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『西太后のトイレ事情』なぜ宮女が口に温水を含んで待機していたのか?

草の実堂

画像 : 温水を口に含む宮女 イメージ 草の実堂作成(AI)

西太后のトイレは「特別仕様」だった?

画像 : 西太后(慈禧太后)晩年の真影 public domain

清朝末期の宮廷で最も権力を握っていた西太后(せいたいごう、1835年~1908年 ※慈禧太后)は、その贅沢な生活ぶりが有名である。

その中でも、彼女が使用したトイレは、一般の人々が想像するものとは大きく異なっていた。

紫禁城に住まう皇族たちは「官房」と呼ばれる専用の便器を用いていた。

西太后の官房は、特に豪華な仕様で、檀木(たんぼく)製であったと伝えられている。檀木は耐久性があり、高級家具にも使われる貴重な木材である。

さらに、便器の表面には美しい彫刻が施され、宮廷の工芸技術が随所に活かされていたという。

画像 : 官房イメージ 草の実堂作成(AI)

この官房は固定式ではなく、使用する際には宦官が運んで設置する形式であった。

そして、使用後は即座に片付けられ、臭気が残らないよう入念に清掃が行われた。

西太后の宮廷は、一般の宮殿よりも格段に衛生管理が厳しく、常に清潔さが保たれていたという。

実際、西太后は極度の潔癖症であり、使用する物品には細心の注意を払っていたと伝えられる。

紫禁城では「水」が命?

画像 : 1900年の紫禁城、景山からの神武門の眺め public domain

西太后の時代、前述したように紫禁城の衛生管理はかなり厳格であった。

宮廷内には水汲みの専門職が存在し、飲料水や手洗いの水は特に管理されていた。
清朝皇帝の生活空間では、飲料水を汲む井戸の選定が重要視されており、西太后もまた、水の品質には異常なまでにこだわったとされる。

特に興味深いのは、西太后がトイレの際にも「」に強くこだわった点である。

彼女は通常の乾いた紙の使用を好まず、代わりに「水を含ませた紙」を用いることで、快適に使用できるよう工夫していた。

適度に湿らせてから使用することで、より快適な拭き取りを行っていたのである。

宮女が口に温水を含んだ理由とは

画像 : 温水を口に含む宮女 イメージ 草の実堂作成(AI)

西太后のトイレのために用意される水は、厳選された井戸水を煮沸し、適温に冷まし、香料や薬草を加えたものだったとされる。

その水をどのようにして提供していたのか。

なんと、宮女が温水を直接口に含み、西太后が求めた瞬間に、そっと吐き出して紙に染み込ませて提供するという方式がとられていたのである。
なぜ、こんな奇妙な方法が取られていたのだろうか。

第一に、水温を一定に保つためである。
西太后は冷たい水を嫌ったが、当時の技術では適温を長時間維持することが難しかった。
そこで、人肌で温度を維持するという発想が生まれたのだ。

第二に、「紙は硬く不快」と感じていたためである。
紙はすでに普及していたものの、当時の紙は現代のように柔らかいものではなく、ざらつきがあった。
そのため、西太后は紙を柔らかくするため、宮女に温水を吹きかけるよう命じていた。こうして紙が適度に湿り、肌触りが改善されるというわけである。

しかし、宮女は西太后の身体に触れることが許されていなかったため、拭き取りは慎重に行われた。
宮女は西太后に直接手渡すことはせず、漆塗りの盆の上に湿らせた紙をのせて差し出すか、銀製の挟みを用いて渡していたとされる。

この驚くべき習慣は、西太后の宮廷でのみ行われた特別な儀式であった。

現代人の感覚では理解しがたいが、当時の紫禁城では「最高の贅沢」として受け入れられていたのかもしれない。

移動中も「完璧」を求めた西太后のこだわり

このように紫禁城の宮廷内では、極限まで贅を尽くしたトイレ習慣が守られていた。

しかし、外出時はどうしていたのだろうか。

画像 : 宦官に担がれた神輿に乗る西太后 public domain

西太后は移動中においても、清潔へのこだわりは揺るがなかった。

1903年3月、西太后は河北省の西陵へ巡礼に向かった。

この時、彼女のために特別に用意されたのが「如意桶(るいとう)」と呼ばれる携帯用の便器である。
これは、単なる携帯用おまるではなかった。

その構造は極めて精巧で、桶の底には黄砂が敷かれ、その上から水銀が注がれたという。
つまり排泄物は結果的には沈み(上から黄砂→排泄物→水銀と考えられる)、外部からは一切見えない仕組みになっていたのである。
さらに、この桶は錦織のカバーで覆われ、見た目はまるで豪華な刺繍入りの座椅子のように仕上げられていた。

使用後の処理も徹底されていた。

如意桶は使用後、すぐに宮廷の従者が運び出し、汚物を慎重に処理した。
こうして不快な臭気が残ることはなく、西太后の快適な旅が維持されたのである。

清代の歴史家・孟森(もうしん)は、この如意桶を「当時の最高級の衛生設備」と評している。

実際、当時の庶民はもちろんのこと、高官ですらこれほどの設備を持つことはなかった。紫禁城の厳格な衛生管理の中で育った西太后にとって、移動中であっても不便を感じることは許されなかったのだ。

こうして、西太后は宮廷内外を問わず、自らの潔癖さと権威を象徴するような環境を作り上げた。
排泄すらも「儀式」となり、彼女の生活は徹底した清潔さと贅沢のもとにあったのである。

そのこだわりは、まさに皇帝をも凌ぐ権力者としての威厳を示すものだった。

参考 : 『清史稿』『慈禧太后是如何出恭的—话说古代厕所』他
文 / 草の実堂編集部

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