子どもの「癇癪(かんしゃく)」「不安」「朝起きられない」を改善する3つの栄養素とは 医学博士が解説
子どもの困った行動を改善する食事を紹介。「朝起きられない」「かんしゃくを起こす」「急に不安になる」こうした症状は、栄養不足が原因の可能性があります。困った行動を引き起こすメカニズムや改善法を栄養療法の専門家・野口由美先生が解説します。
7人に1人が「境界知能」 発達障害・知的障害との違い 「就職で苦悩」…医師が解説昔と比べて、現代は食べるものに溢れています。しかし、たくさん食べていても必要な栄養素をとれていない“栄養不足”の子どもも少なくありません。こうした栄養不足が、心身の不調を引き起こしている場合もあると、栄養学の観点から、不登校や不安障害で悩む子の症状を改善してきた医学博士の野口由美先生は話します。
シリーズ第1回では、最初に行うべき「低血糖対策」について教えていただきました。第2回では、実際にどのような栄養素をとっていくべきか、また、食事のコツやサプリメント選びの注意点などについて伺います(全2回の2回目)。
栄養不足はメンタル面にも影響を及ぼす
栄養の作用は、身体の調子を整えたり細胞を作ったりするなど、肉体への影響だけに目がいきがちです。しかし、栄養にはメンタルを健康に保つ役割もあると、野口先生は言います。
「セロトニンやメラトニンといった言葉を聞いたことはないでしょうか。これらは、メンタル面に影響を及ぼす、脳内の神経伝達物質です。
たとえば、セロトニンは精神の安定をもたらす効果があり、メラトニンは睡眠のリズムを調整します。代表的な神経伝達物質と、その働き、不足することで起こる症状は次のとおりです。
実は、これらの神経伝達物質の原料となるのはタンパク質。そして、合成に必要になるのがビタミンB群と鉄です。つまり、タンパク質・ビタミンB群・鉄が不足すると、私たちの心身はバランスが崩れやすくなります」(野口先生)
現代は栄養不足になりやすい環境?
現代は、飽食の時代といわれていますが、栄養トラブルを抱えている人もいます。食べる物には困らず、しっかりと食べているにもかかわらず、なぜ栄養不足になってしまうのでしょうか。
栄養不足の原因①手軽に食べ物が手に入る環境
コンビニやファストフード店がいたるところにあり、簡単に食べ物が手に入る環境こそが、栄養不足を招く原因の一つ。多くの場合、子どもはお菓子やジャンクフード、コロッケ、唐揚げなど、美味しくて安くて、手っ取り早く食べられる物を選びがちです。
しかし、こうした食べ物は、栄養があまりないだけではなく、添加物が多く含まれます。添加物は、栄養素の消化・吸収を阻害してしまうのです。また第1回でも紹介したように、お菓子などの甘い物を食べることで、低血糖を引き起こすというデメリットもあります。
栄養不足の原因②親の栄養状態が良くない
親の栄養状態が良くない理由はたくさんあります。
まず、手軽に食べ物が手に入る環境が栄養不足につながると説明しましたが、これは子どもだけではなく大人も同じ。大人も、ついコンビニで甘い物やスナックを買ってしまうことがあるでしょう。
また、毎食の量の目安は、食べる人の『手のひら分のタンパク質』『両手分の野菜』『握り拳分の炭水化物』ですが、これを聞くと、そのような食事をとっていないと思う人は多いのではないでしょうか。たとえば、朝食がパン、昼食がサンドイッチといった食事では、栄養不足になりますよね。
こうしたことから、大人も栄養不足に陥りやすいのです。赤ちゃんは、ママの身体から栄養をもらって育ちますから、栄養不足のママから生まれた赤ちゃんは、生まれた時点で栄養が足りない状態であることが多いのです。
また、生まれたあとも、子どもは親と同じような食事をして育つため、対策をしない限り、栄養不足のまま育ってしまいます。そうして、栄養がさらに必要な成長期がやってきたときに、ガクンと栄養状態が悪化し、「突然、朝起きられなくなる」ということが起こるのです。
栄養不足の原因③子どもが忙しくなった
昔と比べて、今の子どもはとても忙しい日々を送っています。習い事に塾、部活動……と、やるべきことがたくさんあるため、ゆっくり食事をする時間がありません。時間がないために、よく嚙まずに急いで食べると、せっかくとった栄養素もうまく消化・吸収されません。
また、ストレスも悪影響を及ぼします。ストレスを感じると、腸管が動かなくなるので、栄養素が十分に消化・吸収されませんし、ストレスはビタミンやミネラルも消費します。
ちなみに、「食べるのがめんどくさい」など、その子自身が食事に興味がないというケースもあります。このような子には、食事の大切さを説明すると良いでしょう。
私の過去の治療経験でも、「栄養不足だと身体がうまく働かないどころか、現在の不調につながっている」ということを子ども自身が理解できると、食事に対する態度を変えていくケースが多かったです。
「タンパク質」「ビタミンB群」「鉄」を積極的にとろう
栄養不足を改善するには、神経伝達物質の生成に必要な栄養素「タンパク質」「ビタミンB群」「鉄」を意識的に取り入れていくことです。それぞれの栄養素を多く含む食品は次のとおりです。
<タンパク質、ビタミンB群、鉄を多く含む食品>
タンパク質…豚肉、牛肉、鶏肉、卵、大豆、魚
ビタミンB群…豚肉、牛肉、鶏肉、卵、緑黄色野菜
鉄…牛肉、赤身の魚(マグロなど)、レバー
「特に、タンパク質は2、3種類とるようにしましょう。毎食の量の目安としては、食べる人の『手のひら分のタンパク質』『両手分の野菜』『握り拳分の炭水化物』です。
しかし、タンパク質不足だと、消化酵素が十分に作られないため、肉を食べると胃がもたれたり、少量しか食べられなかったりします。
「なんとなく食べたくない」という場合は、消化酵素が十分に作られていない可能性も。 写真:アフロ
このような場合は、1食分を数回に分けて食べてみてください。毎食大量に食べるよりも、少量ずつこまめに食べたほうが、消化・吸収もしやすいですし、血糖値の急上昇・急降下も防げます」(野口先生)
食が細い子も、少しずつ量を増やしていくことから始めていくと良いでしょう。食事改善をしていく上での食事のコツを、さらに野口先生にいくつか伺いました。
食事のコツ①「複数の食材から栄養素をとる」
前述したように、「手のひら分のタンパク質」と考えると、「手のひらサイズのステーキを毎食食べなければいけないの?」と思う方もいるかもしれません。
しかし、“タンパク質”をとれば良いわけですから、タンパク質を含む食材を2~3種類食べればOKです。たとえば、お肉にゆで卵、納豆、しらすをのせた冷奴など。また、かつおぶしやいりこの粉をご飯や冷奴にかけて食べるのもおすすめです。
このように、少しずつ頻回にとるようにすると、意外と1日のうちにたくさんのタンパク質を摂取できます。
ちなみに、鉄分の摂取には、調理のときに鉄のフライパンや鉄瓶を使うのも手。少量ではありますが、長い目で見ると、使うのと使わないのとでは、鉄の摂取量に差が出てくるでしょう。
食事のコツ②「消化・吸収しやすいよう食べ方を工夫する」
せっかくとった食べ物も、きちんと消化・吸収されなければ意味がありません。そのために重要なのが、よく嚙んで食べること。よく嚙むことで唾液の分泌もうながされますし、食べ物が細かく砕かれるので消化しやすくなります。
また、塊肉よりはひき肉のほうが消化しやすいのでおすすめです。最初のうちは、肉団子やハンバーグなどを出したり、ステーキを食べる場合は小さくカットしてあげましょう。
消化・吸収を助ける食材をとるのも良いです。大根には消化酵素が含まれているので、一緒に食べると消化を助けてくれますし、梅干しや酢の物、リンゴ酢、レモン水など、酸っぱい物は鉄の吸収を高めてくれます。
食事のコツ③「補食をとる」
少量ずつ栄養素を取り入れていくためのコツは、第1回でも紹介した補食をとることです。
朝食と昼食の間、昼食と夕食の間に補食をとるのが理想的ですが、学校の規則などにより、平日の日中にとれない場合は、まずは学校終わりや休日に試してみてください。
補食は、鶏そぼろや卵そぼろの一口大おにぎり、お味噌汁、葛湯、甘栗、干し芋、黒豆などの煮豆、ゆで卵、ボーンブロススープなどがおすすめです。特に良いのは、いりこの出汁で作るお味噌汁です。出汁は添加物が含まれた顆粒のものではなく、いりこやかつおぶし、昆布などの粉がパックされたものを使うと良いでしょう。
味噌の原料である大豆はタンパク質を多く含みますし、いりこ出汁には、魚から出てきたアミノ酸が含まれます。アミノ酸というのは、タンパク質の最小単位なので、消化・吸収されやすいのです。
さらに、出汁の香りは副交感神経を優位にしてくれるので、お味噌汁の香りをかぐことで、リラックスするというメリットもあります。もし理由を伝えて学校の許可が得られるなら、水筒にお味噌汁を入れて持っていくのも良いでしょう。
またお味噌汁のほか、骨付き肉を煮出して作るボーンブロススープも、栄養価が高くおすすめです。
補食をどれくらいとれば良いのかは、人によって異なります。そのため、できればその日の何時に何を食べたか、体調・気持ちの変化などを子どもに聞いて、親がメモしておきましょう。すると、どれくらいの量・回数をとったら良いのかが見えてくるはずです。
サプリメントを選ぶときは原材料をチェック
手軽に栄養素を摂取できるサプリメント。簡単に取り入れられるものですが、サプリメント選びには注意点があると野口先生は話します。
「食事から栄養素をとることができればベストですが、不足分はサプリメントで補っても良いでしょう。ただ、市販のサプリメントには、添加物や糖質が多く含まれているものもあります。
そのため、市販のサプリメントを購入する際には、商品の成分表示を見て、添加物などが含まれていないものを選びましょう」(野口先生)
親も子どもと一緒に取り組もう
親は子どもに早く良くなってほしいと願うからこそ、思うように食べてくれないとイライラしたり、注意したりしてしまいます。しかし食事改善をするときには、怒らず、できるだけおおらかに見守ることが大切です。
「子どもは、怒られると緊張し、それが胃腸の働きを悪くしてしまいます。すると、せっかくとった栄養をうまく消化・吸収できません。たとえジャンクフードであっても、まったく何も食べないよりは食べた方がまだ良いので、最初は食べてくれるだけマシだと思いましょう。
そのために、親も一緒に食事改善に取り組むことをおすすめしています。実は、子どもの問題行動に悩む親自身が栄養不足で、精神的に不安定だったり、イライラしやすかったりするケースが少なくないからです。
子どもだけに強制するのではなく、親も一緒に取り組むことが大切です。 写真:アフロ
親の栄養状態が改善されていくと、イライラして子どもに当たることも少なくなります。すると、子どももリラックスできて、栄養状態が良くなっていきます。親子で食事改善に取り組むことで、連帯感も生まれて、一緒に頑張れたり、絆が深まったりするでしょう。
まずは、紹介した食事法をご自宅で試してみてください。それでも行き詰まったり、さらに詳しいことを聞きたいといった場合には、栄養療法の専門家に相談をしてみることをおすすめします」(野口先生)
仕事に家事にと親も忙しいので、すべてを一気に試すのは難しいかもしれません。その場合は、タンパク質・ビタミンB群・鉄を意識的に取り入れる、補食で栄養を補うなど、子どもと一緒に、できることから少しずつ始めていきましょう。
特に新陳代謝の活発な子どもは、症状改善の変化が現れるのが早いと野口先生は話します。食事改善を続けていくと、子どもの困った行動が改善したり、親自身も子どもや育児に対しての気持ちが安定していくはずです。
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◆野口 由美(のぐち ゆみ)
医学博士(大阪大学)。日本医学放射線学会放射線診断専門医。日本抗加齢医学会専門医。
関西医科大学卒業後、関西医科大学附属病院内科などでの勤務を経て、九州大学病院心療内科へ。そんな中、自身の病気が発覚。療養の経験から、西洋医学にさまざまな補完代替医療を組み合わせた統合医療クリニック「クリニック千里の森」を開設。栄養療法やバッチフラワーレメディなどを用いて、薬に頼らない医療を提供している。
取材・文/阿部雅美