Yahoo! JAPAN

江戸時代に活躍した女性狂歌師たち。その作品を紹介!【大河ドラマ べらぼう】

草の実堂

手習筆女。『古今狂歌袋』より

日本古来の和歌に風刺や諧謔を加え、世相に対する人々の本音を詠んだ狂歌。

江戸時代後期には大田南畝(おおた なんぽ)や朱楽菅江(あけら かんこう)、宿屋飯盛(やどやの めしもり)に銭屋金埒(ぜにやの きんらち)など、多くの狂歌師が活躍しました。

狂歌師と聞くと男性ばかりの印象ですが、中には女性も狂歌師として活躍していたことがわかります。

今回は江戸時代に活躍していた女性狂歌師とその作品を紹介。果たして彼女たちは、世の中をどのように詠んでいたのでしょうか。

女性狂歌師①霞千重女

霞千重女。『古今狂歌袋』より

恋尓(こひに)身を こ可寿(こがす)花火と 君ミなは(見なば)
淡(あわ。泡)ときえん(消えん)も 物可ハ(ものかわ。川)の中

※宿屋飯盛 選『古今狂歌袋(山東京伝 画/蔦屋重三郎 版元)』より、霞千重女

【歌意】あなたは、恋に身を焦がす私の想いを、花火のように儚いものと思われるのでしょうか。
水泡のごとく消えてしまうと思われるのでしょうか。もしそうならば、私もろとも川の中へ消えて(入水して)しまいたい。

……随分と重い想いが詠まれていますね。

おそらく想い人が、自分の想いを「いっときの迷いに過ぎないから」と本気にしてくれないのでしょう。

この想いの花火は決して消えないし、まして水泡に帰するなど絶対に嫌だ。

そんな想いは、果たして遂げることが出来たのでしょうか。

霞千重女(かすみの ちえじょ)とは

生没年不詳、出自や事績も詳細不明。千重が名前で、霞はいわゆる源氏名か。

山東京伝の画を見ると中世の白拍子(しらびょうし。遊女)のようにも見えます。

そういう趣向(コスプレ?)だったのか、あるいは平安末~室町期ごろの人物だった可能性もあるでしょう。

※『古今狂歌袋』は江戸以前の人物・作品についても収録されています。

狂歌にまつわる何か伝承があったものと思われますが、今後の究明に期待しましょう。

女性狂歌師②手習筆女

手習筆女。『古今狂歌袋』より

浮き草の 根も葉も今は 絶えにけり
池の氷の 罪深くして

※宿屋飯盛 選『古今狂歌袋(山東京伝 画/蔦屋重三郎 版元)』より、手習筆女

【歌意】今まで浮草のように、心の向くまま自由な恋に生きてきた私だが、今は噂のタネにされるような華やかさと縁遠くなってしまった。
今ではすっかり冷え込んでしまい、深い池に張った氷をのぞいて見れば、まるで浄玻璃鏡のように私の罪を映し出すばかりだ。

……若いころ、さんざん色恋を楽しみ、大いに浮き名を流してきたのでしょうね。

それが歳をとってどの相手とも結ばれず、孤独な晩年を過ごしている。

浄玻璃鏡(じょうはりのかがみ)とは、地獄で閻魔大王が罪人に生前の罪業を見せつけるために使う鏡。

その鏡面には、自分が生まれてから死ぬまでずっと、あらゆる行いが映し出されるそうです。

いわゆるアカシック・レコードというもので、果たして池の氷には、どんな恋愛絵巻が映しだされたのでしょうか。

手習筆女(てならいの ふでじょ)とは

こちらも生没年から出自、事績など詳細不明。

恐らくは筆が名前で、手習とは自分の未熟さ(色んな意味で)を自嘲または謙遜したものと考えられます。

山東京伝の挿絵では当世風(江戸時代)の女性として描かれているため、おおむね同年代を生きていた女性なのでしょう。

今後の解明が期待されます。

女性狂歌師③節松嫁々

節松嫁々の夫・朱楽菅江。宿屋飯盛 撰『吾妻曲狂歌文庫』より

飛鳥川(あすかがわ) 内は野となれ 山櫻(やまざくら)
ちらずば寢には 歸らざらまし

※『耳嚢』巻之三

【歌意】明日は亭主が帰って来るだろうかと、ずっとずっと待ちぼうけている。荒れ果てた我が家のことなど知ったこっちゃない、後は野となれ山となれだ。
遊郭の山桜が散って(資金が尽きて遊女に振られて)しまわない限り、寝にも帰って来ないだろうよ。

……飛鳥川とはイメージどおり、大和国(奈良県)を流れる川。飛鳥を(帰ってくるのは)明日かにかけています。

後は野となれ山「となれ」を切り取って、山桜とつなぎ、遊女を花に喩えました。

※また吉原遊郭の中には桜の木も植えられています。それも指して(遊女を象徴して)いたのでしょう。

さっさと散ってしまえばいいのに、どうした訳かなかなか帰って来やしない……そんな妻のうんざり顔が目に浮かぶようですね。

節松嫁々(ふしまつの かか)とは

生没年不詳。実名は「まつ」、通称は「ちか」と言いました。

夫は狂歌師として活躍した朱楽菅江(あけら かんこう「あっけらかん」のもじり)とのこと。

狂号は「伏し待つの嬶(かかあ)」または「不始末の嬶」に由来する説が有力だそうです。

前者は亭主の女遊びがあまりにひどいので、帰りを待ちきれないから「寝て待つ(伏し待つ)」ことから。

後者は何かやらかしたのか、何とも愛嬌のある感じですね。

夫と共に狂歌界の盛り上げに尽力し、夫に先立たれた後も狂歌師らの面倒を見たと言います。

終わりに

今回は狂歌師として活躍した(であろう)三人の女性とその作品を紹介してきました。

お江戸の街は男性が多かったため、女性狂歌師の存在はかなり目立ったのではないでしょうか。

果たしてNHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」でも女性狂歌師が活躍するのか、今から楽しみにしています!

※参考文献:

・『古今狂歌袋』
・『耳嚢』
文 / 角田晶生(つのだ あきお) 校正 / 草の実堂編集部

【関連記事】

おすすめの記事