草間彌生と版画で巡る愛と祈り ― 「草間彌生 版画の世界―反復と増殖―」(読者レポート)
前衛芸術家として世界的に名高い草間彌生(1929年~)の版画の世界を紹介する展覧会が始まりました。作家の出身地であり、世界最大級の草間コレクションを誇る長野県・松本市美術館が所蔵する版画作品に作家蔵の作品を加えた約330点を前期と後期で全て入れ替えるという大規模版画展です。
草間さんは1957年に28歳で渡米し、ニューヨークを拠点に16年にわたる創作活動の後、1973年に帰国し、1979年に初めて版画作品を発表しました。
本展では初期作品から2000年代の版画活動が6章で構成されています。各章が草間作品の本質に迫るパワーとエネルギーに満ち溢れた展示内容です。ぜひ、お出かけください。
京都市京セラ美術館 正面
Chapter 1 わたしのお気に入り
28歳で単身渡米。約16年間の創作活動を経て体調や心の不調を感じ帰国した当時は大型作品の制作は難しいため、版画作品を手掛けます。ニューヨークでは「クサマファッション」という会社を作り、自身がデザインした服を流通させていましたので、今見ても、新しくてセンス抜群のKAWAIIにたくさん出会えます。
Chapter 1展示室風景
左から≪ハンドバッグ≫ 1985年、≪ドレス≫ 1982年
上から≪蝶≫ 1985年、≪毒きのこ≫ 1990年
アダチ版画研究所からの依頼を受け、草間さんが初めて富士山に取り組んだ意欲的な最新作です。約2m×6mの原画のスケール感を体感できます。その原画をもとに彫られた浮世絵版画の水玉は、なんと14,685個。山肌は七色に増色し、その内、三色の作品が展示されています。富士山のエネルギーと職人の情熱をじっくり味わえます。
富士山の木版画連作 2014年
Chapter 2 輝きの世界
ラメの煌めきをふんだんに取り入れた作品の源は、ニューヨークへ向かう飛行機から見た太平洋の揺らめきだそうです。このキラキラ感は写真では伝わり難いので、原画でその美しさを体験してください。
Chapter 2 展示室風景
Chapter 3 愛すべき南瓜たち
草間さんの松本市の生家は種苗業を営み、自宅周辺には広大な畑が広がる中で植物とかかわりの深い生活をおくりました。とりわけ「かぼちゃ」はお気に入りのモチーフでした。
10代後半に2年ほど京都市立美術工芸学校(京都市立美術工芸高等学校)で日本画を学び、その際「かぼちゃ」に取り組んだそうです。ここ京都は、草間さんの数少ないゆかりの地でもあり、「かぼちゃ」の原点となる地でもありました。
このコーナーには全ての「かぼちゃ」作品が集まっています。壁面もかぼちゃ色。
Chapter 3 展示室風景
左から≪かぼちゃ≫ 1991年、≪黒とかげ≫ 1989年
Chapter 4 境界なきイメージ
キャンパスや空間全体を水玉や網目で覆いつくす増殖と、複製芸術である版画は、親和性が高いと思われます。草間さんの創作活動の根幹に近づいていく気がします。
Chapter 4 展示室風景
Chapter 5 単色のメッセージ
シルクスクリーンやリトグラフは草間さんの原画をもとに刷師が版を作成しますが、このコーナーに展示されているエッチング作品は、草間さん自身が銅板を直接削って描いているので技法のフィルターを通っていません。ゆえに作家の手の動きや心の動きをなぞることができるでしょう。
Chapter 5 展示室風景
Chapter 6 愛はとこしえ
2004年から4年がかりで制作された「愛はとこしえ」シリーズは、黒のマーカーペンで100号のキャンバスに描いた50点を原画としたシルクスクリーン作品。これまでの水玉のイメージではなく、草間さんの記憶のストックから具体的なモチーフが前面に押し出された作品です。これらは、2000年代躍進のきっかけとなりました。
制作風景の映像が流れているのですが、この複雑なモチーフを考えることなく描いていると語っています。自然にペン先が動くのだそう。 2009年からの「わが永遠の魂」シリーズへと繋がり、2021年より最新シリーズ「毎日愛について祈っている」へと進化を続けています。
Chapter 6 展示室風景
7月1日からの後期は、作品が全て入れ替わります。楽しみが続きます。
草間彌生展出口のパネル
[取材・撮影・文:hacoiri / 2025年4月24日]
作品はすべて ©YAYOI KUSAMA