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ドライビング感覚で淹れるエスプレッソ・マシン: 大矢麻里&アキオの毎日がファンタスティカ!イタリアの街角から#27

PARCFERME

イタリアには、ユニークで興味深い、そして日本人のわれわれが知らないモノがまだまだある。イタリア在住の大矢夫妻から、そうしたプロダクトの数々を紹介するコラムをお届けする。

イタリア人は“エスプレッソ命”だ。記録的な暑さが続く2025年夏も、彼らは家庭で、バールで熱々の一杯を楽しんでいる。その本場で見つけた興味深い1台をご紹介しよう。

ポルシェ×ラ・マルゾッコ

今回の舞台は、世界最大級のデザインの祭典「ミラノ・デザインウィーク」だ。期間中に市内で展開される「フォーリサローネ」には、世界中の企業やクリエイターが参加し、新製品や新作を披露する。

2025年、出展数は公式ガイドブックに掲載されているものだけでも1066を数えた。そうしたなかイタリアの名門コーヒーマシンメーカー『ラ・マルゾッコ』は、ポップアップストアを構えた。場所は、市内で最も洗練されたエリアであるブレラ地区だ。

ストアを訪ねて最初に目に飛び込んできたのは、店頭にアイキャッチとして置かれた1台のポルシェ911だった。サイドビューには「LA MARZOCCO」のロゴが誇らしげに記されている。そして店内で展開されていたのは、なんとポルシェと共同開発したという家庭用高級エスプレッソマシンであった。

ミラノ・デザインウィーク期間中、ラ・マルゾッコのポップアップストア前には1台のポルシェ911が。
『ポルシェ×ラ・マルゾッコ リネア ミクラ』。 (Photo: La Marzocco)
『ポルシェ×ラ・マルゾッコ リネア ミクラ マルティーニ・レーシング』

ダイヤルもメーターも

『ポルシェ×ラ・マルゾッコ リネア・ミクラ』と『ポルシェ✕ラ・マルゾッコ リネア・ミクラ マルティーニ・レーシング』は、いずれも既存の家庭用マシン『リネア・ミクラ』を基本としている。

スチームと湯を抽出するダイアルは、911のステアリングに付いたドライブモード切り替えスイッチを模している。圧力計はスピードメーターを彷彿とさせるデザインだ。さらに抽出部下のドリップトレイとカップウォーマーのホール(穴)は、「911 GT3ツーリングパッケージ」のリアデッキのリッドグリルを見る者に想起させる。

ポルシェ×ラ・マルゾッコ リネア・ミクラの筐体色は、911のボディカラー「スレート・グレー・ネオ」を反映したものだ。対してリネア ミクラ マルティーニ・レーシングは、1973年にシチリア島の長距離耐久公道レース「タルガ・フローリオ」を制した911 カレラRSRに触発されたものという。

スタッフのルカ・ファヴィーリ氏は「見た目の模倣ではなく、『操作する楽しさと機能性の融合』といったポルシェのプロダクト哲学を反映しました」と胸を張った。

本体側面にもマルティーニ・カラーが走る。
(左)限定911台の1号機を示すプレートが。(右)ポルシェ911 GT3ツーリングパッケージのリアデッキのリッドグリルを連想させるドリップトレイ。(photo: La Marzocco) 

スターバックスも惚れ込んだ

ポルシェとのコラボレーションとは別に、ラ・マルゾッコの沿革も興味深い。彼らは1927年にフィレンツェで創業。小規模ながらも、職人の手で1台ずつ丁寧に作るエスプレッソマシンは、早くから高い評価を得た。1930年代には、従来の縦型だったボイラーを世界で初めて水平にしたマシンを開発。その構造は現在の業務用マシンの礎となった。

次なる飛躍のチャンスは1980年代から90年代にかけて、スターバックス・コーヒーによってもたらされた。ラ・マルゾッコ製マシンの安定性・耐久性・抽出品質の高さがアメリカ人の目にとまったのだった。フィレンツェで作られるマシンは、のちに世界的チェーンとなる草創期の彼らの味を支えた。同時に、それによって世界中のバリスタにラ・マルゾッコの名が知られるようになっていったのだ。

しかしスターバックスが店舗網を拡大するにつれ、大きな問題が生じた。マニュアル方式のラ・マルゾッコ製のマシンは素晴らしい風味を実現できるものの、一定の技量を要した。採用されたばかりの新人店員が均一な味を素早く提供するのは困難だった。そのため2000年代に入ると、スターバックスからラ・マルゾッコ製マシンは姿を消していった。

かわって近年では、ふたたびラ・マルゾッコ製マシンがスターバックスで採用されるようになった。ハイエンド店舗や一部旗艦店のクラフト志向にぴったりであるというのがその理由だ。変わらぬものづくりに、幸運の女神がふたたび微笑んだのである。

書き手の私が付け加えるなら、操作にある程度のテクニックが要求され、達成したときに最高のプレジャーが与えられ、かつその感覚が時を経てふたたび評価されるとは、まさに911ではないか。

解説をしてくれたスタッフのルカ・ファヴィーニ氏(左)とカミッラ・カタルツィ氏。

日常の悦楽

ラ・マルゾッコは、業務用で培った技術を反映した家庭用モデルに進出。2022年に発表したリネア・ミクラが、今回のポルシェとのコラボレーションのベースとなった。

『ポルシェ×ラ・マルゾッコ リネア・ミクラ』の販売価格は税込5.075ユーロ (約87万円)。『ポルシェ✕ラ・マルゾッコ リネア・ミクラ マルティーニ・レーシング』は税込5.383ユーロ (約92万円)と、いずれも911台の限定生産である。

会場にいた一人の男性に声をかけると、彼の父親はかつてポルシェのオーナーだったという。
ポルシェ✕ラ・マルゾッコのマシンを見ながら、「カラリング、アナログメーターやアルマイト仕上げのパーツなど、細部にファンをくすぐる遊び心が溢れています。スチームノブをひねる感覚なんて、まさにドライブしている高揚感に包まれそうじゃないですか」と熱く語る。

ただしファヴィーニ氏によれば2024年10月からポルシェセンターやデザインストア、そしてオンラインショップで発売を開始したところ、わずか8時間で完売したという。

それを知った男性は、こう付け加えた。「もう高齢で愛車を手放してまった父親にプレゼントしたら、さぞ喜んだろうに、と思います」

幸運にも手に入れたオーナーにとっては、日々の生活を至高の体験へと昇華させるマシンになるに違いない。そうした意味でも911のキャラクターと重なるのである。

INFORMATION :La Marzocco
https://www.lamarzocco.com/porsche-x-la-marzocco-linea-micra-martini-racing/

来場者にはラ・マルゾッコのマシンで淹れたエスプレッソが振る舞われた。紙製デミタスカップもポルシェとのコラボ仕様。
こちらはコラボ記念のポストカード。

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