知っておきたい男の子の「精巣トラブル」 泌尿器科医が解説
泌尿器科医・岡田百合香先生に聞く、精巣(金玉)トラブル連載2回目。今回は、乳幼児期に健診で判明することが多い、先天的な精巣の疾患についてと、男子の精巣トラブルについて、岡田先生に解説していただきました。
精巣のコブは5人に1人の割合で出現する!泌尿器科医として、おちんちんの知識や、正しい性教育を伝える活動をしている岡田百合香先生。前回は、男の子を育てるすべての保護者に知っておいてほしい、最も緊急性の高い疾患「精巣捻転」について教えていただきました。
今回は、乳幼児期に発見されることが多い、いくつかの精巣(金玉)トラブルについてです。
乳幼児期の定期健診の際に、パンツを下ろしておちんちんを見たり、タマタマを引っ張ったりされますが、これには先天的な精巣の疾患がないか確認する目的があります。それでは、詳しく岡田先生に解説していただきましょう。
岡田百合香(おかだ・ゆりか)
泌尿器科医。1990年岐阜県生まれ。2014年岐阜大学医学部卒業。愛知県内の総合病院泌尿器科に勤務する傍ら、助産院や子育て支援センターで乳幼児の保護者を対象にした「おちんちん講座」や「トイレトレーニング講座」、思春期の学生向けの性に関する授業などを行っている。2児の母。
精巣(金玉)は動いて下りてくるもの
前回(1回目)でも解説したとおり、精巣は、最初はおなかの中に収まっています。
「泌尿科医ママが伝えたいおちんちんの教科書」(誠文堂新光社)のP13ページより。
イラスト/こしいみほ
「通常は、在胎22~26週ごろから鼠径管内を下降し、35週までには精巣は陰囊の底に固定されます。この下降経路の途中で停留してしまい、正常の陰囊内に精巣がない状態を『停留精巣』と呼びます。出生後の乳児健診の際、触診で疑われることが多いです」(岡田百合香先生)
6ヵ月までは自然下降が期待できるため、経過観察をするものの、それ以降は自然下降の可能性は低いとされます。そのため1歳前後~2歳ごろまでに手術治療が必要です。
「遺伝子や環境ホルモン、子宮内の環境など、さまざまな要因が関与していると考えられていますが、はっきりとした原因は明らかではありません。男児の1~3%に発症するとされており、ものすごく珍しい病気というわけではないんですよ」(岡田先生)
手術は、陰囊の中に精巣を固定する「精巣固定術」を行います。
「文字どおり、陰囊の底に精巣を縫い付けて固定する手術です。停留精巣を放置すると、将来の不妊症や精巣腫瘍のリスクを高めることに繋がります。停留精巣は健診で判明することが多いですが、おむつ替えや入浴の時に気付いたら、かかりつけの小児科医の先生に相談してみましょう」(岡田先生)
精巣(金玉)が動きやすい状態も注意
また、停留精巣と似た病気として、「遊走精巣(移動性精巣)」があります。
イラスト/オヨネ
「こちらは精巣が陰囊内にあったりなかったりする、精巣が動きやすい状態です。経過観察で、成長とともに下降してくることが多いですが、上がったままの状態(上昇精巣)が続くと、手術が必要となります」(岡田先生)
そもそも精巣は、気温や緊張、接触によって動くもの。笑いに対する反射などでも、ひゅっと上がることがあるといいます。逆に、緊張がない状態では、のんびりと下がっているのが適切です。
「入浴中、入浴直後、睡眠中など、子どもがリラックスした状態で精巣の様子をときどきチェックしてみるといいでしょう。遊走精巣は5~7歳に頻繁に観察されることが多いですが、年齢とともに減少し、13歳でほとんど見られなくなると言われています」(岡田先生)
陰嚢が膨らむ「陰嚢水腫」
閉じるべきお腹の穴が閉じなかったことで起こる陰囊・精巣の疾患もあります。
「本来、出生までに閉鎖するはずの穴が閉鎖しなかったことにより、腹水が陰囊内にたまる病気が『陰嚢水腫』です(岡田先生)
イラスト/オヨネ
「精巣が、おなかから、陰囊に下りるときに通るトンネルがあるのですが、生まれるころには完全に閉じています。しかし、そこが開いたままになっていると、腹水が陰囊内にたまり、膨らんだ状態になるのです」(岡田先生)
痛みはないものの、陰嚢の大きさに左右差があることで判明します。
「自然消失も期待できるため、2~3歳ごろまでは経過を見ることが多いです。ただ、他の疾患と合併しているような場合には手術を検討します」(岡田先生)
鼠径(そけい)ヘルニア
陰囊水腫と同じメカニズムで発症するのが、「鼠径ヘルニア」。
「こちらは、本来閉鎖しているはずの穴が残存し、そこから腸が飛び出してくる病気です。1歳ごろを目安に、手術で治療するケースが多いとされます。穴に腸がはまり込んで血流が悪くなった場合には、痛がる、腫れる、嘔吐などの症状が出ることも。そのようなときはすぐに病院へ行きましょう」(岡田先生)
この鼠径ヘルニアは乳幼児期に多い疾患なので、かかりつけの小児科医であれば判断できるということです。
乳幼児期の精巣関連の事故
乳幼児期の精巣睾丸トラブルで知っておいてほしいのが、意外と世の中に知られていない、悲惨な事故です。
「あまり注意喚起されていないのですが、乳幼児期に精巣を怪我する事故は少なくありません。例えば、飼っている犬に陰茎や精巣を咬まれ、ときには咬みちぎられてしまう悲惨な事故も複数報告されています」(岡田先生)
原因として、オムツの尿のにおいをエサと勘違いするからではないかとも言われていますが、厳密には分かりません。重要なのはこういった悲惨な事故の事例を保護者が知り、「犬と子どもだけで放置しない」といった対策を行うことです。そうすれば事故による精巣の傷害は防ぐことが可能です。
他にも、便座に陰嚢を挟んでしまったり、ズボンのジッパーに挟んで陰茎や陰囊を傷つけてしまうトラブルが報告されています。
「陰囊皮膚が裂けている、腫れている、または痛みが続く場合はすぐに受診しましょう。精巣破裂(精巣を覆う膜が傷ついている状態)のケースだと、72時間以内に手術する必要があります。他にはぶつけたり、蹴られるといった外傷を契機に、精巣捻転を引き起こすケースの報告もあります」(岡田先生)
そして、おちんちん同様、まだまだ下ネタのような文脈で精巣をとらえる文化があることを岡田先生は憂いています。
「精巣はプライベートゾーンに含まれる部分なので、成長に伴って羞恥心による語りづらさを持つこと自体はおかしなことではありません。一方で下ネタやからかいの対象として子どもが認識している場合は『いや、すごく大事な部分だよ』という態度を大人が示し続けることが大事だと思います。抵抗感なく話せる幼児期くらいから精巣のしくみや大切さ、何かトラブルがあったらすぐに教えてほしいということを繰り返し伝えていけるとよいですね。
例えば、サッカーでフリーキックの壁の選手が股間を押さえている試合シーンを観た時に『大事だから守っているんだね』と話すなど、日常生活の中にある話題をきっかけにすると話しやすいかもしれません」(岡田先生)
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今回は幼児期の精巣にまつわるさまざまなトラブルについて解説していただきました。
次回3回目は、「思春期に多い精巣トラブル」について、引き続き岡田先生にお話しいただきます。
取材・文/遠藤るりこ
『泌尿器科医ママが伝えたい おちんちんの教科書: 0才からの正しいお手入れと性の話』著:岡田百合香(誠文堂新光社)