとも思います。ぜひ「いつか」のための準備だと思って、オープンマインドでいてほしいですね。
取材・文:生湯葉シホ撮影:関口佳代編集:はてな編集部