お弁当箱の中身が腐る、「歯磨きしたよ」はウソ?発達障害息子の衛生観念が心配!わが家の改善策は
監修:初川久美子
臨床心理士・公認心理師/東京都公立学校スクールカウンセラー/発達研修ユニットみつばち
弁当箱の中身が…布団は食べかすでダニの温床!衝撃の衛生観念
清潔を保つことや身の回りを整えることに苦手さがあるのは、発達障害のある子どもによく見られる困りごとだと言われています。うちのタクも、日々さまざまな「衛生トラブル」を巻き起こしてくれました。
たとえば何度言っても直らなかったのが「弁当箱を出すのを忘れる」問題。タクが通った小学校では白ご飯をお弁当箱に入れて持参する日が週に3日ほどありました。その弁当箱を何度言っても出さない、持ち帰り忘れることが頻発しました。カバンの中から数日後に中身が腐った弁当箱が出てくることはもう珍しくなく……連休明けに出てきた、カビだらけの弁当箱を見て、家族で絶句したこともありました。水筒も同じで、使って洗わずにどこかに置き忘れたり、知らぬ間にバックの中でジュースがこぼれていたり……。
さらに衝撃的だったのが、食べかけのお菓子をベッドの下や引き出しの奥に隠すクセ。おそらく「あとで食べよう」という気持ちだったんだと思いますが、完全に忘れてしまうので、気づいた時にはカビたりダニが湧いたり……。「なんでこんなところに!?」と問い詰めても、タク自身は全く悪びれた様子もなく「え?そんなのあったっけ?」と他人事のような反応をするばかり。本人は“隠したこと”自体を記憶していないことが多くて、悪意やずるさだけではなく、ただただ注意や記憶が飛びやすい特性ゆえの行動なのだと感じました。
「歯磨きしたよ」が信じられない!そんなタクの変化は思春期に
わが家で最も頭を悩ませた衛生習慣の一つが、歯磨きでした。毎日「ちゃんと歯磨きしたよ!」と元気に言っていたタクでしたが、明らかに磨けていない見た目や口臭から「本当に!?」と確認することが何度もありました。私が「あれ?ほんとに磨いた?」と追及すると、タクは「うん!……たぶん……いや、どうだったっけ……」としどろもどろ。
その様子を見てると「ウソをついてる」というより、「磨いたって言ったから、きっと自分は磨いたんだろう」と自分の発言を現実の記憶だとすり替えようとしてるように見えるときもありました。歯磨きに限らず「やってないことをやったつもりで済ませてしまう」ということが度重なり、親としてはイライラしてしまうことも多かったです。
実は、幸か不幸か……タクはこれまで虫歯になったことが一度もなく、学校の歯科検診でも指摘されたことがありませんでした。そのため「自分は歯磨きをしなくても大丈夫なタイプ」と思い込んでいた部分があったように感じます。ですが実際には発達障害のある子どもは、特性などにより口腔トラブルが起きやすいとも言われていて油断できません。
歯ブラシを持つこと自体を面倒がっていた時期があったタクも、中学生になる頃から少しずつ変化が見られるようになりました。やはり、思春期になって周囲の目(特に異性)を気にするようになったことがかなり大きかったように思います。同級生が急にオシャレを始めたり、周りでお付き合いを始める子も出てきて、そんな周りに影響されたのだと思います。
最近では、ホワイトニング用の歯磨き粉を欲しがったり、身だしなみにも少しずつ気を配るようになってきました。「口が臭いのはヤバい!」と、本人が笑いながら話す場面もあり、私としてもようやくここまで来たんだな……と感慨深く感じています。
「出し忘れる」ことのデメリットを何度も体感させる、繰り返し作戦
タクの衛生面での困りごとには、家庭内でもいろいろと工夫をしてきました。何度言っても弁当箱や水筒を出し忘れてしまう件については、声かけに加えて高学年になる頃からは「夕飯後までにシンクに出さなかったものは自分で洗う」というルールを家庭内で決めて、徹底しました。
それでもやっぱり忘れてしまう日が多く、数日後にカバンから異臭のする弁当箱が出てくる……ということもありました。そういったときには、出さなかったタク自身がその弁当箱を洗うように促し、腐ったご飯の処理や弁当箱の漂白、ゴミ捨ての手順まで一緒に確認して覚えてもらうようにしました。
すぐに改善されるわけではありませんでしたが、何度も繰り返しながら「出さなかったら大変な思いをする」「出しておいたほうが自分が楽なんだ」という感覚をタク自身に体感してもらうことを意識して続けていきました。そうして完全にゼロにはなっていないものの、水筒の出し忘れなどはかなり減らすことができ、「あ、そうだった!」と自分で思い出して動ける場面も増えてきたように思います。
そして、もう一つの大きな課題だった歯磨きについては、“女子になりきって声かけする”という作戦も試しました。「え〜!?タクくん、歯みがきしてないの!? やだ〜!!」と、同級生の女の子風の言い方で話しかけると、本人はうわっと嫌がりながらも渋々歯磨きに向かうようになりました。思春期の男子にとっては、異性の目というのはやはりかなり大きなモチベーションになるのだなと実感しました。
ゆっくりでも少しずつ身についた衛生観念
タクの衛生観念に関しては、今でもちゃんと身についたとは言えません。部屋は散らかっていることが普通だし、鞄の中は常にゴミが入っていたり……。それでも声かけやルールの工夫を通して、「できない」から「できるように気をつける」に変わってきたのは、大きな一歩でした。
周りの子ではなくて過去のタクと比べると、成長したなと思う場面も増えてきました。発達障害がある子どもにとって、衛生管理や身の回りの清潔は単なるマナーや努力では済まない難しさがあります。だからこそ環境を整えたり、親が一緒に振り返ったり、ちょっとユニークな関わり方をしたり……時間をかけて少しずつ身についていく力も、きっとあると私は思っています。
執筆/もっつん
(監修:初川先生より)
高校生になったタクくんの衛生に関する歴史をありがとうございます。発達的な課題を持つお子さんに、衛生面での課題を持つ場合も多くありますね。そのあたりの知恵や工夫のシェアはあまり多くないように感じるので、今回のコラムがとても参考になる読者の方も多いだろうと思います。
「衛生観念のゆるさ」と書かれていましたが、そのあたりでいうと、弁当箱や水筒などの持ち物の管理、部屋の衛生、歯磨き、そしてもう少し幼いお子さんだと、鼻をほじることや指を舐めるなども課題となりやすい行動です。保護者が注意してもなかなか改善しなかったり、すべき行動が定着しなかったり。他意なく不注意ゆえにそうしたことが起きる場合も多いので、難しいところです。よくあるのは、できたらご褒美シールなどで強化かつ視覚的に確認しながらやっていく方法ですが、実際にはいつのまにかやらなくなってしまうこともあります。そういう意味で、本人が成長する中で、思春期を迎え、周りの目・異性の目を気にするようになって初めてできるようになること。また、自分で弁当箱を洗うということが(弁当箱出し忘れの代償だとしても)できるようになること。そうした成長を経て、ようやく改善してくる面もあるかと思います。「できるように気をつける」という本人の意識の変化を裏付けとした目標が出てくるのも、成長に感じました。一筋縄ではいかないからこそ、こうしてさまざまな知恵や工夫を皆さんでシェアしながら試行錯誤できるといいですね。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
ADHD(注意欠如多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。