“この夏がおわるころ、何かがはじまる。” 孤独を抱える脚本家と少年が垣間見る、忘れられた記憶『くまをまつ』
「第37回東京国際映画祭」NIPPON CINEMA NOW部門に正式出品された滝野弘仁監督『くまをまつ』が2025年6月7日(土)よりポレポレ東中野ほか公開することが決定した。
孤独を抱える脚本家と少年が垣間見る、忘れられた記憶の断片―夕闇を超え、深い空洞の先へと続く夏の夜の夢
脚本家のややこは、昨年死んだ祖父・隆二郎の古民家に滞在し、祖父の遺した日記を題材に新作を執筆している。そんなさなか、姉の仕事の都合で、夏の間だけ甥(おい)の少年タカシを預かることになる。これまで交流のなかった2人だが、ややこはタカシを昔の自分と重ね合わせて執筆中の脚本に取り入れようとする。そんな思惑も知らず、タカシは夜中に見た“黒い影”や謎めいた青年、ややこの元恋人との出会いを経験しながら夏を過ごす。やがて夏の終わりに、タカシは深い石切場の奥で隆二郎の古い記憶に触れる。そしてややこは、創作を通して自らの“罪”と向き合うことになる。
本作の監督は、宮藤官九郎・甫木元空・今泉力哉などの話題作に助監督として関わってきた滝野弘仁。監督の出身地である石川県小松市の古民家と石切場を舞台に、脚本家のややこと8歳の少年タカシが体験する“土地の記憶と創作”が入り混じる不思議なひと夏が描かれる。
ややこ役は、濱口竜介監督『親密さ』にて鮮烈な印象を残した平野鈴。タカシ役には、今作が映画初出演となる渋谷いる太。さらに『雨の中の慾情』の中村映里子をはじめ、大場みなみ、松浦りょう、内田周作など話題作で活躍する実力派俳優が集結。竹内啓や星能豊といった石川県出身の俳優も多数出演している。
創作は、人の心を揺さぶり、生きる力を与えると同時に、他人の人生を奪うこともある。その境目で創作を続けるややこは、様々な作品に関わってきた滝野監督自身そのものだろう。創ること、傷つくこと、それでも生きること。幼少期の記憶、そして生まれる前の記憶。あらゆる人々の生きる時間と場所を呑み込み、暗がりで「くま」が目を光らせている。映画と人生に正面から向き合った滝野監督の渾身の長編デビュー作に期待だ。
今回解禁されたメインビジュアルには、祖父の日記を読むややこの後ろ姿と、なにかを凝視するタカシの表情が採用されており、「この夏がおわるころ、何かがはじまる。」という予感に満ちたキャッチコピーが添えられている。