家入レオ「雨風空虹」/「No Control」インタビュー――"やっぱり私にはこれ(音楽)なんだ"という清々しい気持ち
――2025年第一弾、そして家入さんが30歳になって初の新曲「雨風空虹」が1月8日に配信リリースされました。楽曲のお話を伺う前に…30歳になった心境はいかがですか?
「まだまだ30歳になったばかりですが、既に楽しいです! “ラクになった”という表現がピッタリだなと思うんですけど…。30歳の誕生日当日になった瞬間、20代を客観的に見られるようになったんですよ。この先のことはまだわからないですけど、でも、もしかしたら20代って一番キツい時期だったんじゃないかな?って、早くも感じています(笑)」
――そんな心境の変化も「雨風空虹」には反映されていると思いますが、今回の楽曲はボートレース2025のTVCMタイアップソングとして書き下ろされた楽曲。勝手ながら、ボートレースと家入さんっていうのがあまり結び付かなくて…。
「そう思われるのもわかる気がします(笑)。私も最初にこのお話をいただいたときは、自分の人生の中に賭け事をするっていう体験がなかったこともあって、ボートレースというものがどういう感じなのかわからなくて。その手掛かりを掴むべく、東京の平和島にあるボートレース場に行かせていただきました。実際にゲートをくぐり抜けると、カップルや家族連れの多さにまず驚きしましたし、場内もきれいで、食べ物も充実していて…って、(ボートレースが)日常に彩りを与えてくれるという楽しさ、高揚感みたいなものを感じました。私も舟券を買わせてもらったんですけど、ビギナーズラックで当たったりもして(笑)。自分が想像していたイメージの斜め上を行くような臨場感がありました」
――話を聞くだけで楽しそうです。
「本当に楽しいんですよ。あと、印象的だったのが、選手のみなさんのユニフォーム。どの人がどこを走っているのか、遠くから見てもわかるように原色のものを身につけてらっしゃって。水面を横切っていく様子が、本当に虹がかかっているように見えたんです。それから、私は17歳でデビューしてからずっと“まっすぐ音楽をやっていきたい“っていう気持ちが強かったですし、良くも悪くも嘘をつけない自分がいたんです。それが30歳になって、まっすぐに生きていくだけじゃなくて曲がることも楽しんで行けたら、もっと面白いことが起こるかもって思えて…」
――ボートレースで見た虹色のカーブと、人生の歩み方がリンクしたんですね。
「そうなんです。見ていて、コーナーを曲がっていく選手の方々の技術に圧倒されたというか。ストレートを走るのも技術がいるけど、カーブはさらに自分を極める必要があると思うんですよ。そうじゃないと、風の向きとか、ここでハンドルを切らなきゃいけないとかを感じられない気がするので…。自分も、10代、20代を積み重ねてきた中で、新しい楽しみ方、新しい音楽ができたらいいなと思って「雨風空虹」ができました」
――先ほど、“30代になって楽しい”、“20代が一番キツい時期かも”とおっしゃっていましたが、30歳の誕生日を区切りに大きく変わったと実感していることは?
「10代、20代は、“自分がこうなりたい”とか、“自分がこういう輝き方をしたい”っていうのがありました。でも、今は本当に綺麗事ではなく、今、私を信じてくれてるファンやスタッフのために、“ちゃんと勝ちにいきたいな”と思っていて。そういうヒリヒリした自分の感情も歌詞に入っています」
――この楽曲を聴いたとき、“魂の叫びだな”って思いました。
「ありがとうございます。私も、“ヒリヒリしている自分ってやっぱり好きだな”って思いました…どの自分も好きなんですけどね。でも、“私にしか歌えないもの”ってこういうことなのかな?というのが、13年やってきてやっとわかりかけている気がして。今回の歌詞の中でも<ちゃんと報われたい>とか<真面目に頑張って何が悪いの?>とかは、自分の脊髄から出てきた言葉だと思います。10代や20代のときは“真面目だね”って言われるのがコンプレックスで…。“それって面白味がないってことなのかな?”って受け取っちゃったりして。でも、今はそうやって言われても、“そうですよ”って。だって私、掴みたいし、届けたいし、って。強さとしてそう言えるようになりました」
――頑張ったら報われたいと思うのって、当然ですよね。
「そう! 私はそんないい人間じゃないから、報われなくてもいいと思ったことなんて一度もなくて。頑張ったぶんだけちゃんと報われたいし、あわよくば、倍の何かを引き寄せられたらいいなって思うし(笑)。でも、それはそれとして、「雨風空虹」はがむしゃらにやっていること、やり続けていくことの覚悟みたいなものが宿る曲になりました」
――今作は石崎光さんとの共作。「嘘つき」以来のタッグとなりますが、制作で印象的だったことは?
「今回、久しぶりにご一緒させていただくことになって、この曲のBメロを初めて歌ったときに“キタ!”と思って。2024年って前半はアルバムを作って、後半は全国ツアーやアジアツアーがあって、並行しているものがたくさんあったんです。そういう中でこの曲も制作していたし、それ以降もいろいろ曲作りをしていて、正直、“やりきった!”っていうバーンアウトが年末にあったんです。そんな枯渇している状況でも新年一発目のテレビ収録でこの曲を歌ったとき、自然とエンジンがかかってきている自分がいました。そこでも、“私ってやっぱりコレなんだな、戦ってる自分が好きなんだな”って思えたんです。そういう気持ちの揺れが、音域の広さだったり、いきなりリズムが変わったりするBメロに込められているなって感じます」
――感情の起伏に沿ったメロディになっている、と。
「そうです。歌詞の面でも、石崎さんが面白く曲がるアシストをしてくださった箇所があって。それが<燦々で靄靄のようだ>なんですけど、わかるけどわからない、というか、感覚的な言葉だなと。その歌詞って、石崎さんが“こうしてみない?”って提案してくださったんです。でも、私は私で、自分が書いたものに愛着があったから、“んー…”みたいな。でも、待てよ、と。“これ、曲がれるかどうか、私さっそく神様に試されてるぞ”と思って」
――なるほど、そう捉えますか!
「なので、1回歌わせてください、とお伝えして。スタジオのマイクで歌ってみたら、悔しいけどすごくフィットしたんです。石崎さんにも、“めちゃくちゃハートが震えたからこっちの歌詞がいいです”って言って、この歌詞になりました」
――文字で見るのと、実際に歌うのとでは、違う感覚になるんですね。
「全然違いますね。あと、石崎さんがすごいのは、“レオちゃんが歌って心が震えないものはボツろう”って言えるところ。そんなふうに一緒に曲作りに取り組んでくれる人がいるのは、私にとってすごく財産だと思っていて。この曲を作ってるときも、“よし、ここからもう1回勝負に出るぞ!”っていう気持ちにさせてもらいました」
――その覚悟は歌声にも表れているような気がします。なかでも、2回目の<私の中で 躍る心臓>の歌い方が個人的に大好きで。
「うれしい〜! そうおっしゃってくださる方が多いんですよ」
――それこそ魂が震えるような歌声ですが、あの荒々しい歌い方って自然とそうなってしまった感じなんですか?
「実のところ、あの時期はずっとライブが続いていて、他の曲も作ってっていう、自分の声帯が全然追いついていない時期で。本当はあと300回くらい歌い込んでからレコーディングに臨みたかったんですけど、それもちょっと無理な状況だったんです。もっとやりたいのにできない悔しさ。でも、スケジュールはどれも自分がやりたいと思って入れてもらったもの。そのジレンマをどこにぶつけていいのかわからないっていうときに、石崎さんから“ちょっと自由に歌ってみて”と言われて、半ばやけくそで歌ったらあのテイクが生まれたんです(笑)。そこでも、やっぱり私って“こういうこと”なんだなって思って」
――逆境に強いというか、やっぱりヒリヒリする感じ。
「そうですね。自分でもすごくアガりました」
――歌詞には印象的なフレーズがたくさん登場しますが、繰り返し謳われる<大切なものは君の中にもう>というフレーズが印象的でした。家入さんはどんな想いを託してあの歌詞を書かれたのでしょうか?
「私、『アルケミスト−夢を旅した少年』という小説が大好きでなんです。そこにも書かれているんですけど、自分が持っているものが全然取るに足らないようなものに思えて旅に出て、その過程でいろんなものが削られて、最終的に“自分はこれだったんだ”と思うのって実は最初から持っていたもののような気が私はしていて。でも、それは最初から持っていたものを一度手放して、そうじゃないものを探したからこそ、旅に出たときの自分とはまったく違う自分でその言葉を言えるようになると思うんです。私自身も、本当に悩んで苦しんだ10代、20代があって、“私に音楽なんて無理だ”とか“向いてないのかもしれない”って思いながら、自分のことも他人のことも散々振り回してしまいましたけど、でも今、“やっぱり私にはこれ(音楽)なんだ”と思って清々しくできているってことが本当にありがたいです。30代、やっと楽しめそうだなって思います(笑)」
――「雨風空虹」は30代の幕開けを祝うファンファーレのような楽曲なんですね。
「確かにー! おっしゃる通りかもしれません」
――そして、「雨風空虹」から約1か月後の2月19日に配信リリースされるのが「No Control」。こちらの楽曲は手塚治虫の同名タイトルの漫画を原作にしたドラマ『アポロの歌』のエンディング主題歌として書き下ろされたものですが、「雨風空虹」から一転、家入レオのダークサイド!?(笑)。
「そうですね(笑)。とても陰な部分だと思います」
――もしかして、「雨風空虹」と並行して作っていたんでしょうか?
「はい。なので、情緒がジェットーコースターで大変でした(苦笑)」
――そうなりますよね(笑)。『アポロの歌』は手塚作品の中でも異彩を放つものとして知られていますが、楽曲を書き下ろすにあたって原作を読んだり、ドラマの脚本を読んだりしながら進めていかれたんですか?
「そうですね。実は私、人格が形成される時期にどっぷりと手塚治虫さんの影響を受けているんです。だから、ありきたりな表現ですけど、“人生って点と点が線になっていくんだなぁ”と思って。小学校の図書館で『火の鳥』を手に取ったのが最初で、そのときに何かわからないですけど、自分の中で消されている記憶を思い出すような感覚があったんです。以来、『ブッダ』とか『ブラックジャック』、『七色いんこ』などを読むようになった中に『アポロの歌』ももちろん入っていて。『アポロの歌』って、主人公の男の子が愛を知るためにいろんな時代に飛ばされて…でも、その先々で運命の相手と出会って、やっと一つになれる、両想いになれると思った瞬間にどちらかが死んでしまうっていう業を神様から背負わされてていて。そのループの中で生きていくという物語だから、書評なんかでもよく“救いのない作品”だとか書かれてることが多いんですけど、私はこれ、“すごくうらやましいな”って思っちゃったんです」
――なんでしょう…憧れみたいな?
「そう、憧れ! 実際に自分がこの主人公になったらしんどいですけど、これくらい誰かのことを愛せたら、幸せだろうなって。それくらい身も心も焦がして誰かを想ってみたいっていう。それに今って何処にいても簡単に気持ちを伝えられるけど、簡単に繋がりを断ち切れる時代でもあるから、実は本音で誰かとぶつかり合うって少ない気がしていて。あなたは私で、私はあなたっていう人に出会いたいって気持ちもありますし、これは周りの人に言ってもなかなか理解されないことなんですけど、私は人生ってポイント制だと思っているところがあって」
――ポイント制?
「神様が、“この子、頑張ったな”って思ったら、その自分と対になる相手と出会わせてくれたり、想像もしなかった景色を見せてくれると思っているんです」
――ポイントがそこに変換されるんですね(笑)。
「そう(笑)。絶対どこかにいると思っていて。と言うのも、私は福岡で生まれて、福岡という土地が好きですし、両親とか育ててくれた人を含めて私に関わってくれた人たちはみんな優しくていい人たちでしたけど、“私はここじゃない”みたいな疎外感をずっと感じていて。東京に来たらそれがなくなるのかな?と思ったら、やっぱり今も寂しかったり、“理解してもらえない…”みたいな気持ちが消えなくて。でも、昨年『Fantasy on Ice』に出演させていただいた際、世界各国から来たスケーターの方々がバックヤードに集っていろんな言語が飛び交っている場所に身を置いたときに、“ここかも”って思ったんです。英語が喋れるわけじゃないんですけど、色んな文化があって、自分と違う価値観でも受け入れて自分の心を豊にしていくような。新しいこと、知らなかったことを面白がっていたい。でも、そう思ったってことは、私はたぶん、貪欲に“もっと!もっと!”と思いながら生きているのが性に合ってるタイプなんです。「No Control」は私の中の、常にどこかファンタジーを生きている部分が投影された1曲になっています」
――『アポロの歌』ってドラマ化するのも難しいと思うんですけど、そういうドラマのエンディング曲を作るというのもさらに難しいですよね。制作陣の方からはリクエストなどあったんですか?
「“世界観に合うもの”っていうのが大前提としてありました。なので、登場人物の一人のような気持ちで参加させていただきました。歌というより、最後、このドラマにリボンをかけるような気持ちで、浮遊感や仄暗さ、湿度みたいなものを大事にしながら作っていきました。歌い方なども含めて、新しいところには行けたかな?って思います」
――これまでになかった世界観の扉が、これから歳を重ねるにつれてもっともっと開いていくんでしょうね。
「そうですね。30代のほうが感情で生きれそうだなって思います。10代、20代の頃はもうちょっと“自分を保っていなきゃ”とか“大人にならなきゃ”っていうのがあった気がします。今回、「No Control」の歌詞を書いていても、この2人がいろんな時代で愛をぶつけ合ったり、裏切ったり、疑ったり、それでも手を取り合おうとして、“やっと手を繋げたね“ってところでまた死んでしまう…ここまで感情をストレートにぶつけ合えることって、今の時代にはなかなかない形ですよね。だから、やっぱりすごく羨ましくて。”恋愛は自立した大人の2人がするもの“みたいな言葉もよく耳にしますけど、”それって何のために?“って思うんです。みんなちゃんと仕事をして、いつも感情をコントロールしているんだから、恋愛ぐらい思いっ切りみっともなくなったり、すがったりしてもよくない?って。そういう気持ちもあって「No Control」というタイトルにしました。なので、私の30代、きっと感情的になっていくと思っています(笑)」
――そこからまたどんな音楽が生まれるのか、楽しみにしています。そして、3月には日比谷野外音楽堂で『家入レオ YAON 〜SPRING TREE〜 vol.2』を開催。昨年に続き2回目の『SPRING TREE』ですが、どんなライブにしたいと思っていますか?
「春は芽吹く季節でもあるんですけど、新生活を迎える人だったり、出会いや別れが多かったりしてセンシティブになりやすい季節でもあるから、心と心で音楽ができるようなライブにしたいです。野音の周りは自然が多いので、きっとその自然が手伝ってくれて、来てくださるお客さんの心をほぐしてくれるはず。都会のオアシスとして、みなさんに集ってほしいです!」
(おわり)
取材・文/片貝久美子
写真/野﨑 慧嗣
RELEASE INFORMATION
2025年1月8日(水)配信
家入レオ「雨風空虹」
2025年2月19日(水)配信
家入レオ「No Control」
LIVE INFROMATION
2025年3月22日(土) 日比谷野外大音楽堂
OPEN 16:00 /START 17:00
家入レオ YAON ~SPRING TREE~ vol.2