Yahoo! JAPAN

癇癪スイッチが分からない!不安だらけの4歳自閉症娘との飛行機移動。対策の結果は…

LITALICO発達ナビ

癇癪スイッチが分からない!不安だらけの4歳自閉症娘との飛行機移動。対策の結果は…

監修:藤井明子

小児科専門医 /小児神経専門医/てんかん専門医/どんぐり発達クリニック院長

発達特性や支援についての理解が乏しかった当時の不安

ここ最近ようやく「外出が以前より楽になったかも」と感じるようになりましたが、4歳頃のマユユはまだ日常的に癇癪が頻発しておりとても不安定でした。

当時のわが家は……

発達障害に関する書籍を読んだり、支援方法についてお話を聞いたりするけれど、それを実生活のなかで実行することは、とても難しいことだと感じていました。今よりコミュニケーションが難しかった私たちにとって長距離移動の予定は、それはそれは不安なものでした。

いつ気持ちが爆発するか分からない……「大勢の人がいる空港や機内で、マユユに大きなパニックが起きたらどうしよう」そう思うと予定までの日々はずっと気が重かったです。

グッズや下準備を万全にするしかないと思い

そんな当時の私たちにはこれといった安心材料はなく、とにかく準備を万端にすることしかありませんでした。具体的には以下のような準備をしました。

<機内>
・タブレットや携帯ゲームをオフラインでも充実して使えるようにする
・子ども用のヘッドホンを準備し、事前に嫌がらないか確認する
・ちびちび食べしやすいおやつを小分けでたくさん用意する

<宿泊>
・移動の中間に一泊はさむ
・家族でホテルの部屋を分ける(長女と私・夫と次女)
・漢方をお湯で飲むことができるか確認する(当時主治医に癇癪について相談し「抑肝散」を処方してもらっていました)

<日程>
1日目は
徒歩+電車乗り継ぎ(長め)→空港近くのホテルへイン
2日目は
徒歩+電車(短い)→フライト→到着(すぐ車に乗るのでここでゴール!)

数時間はかかるものの、本来1日で済ませることができる移動だとは思いますが……
・下の子も小さくマユユもまだ抱っこ要求が多かったため体力が不安だったこと
・私がこの予定を1日で遂行するストレスを抱えきれそうになかったこと
・お昼寝や休憩のタイミングが不安定で、後半のフライトで子どもがぐずぐずになると思ったこと
などが理由で一泊挟むことにしました。これは結果的に正解だったと思います。

当日の様子

1日目。
電車の長時間移動にも慣れておらず、電車内でマユユはウロウロしようとしたり声が出てしまったり……すでに私のストレスは振り切れそうだったので、ホテルに着いた時はほっとしました。

またマユユは人数が多かったり、妹や夫がいっしょだと興奮気味になってしまう様子が以前からあったので、家族で二手に分かれて部屋をとりました。(私とマユユ・夫と次女)
これも落ち着いて過ごすことができ、しっかり休むこともできたので良かったです。

2日目の朝。
マユユは毎朝、漢方をココアと少量のはちみつとお湯に混ぜて飲んでいるのですが、旅行前にお湯だけで飲めるか試していました。
問題なくお湯だけで飲むことができていたため、当日もホテルの備品だけで漢方を飲ませることができ助かりました。(ダメだったらいつもの漢方が作れるように甘めのココア味にする材料も必要になってしまうので)

この日の移動は短時間だったので、あっという間に空港へ到着。
小さな子どももいるため優先搭乗へ進むことが可能でしたが、アナウンス後もしばらくマユユがキッズコーナーで遊ぶことから切り替えられずヒヤヒヤする場面がありました。暇つぶしとしてはありがたいキッズコーナーですが、「切り替えが苦手なマユユを直前に遊ばせるのは間違えたかも……」と思いました。なんとか優先搭乗の時間が終わるギリギリにマユユを抱えてかけ込みます。

いよいよ席に座りフライト

座ってもタブレットやおやつはすぐに出しません。
”いつモゾモゾしだすか……いつ我慢の限界が来るか……”と思いながらも、ピンチの時にできる限りとっておきたかったのです。

思いのほか山場だったのは”シートベルト着用サイン点灯中”でした。機嫌よく席についたのに、座ってベルトをつけるよ、と声をかけるとイヤイヤモードになってしまったのです。

ずっと自由に過ごせなくなると感じたのでしょうか。小分けにしたおやつやジュースでなんとか乗り切れたのですが、とにかく肝が冷えました。たくさん持っていて良かったです。

その後、ベルトサインの出ていない間はリラックスした様子で外を眺めたりしていました。最後まで気は抜けませんでしたが、まだタブレットもおやつも残っていることは心のお守りになりました。

大きく騒ぐことはないまま、残り時間は用意したタブレットや添乗員さんが渡してくださったお絵描きセットを使ったりして目的地付近へ……最後のベルトサインではまたハラハラしましたが、同じくおやつで乗り切ることができました。

さいごに

この時のフライトでは、想定以上のパニックなどは起こらずに済みました。しかし振り返ると、事前の告知や支援を全然できていなかったな、マユユの調子や運が良かっただけだな、という思いです。今のマユユになら、今回の準備に加えて以下のようなことも事前にしておくと良いかもしれないと思います。

・視覚的にスケジュールを示す
・シートベルト着用サイン点灯時の過ごし方の予習ごっこ
・入場のアナウンスなど切り替えが必要な場面の対策

今はまだあえて長時間移動の旅行を選ぶ勇気はありませんが……もし今後、遠出の機会があれば、あの頃の経験を経て、今度は各場面を想定したマユユの心の準備もしてあげられたらと思っています。

執筆/サチコ

(監修:藤井先生より)
お子さんとの長距離移動に向けて丁寧に準備を重ねられたご様子が伝わってきました。ASD(自閉スペクトラム症)の特性のあるお子さんにとって、環境の変化や長時間の移動は大きなチャレンジ。それを親御さんが先回りして考え、対応されたこと、本当におつかれさまでした。私自身も、わが子を初めて飛行機に乗せたときのことを思い出しました。何が起きるか分からずヒヤヒヤしながら、あれこれ対策を考えて準備したことは、今でも記憶に残っています。余裕を持ったスケジュールや環境づくりが、親御さんにもお子さんにも安心感をもたらしますね。これからも、ご家族での素敵な時間がたくさん訪れますよう、応援しています。

(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。

神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。

知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。程度に応じて軽度、中等度、重度に分類されます。

ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。

【関連記事】

おすすめの記事