巳年に振り返るウミヘビ科の魚<モヨウモンガラドオシ>との思い出 飼育はなかなか難しい
今年は「巳年」ということで、海にすむヘビのような魚「モヨウモンガラドオシ」を飼育した思い出と、飼育して感じたことをお話したいと思います。
なお、本記事では海水魚の飼育について扱っています。海水魚は真水(淡水)で飼育することはできません。また海水魚飼育の設備は淡水魚とは異なるものが必要になります。詳しくは専門誌などをご参照ください。
また一度飼育した魚は、海や川へ逃がすようなことのないようにしましょう。
全長1メートルまで成長する大型種<モヨウモンガラドオシ>
モヨウモンガラドオシ(学名Myrichthys maculosus (Cuvier, 1816)) は、ウナギ目・ウミヘビ科・ゴイシウミヘビ属の魚で、全長1メートルを超える大きさにまで成長する大型種です。
分布域は南アフリカの東岸から、中央太平洋フレンチポリネシアにまで広く分布していますが、ハワイ諸島や東太平洋沿岸および島嶼域では近縁の別種に置き換わります。
日本においても八丈島、伊豆半島、紀伊半島以南の太平洋岸、宇和海、琉球列島、小笠原諸島にかけて広く分布しています。体はクリーム色で、体側に小さな円形の黒色斑が多数あるのが特徴です。
我が家にモヨウモンガラドオシがやってきた
私がガラス越しではなく、初めて生きたモヨウモンガラドオシと出会ったのは2014年のこと。
八丈島の防波堤でイカを餌に竿を出していると、全長90センチオーバーの巨大なモヨウモンガラドオシが釣れたのでした。しかしこのときは針を飲み込んでしまっており、残念ながら生かして持ち帰ることはできませんでした。
残念ながら飼育することができなかったモヨウモンガラドオシですが、2018年10月に友人が和歌山県の海で採集したモヨウモンガラドオシを入手。そうして、私とモヨウモンガラドオシのくらしがはじまったのでした。
モヨウモンガラドオシの飼育
入手した和歌山県産の個体は全長が75センチほど。モヨウモンガラドオシとしてはそれほど大きくない普通のサイズですが、それでもアクアリウムで飼育される海水魚としてはかなり大きな魚になります。
同じ水槽では、ウツボ科のウツボとサビウツボを飼育。底に粗いサンゴ砂を薄く敷き、塩ビパイプを入れ、ろ過は上部ろ過槽というスタイルです。
しかし水槽は60センチ水槽であり、ウツボ科2匹とモヨウモンガラドオシでは明らかに狭かったと思います。モヨウモンガラドオシを飼育するのであれば、最低でも90センチ、できれば120センチ水槽が欲しいところです。
餌は配合飼料にはなかなか餌付かないため、イカの切り身など生の餌をメインに与えます。
餌のあげ方は、ピンセットを使ってモヨウモンガラドオシやウツボ、サビウツボの前に餌を持っていき与えるという方法。ですが、モヨウモンガラドオシの前に餌をおいても、大抵の場合はウツボやサビウツボに奪い取られてしまい、なかなか餌がいきわたりにくいという問題がありました。
そのため、まずウツボやサビウツボに餌を複数与えてからモヨウモンガラドオシに餌を与えるというやり方に変更。ウツボの仲間も、モヨウモンガラドオシも大きな鼻管を有しており、それにより餌を探すようですが、モヨウモンガラドオシは口が小さく、ウツボと比べると明らかに捕食に不利になるようです。
モヨウモンガラドオシとの突然の別れ
60センチ水槽でもなんとか飼育できていたモヨウモンガラドオシですが、飼育開始から1年9か月後の2020年7月に死んでしまいました。
ピンセットで餌を与えていたのですが、ウツボがうまく餌をくわえることができなかったのか、餌を落としてしまったときに、下にいたモヨウモンガラドオシにかみついてしまいました。
かみついた場所が尾部のところであれば助かったのかもしれませんが、頭部をかまれ致命傷を負ってしまったのです。短い飼育期間ではありましたが、私にさまざまな知見を与えてくれたのでした。
ウツボとモヨウモンガラドオシをうまく飼育している水族館では、ウツボもモヨウモンガラドオシもぱんぱんに膨れていました。丁寧に1匹ずつ餌をあたえ、いつもお腹いっぱいにさせておくことが事故を防ぐ一歩なのかもしれません。
いずれにせよ、家庭の水槽でモヨウモンガラドオシをうまく飼うのであれば、モヨウモンガラドオシだけを丁寧に飼育するのがよさそうです。
モヨウモンガラドオシとゴイシウミヘビ
モヨウモンガラドオシが含まれるゴイシウミヘビ属の魚は、日本からは現在3種が知られています。モヨウモンガラドオシ、シマウミヘビ、そして近年日本からも報告されたマダラシマウミヘビです。
かつては、属の標準和名にもなっている「ゴイシウミヘビ」という種もいました。
モヨウモンガラドオシの体側の斑紋は3~4列、ゴイシウミヘビのそれはほぼ5列であることで見分けられるとされましたが、この仲間の斑紋は変異が多いことが判明。現在はゴイシウミヘビとモヨウモンガラドオシは同一種であるとされており、ゴイシウミヘビという種の標準和名は現在は使われません。
しかしながら、モヨウモンガラドオシの含まれる属の標準和名については「ゴイシウミヘビ属」として、この名称が残っています。
筆者は大阪府出身でよく親に和歌山県の白浜や串本、太地などの水族館に連れて行ってもらいましたが、「ゴイシウミヘビ」という名前はその時に初めて覚えた魚名のひとつだったように思い、その名前が残ったことについてうれしく思います。
和歌山県の水族館だけでなく、結構多くの水族館でその姿を見ることができ、中にはウツボ科の魚などと飼育されていることもあります。
なお、標準和名で「モンガラドオシ」という種もいますが、モヨウモンガラドオシはゴイシウミヘビ属であり、一方モンガラドオシはウミヘビ属という別属となっており、とくに近縁というわけではありません。
この2種は背鰭起部の位置(モンガラドオシでは背鰭起部がモヨウモンガラドオシよりも後方)、歯の形状(モヨウモンガラドオシでは顆粒状、モンガラドオシでは鋭い牙状)などで見分けることができます。
ウミヘビ科の飼育
さて、ここまではモヨウモンガラドオシを飼育した思い出を紹介しました。
ウミヘビ科の魚といえば、夜に投げ釣りやブッコミ釣りで釣れるホタテウミヘビやダイナンウミヘビなども含まれています。この仲間を飼育しようとすると、なかなか難しいところがあります。
これらの種は非常に大きく育ち、うまく飼育するのであれば、小さくても幅120センチの水槽が欲しいところです。
また、これらの種は海底に穴を掘ってその中に潜んでいることが多く、飼育下でも穴が掘れるように砂を敷いてあげたいところですが、砂を厚く敷くと硫化水素も発生しやすいので注意が必要です。
その大きさもあわせて、水族館レベルの飼育技術と飼育環境が要求されるでしょう。筆者はホタテウミヘビを飼育したことがありますが、どうしても痩せてしまい、うまく飼育することはできませんでした。
ウミヘビ科の魚の中でも、先述のモヨウモンガラドオシやシマウミヘビなどは観賞魚店でも販売されていることがあります。小さいものは比較的小型の水槽でも飼えるものの、より細かい隙間からも出てしまうことがあり、脱走を防ぐために細かい隙間を埋めるなどの対策も必要になります。
もちろん大型になる魚なので、将来的にはやはり幅120センチの水槽が必要になると思います。もちろん大きくなりすぎたからといって海に放流するということは避けなければなりません。
なお、「ウミヘビ」とよばれる生物にはモヨウモンガラドオシなどをふくむ魚類のウミヘビ科のほかに、爬虫類のウミヘビ科(またはコブラ科)もいます。爬虫類のウミヘビ科は特定動物に指定されており、飼養に許可が必要ですが、一般家庭での飼育は現実的ではなく、ここでは紹介しません。
(サカナトライター:椎名まさと)
参考文献
中坊徹次編(2000)、日本産魚類検索 全種の同定 第二版、東海大学出版会
中坊徹次編(2013)、日本産魚類検索 全種の同定 第三版、東海大学出版会
Search Fishbase (Sweden mirror)