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【実石沙枝子さんの新刊「扇谷家の不思議な家じまい」】 家族小説であり、大河小説であり、ミステリー。さまざまな色が折り重なる「プリズム小説」

アットエス

静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は2025年5月24日に初版発行(奥付)された実石沙枝子さん(静岡市出身)の新刊「扇谷家の不思議な家じまい」(双葉社)を題材に。

2022年10月のデビュー作「きみが忘れた世界のおわり」(講談社)以降、2024年7月の「物語を継ぐ者は」(祥伝社)、同年12月の「17歳のサリーダ」(講談社)と、コンスタントに作品を発表している実石さん。

新作が出るたびに人間ドラマの密度が高まっているが、今作は主要な登場人物だけで18人もいる。だが、読み手にストレスはない。ちょっとした行動の描写、必要最小限の発言で一人一人の顔がくっきりと浮かび上がる。読者は作家の掌の上で、安心して想像力を膨らますことができる。

「いくらおばあさまだって、人を殺して庭に埋めたりしない」というキラーフレーズで立ち上がるのは、文化財級の古い屋敷から広がる4世代の物語だ。

造船業で財をなした、とある地方都市の名家「扇谷家」。100歳の「おばあさま」は介護施設に入所している。本家の屋敷の「家じまい」を手伝ったひ孫の立夏は、おばあさまが書いた予言帳を見つける。そこにはおばあさま自身の死期も書かれていた-。

扇谷家の血を引いた女性はみんな、不思議な能力がある。おばあさまには予言の力、立夏には「言葉なき者の声を聞く力」が備わっている。認知症と診断されて以降、おばあさまは「桜の木の下に死体を埋めた」と繰り返し発言する。その言葉が意味するところは何なのか。物語を貫く最大の謎が、少しずつ解き明かされていく。

長編小説ではあるが、1938年から2026年までの12の物語を積み重ねた掌編集としても読める。各話は独立した年代、家族を描いている。複数のパーツが合わさって、全体像を示す。登場人物は年を重ね、家族の構成が徐々に異なっていく。

家族小説であり、大河小説であり、ミステリーである。ジュブナイル小説、怪奇談の要素もある。地方都市の旧家を舞台にした特殊な能力を持つ女性当主という設定は、実石さんが好きな桜庭一樹さんの「赤朽葉家の伝説」を想起した。ただ、物語の進む道やそこから見える景色は全く異なるし、掌編の並べ方が時系列順ではないなど、構成も大きく違う。

著者の引き出しの多さが強く感じられる。さまざまな方向から照射された光が、いくつもの鮮やかな色を引き出し、虹のように重なる。まるでプリズムのような小説だ。

(は)

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