中西アルノ(乃木坂46)、私立恵比寿中学 真山りか&安本彩花とセッション!『Spicy Sessions』最新収録レポート
株式会社TBSテレビが運営するCS放送『TBSチャンネル1 最新ドラマ・音楽・映画』にて毎月放送中の音楽番組『Spicy Sessions』(スパイシーセッションズ)。先月行なわれた4月、5月放送回の収録を、ゴスペラーズをデビュー当時からよく知り、数々のアーティストのオフィシャルライターを務める音楽ライター・伊藤亜希が取材。収録後のMCインタビューと合わせて番組の魅力を伝える第7弾をお届けする。
観客の目の前でミュージシャン同士がコミュニケーションを取りながら、音楽を作り上げていく。これが『Spicy Sessions』(スパイシーセッションズ)という音楽番組である。MCを黒沢薫(ゴスペラーズ)と中西アルノ(乃木坂46)が務め、CS放送TBSチャンネル1で放送中だ。この番組についてゴスペラーズのとあるメンバーが“黒沢は毎回、まったく別のライブをやっているようなもの。1日に2本収録でしょ。1日に2本、別のライブがあるのと同じ。本当にすごいことだと思う”と語っていた。
本番中にハーモニーや演奏の打ち合わせをして、その流れですぐにセッション。この緊張感が息をのむような音楽空間を作り出す。ここが番組の最大の魅力であるが、収録回数を重ね、ほかにも見どころが生まれてきた。黒沢、中西、ゲストミュージシャン、バンドメンバーたちの距離感だ。セッション曲が決まり、そこから歌割りやバンドのアレンジを決めていく行程の中で、黒沢はもちろん、中西も積極的にゲストやバンドメンバーたちに話しかけていく。ステージ上で複数の会話が同時に進行することも頻繁にあり、賑やかな楽しさがある。リラックスして音楽への好奇心を全開にする、黒沢、中西、ゲストミュージシャンの表情が見られるのは、回を重ねてきたからこその新たな醍醐味。このスリリングとリラックスのコントラストもまた、『Spicy Sessions』の魅力になってきている。
4月の放送回には、私立恵比寿中学から真山りかと安本彩花がゲストで登場。拍手の中、ステージに登場した真山と安本は、黒沢が2人のために書き下ろした楽曲「明日」を披露。続くトークコーナーでは、中西が私立恵比寿中学の印象を、真山と安本が乃木坂46の印象を述べ合うレアなシーンも。ゲストの音楽的ルーツを丁寧に聞いていく黒沢。真山が“15年活動してきた中で苦しい瞬間もあって、そんな時に励まされたのがサンボマスターさん”と吐露。黒沢と真山でサンボマスターの「輝きだして走ってく」を歌唱することになった。“歌割りも真山さんにやってもらおう”と黒沢。歌詞を見ながら、真山が歌割りを始める。中西はタンバリン、安本はシェイカーでセッションに参加することになり、ドラムの高尾俊行にアドバイスを受けながら、2人で練習。セッションが始まると、観客はリズムに合わせて手を叩き、レスポンスした。安本が中西とのセッション曲に選んだのは、JUDY AND MARYの「そばかす」。“歌割りはおふたりにしてもらって”と言う黒沢に“考えてみます!”と返す安本と中西。黒沢はバンドメンバーとアレンジやタイミングの確認。中西に呼ばれ、客席に背中を向けていた黒沢が振り返る。“サビを下ハモでいきたいなって……”と相談する中西に、黒沢がアドバイス。“ミスるかもしれないけど……(セッションは)生モノ、生モノ、いけたらやりたい”と言っていた中西だったが、まさに生モノと思わせる本番の模様はぜひ放送で観ていただきたい。真山と安本が中西とセッションしたいと選んだ曲は、私立恵比寿中学の「SCHOOL DAYS」。歌いながら真山と安本に、丁寧にアイコンタクトをする中西の姿が印象的だった。最後は中西からのリクエストで、黒沢がサザンオールスターズの「いとしのエリー」をソロ歌唱。高音ではギリギリまでチェストボイスでひっぱり、最後にファルセットで余韻をつける匠技を見せた。“最高! これぞ黒沢薫、さすが師匠!!”と、中西は興奮気味に感想を述べていた。
5月放送回のゲストは一青窈。“SNSに傷ついても大丈夫、世界は広い、元気になってほしいと思って”という言葉から、オリジナル曲「耳をすます」を披露。観客を1人ずつ見つめながら歌っていく。ライブハウスとはまた違う、自分のための歌が目の前にある。観客を巻き込む距離感も『Spicy Sessions』の魅力だ。中西の熱望が叶った一青のゲスト出演。その歌声とボーカルアプローチの自由度に中西は“目指すべき姿です”と真っ直ぐ一青を見てコメントしていた。アカペラサークルを通して、一青の大学時代から知っているという黒沢。ルーツを深掘るトークの中で注目していただきたいのが、修学旅行のバスの中でのエピソード。一青、黒沢、中西の性格の違いが出ていたこと、黒沢の歌唱力がゴスペラーズのリーダー・村上てつやと出会うきっかけにつながったことなど、非常に興味深い展開を見せた。一青と中西が小坂明子の「あなた」をセッション。“しゃべるように歌うといい”という一青の言葉に、中西が“前から思ってたんです。しゃべるように歌う方だなって”と、一青への想いを伝える。黒沢、中西と歌詞を見ながら歌割りやハモりを決めていた一青が“すれ違う2人の物語。重なりたいけど重ならない、すれ違いの歌にしたい”と言い、黒沢と一緒にハーモニーを考えていく。決まったハーモニーに中西から“むずっ!”と本音が飛び出す。中西に定期的に取材をするようになって1年と少しだが、もっとこうしたい、もっとこうなりたいと、具体的な目標が明確になっているように感じる。『Spicy Sessions』は、中西アルノにとって、毎回、試練だ。それは今でも変わらないだろう。しかし、多彩なジャンルのゲストとセッションし、成功体験を重ねる中で、ポジティブに自分の歌に足りないところは何かを考えられるようになったように思う。取材中も、丁寧に、自問自答するように話していた中西が、本番収録中に“むずっ!”と発するとは驚いた。『Spicy Sessions』は中西にとって、己を開放できる空間になっていたのだ。いや、中西がそういう空間にまで引き上げたというのが正しい。番組開始当初とは明らかに違う主役感が、今の中西アルノには備わっている。続いてのセッション曲は、黒沢が“一青さんとR&Bを歌ってみたい”と、アリシア・キーズ「If I Ain’t Got You」に。黒沢と一青が歌詞を見ながら話し始める。途中、一青が黒沢に“さっきから「自由に」って言ってるけど、そんなに「自由」で成り立たない”とツッコミ。客席から笑いが起きた。歌い終わったあと、黒沢は“セッションイベントで歌っているような楽しいひと時”と笑顔に。R&Bという黒沢のホームグラウンドで披露した本曲は、そこにいたすべての人を圧倒するほどのエネルギーと説得力を持っていた。これまでの『Spicy Sessions』の中でも、名シーンに入る1曲になっていたと思う。同じく一青と黒沢がセッションしたゴスペラーズの「あたらしい世界」では、一青と本曲の意外なエピソードも飛び出す。中西がソロ歌唱曲として選んだのは松田聖子の「赤いスイートピー」。多彩なジャンルのミュージシャンにカバーされている、アイドルの枠を超えた名曲。昭和を代表するヒット曲の1つでもある。その曲を中西はしっかり自分のものにし、バンドのオリジナルアレンジに合わせて見事に表現していた。
MCインタビュ―
収録を終えた黒沢薫と中西アルノに感想を訊いた。
――放送15回目、16回目の収録お疲れさまでした。それぞれを比較すると音楽ジャンルがまったく違う収録になりましたね。
黒沢:
そうですね。自由度の種類が違うゲストが2組揃ったという。音楽のジャンルが大きく違うから幅が出るとは予想していたんですが、それをはるかに超えていたので驚きました。これも音楽、こっちも音楽っていう……そう思わせることが大事だと思っていたので、そこはしっかり出せたんじゃないかな。
中西:
『Spicy Sessions』は来ていただくゲストさんの雰囲気によって、色が変わっていく番組だと思うんです。そこが本当にやっていて楽しいですし、学ぶことも本当にたくさんあります。自分はまだまだだなって毎回思うんですけど、それは自分にとってはすごくポジティブな気持ちで。もっとここをこうしよう、もっとこうしていきたいって思えるようになってきています。
――中西さんが歌詞を見ながら歌割りを決めるシーンもありました。
黒沢:
新機軸ですよね。アルノさん、普通にさらっとやり始めましたけど(笑)。アルノさんが自分主導で動き始めていることは、ファンの方はもう感じていると思っていたんです。だからそれをしっかり見せられて良かったな、と。
――中西さん、歌割りを決めていく時にまず考えたことは?
中西:
まずはやっぱりゲスト(=安本彩花/私立恵比寿中学)の方を立てること。どう来るかなと思いながら、その色には染まってみようって思いました。安本さんは、小さい頃から「そばかす」を何度も歌ってきたっておっしゃっていたので、安本さんの歌から出る空気に私も乗っかって、私はこう歌ってみようとか、そういうことができるかなと思ったので“最初の歌い出しはお願いします”ってなりました。
黒沢:
最初に引っ張ってもらった方が、違う球を投げやすいからね。やっぱり引っ張ってもらって、そこに乗ろうと思ってのあの歌割りだったんだね。
中西:
私の印象なんですけど「そばかす」でのYUKIさん(JUDY AND MARY)の歌い方は、言葉をすごく立てている。お腹から声を出して言葉をはっきり歌うっていうイメージがあったんです。それこそ安本さんは、そういう曲の魅力をとてもよく知っていると思ったので、私は違うアプローチをした方がセッション感があって面白いかなって。
――言葉をつないでいくニュアンスの歌い方をしていましたもんね。
中西:
バンドのアレンジがオリジナルよりも少しこう、力の抜けた感じがあって大人っぽいなと思ったので、そこに合わせてラフにというか、気だるさを意識して歌ってみました。
――ちなみに、おふたりがいつもセッション曲用の楽曲資料に赤ペンで何かを書いているじゃないですか。どんなことを書いているんですか?
黒沢:
歌割りを名前で書いて。あとは時々、発音に気をつけなきゃいけないところにマークをつけたりしていますね。
中西:
私は自分が歌う部分にチェックをつけて、ハモるラインに線を引いて。で、そのラインがウマく取れないなって思った時には、黒沢さんに相談して。“ちょっと下”とかをメモしています。それを歌いながら薄目でこう(……と、薄目の表情になる)見ながら(笑)。
――私立恵比寿中学のおふたりと中西さんとのセッション曲、中西さんが真ん中にいるのがかなりエモかったです。
黒沢:
わかります(笑)。普通にキュンキュンしました。
――客席全体がキュンキュンするっていう状態でした。
黒沢:
ですよね。伝わってきましたね、客席のムードも。僕は客席で観たいなと思いながら、横から観てました(一同笑)。リハーサルの段階からすごくよくて、本番では最高のものになった。ピークをしっかり本番に持っていけるっていうのが、どの分野でも一流の人だと思うんですよ。そこを真山さん、安本さん、アルノさんが見せてくれた。最高のシーンでしたし、本当に嬉しかったですね。
『Spicy Sessions with 真山りか&安本彩花(私立恵比寿中学)』
放送日時:2025年4月26日(土)23:30〜深夜0:30
『Spicy Sessions with 一青窈』
放送日時:2025年5月31日(土)23:30〜深夜0:30
放送チャンネル:CS放送TBSチャンネル1