マライア・キャリー「恋人たちのクリスマス」山口智子の主演ドラマで日本でも大ヒット!
常識を破ったクリスマスの定番「恋人たちのクリスマス」
12月に入って街がクリスマスムードに染まり始めると、どこからともなく流れてくる音楽がある。もちろんお馴染みの「ジングル・ベル」や「サンタが街にやってくる」など、もはや空気にも馴染むようなBGMに交じって、時折、山下達郎の「クリスマス・イブ」やワムの「ラスト・クリスマス」といった、ポピュラー音楽が混じることもある。
特に2000年代以降においては、マライア・キャリーの「恋人たちのクリスマス」(原題:All I Want For Christmas is You)が、ひときわ多く流れてくるように思う。「クリスマス・イブ」のような荘厳さも「ラスト・クリスマス」のような感傷もないが、アップテンポで明るいこの楽曲が華やいだ街の風景によりフィットしているように感じられるのだ。
今からちょうど30年前、オリコン最高2位を記録
この曲がリリースされたのは今からちょうど30年前の1994年。年数から言ってもう立派な “オールディーズ” と言えなくもない。当時のオリコンシングルランキングでも最高2位を記録。国内洋楽シングルの売上枚数は109.4枚と歴代3位の記録を誇るクリスマスの定番としても社会的にも広く認知されているといってよいだろう。
日本の音楽市場は世界有数の規模を有しているため、国内先行で独自性が強いのが特徴である。それゆえ海外アーティストに関しては、アルバムセールスの実績にこそアーティストパワーが顕著に表れる。そう、同曲が収録されたマライア・キャリーのアルバム『Merry Christmas』は、シングルをはるかに上回る280万枚を売り上げている。日本におけるマライアの人気がいかに大きいか分かるだろう。
クリスマスアルバムを成功させたマライアの変心と決断
だが、1990年のデビュー以来、既に3枚のアルバムで成功を収めてきた彼女が、クリスマスアルバムをリリースしたことについては、どことなく違和感を覚えないわけでもなかった。人気沸騰、今まさに天下を取ろうかというアーティストが、いわゆるクリスマスアルバムという “企画もの” に手を染めるというのはいささか気が早いように思えたからである。
実は当初、この方針を打ち出したマネジメントに対し、難色を示していたのは他ならぬマライア自身だったという話がある。だが、マネジメントチームはあえてそこにチャンスを見出そうと考えた。チームを率いたのは、当時マライアの夫でCBSレコードのトップであるトミー・モトーラ。彼は彼女とその制作陣に対して粘り強く交渉を重ね、ついにそれを実現する。
アイルランド系白人の母親とアフリカ系黒人の父親の間に生まれ、異なるルーツを持つマライアは、その生い立ちと育った環境から “ホリデーシーズンの祝祭” というものに特別な想いを抱いていた。そして “クリスマスにはいつもキャロル(讃美歌)を歌いに行っていた” という自らの体験から本心に抗えない魅力を感じて、前向きにアルバム制作に向き合えたという。制作陣もクリスマスアルバムに対するネガティブイメージを払拭して彼女の決断を支持した。
こうしてトップアーティストのクリスマスアルバムという画期的な試みはスタートする。当初は『恋人たちのクリスマス』という楽曲は、あくまでアルバムのキャラクターを明確にするための新曲として制作された作品だったようだ。そんな軽い気持ちを表すかのように、わずか15分程度で書き上げられた曲だという。決してシングルとしてミリオンヒットを目論むような作品ではなかったのである。
国内セールスを加速させたドラマ「29歳のクリスマス」とのタイアップ
アルバムの日本発売は1994年10月29日。シングル「恋人たちのクリスマス」も同日リリースされ、先にも述べた通りの大ヒットとなった。折しも同年10月クール、フジテレビの木曜劇場枠で放送されたドラマ『29歳のクリスマス』の主題歌として採用されたのも、日本でのセールスを押し上げた1つの大きなきっかけとなった。
ⓒフジテレビ
ドラマの主演は当時ブレイク中の山口智子。共演者に松下由樹、柳葉敏郎を迎え、彼ら男女3人の友情とそれぞれの恋愛模様を描いた群像劇である。脚本はこの類のドラマを書かせたら右に出る者がいない鎌田敏夫が手掛けた。また、この “29歳” という主人公の年齢設定は、実はそのまま主演俳優の実年齢にも当てはまる。そしてかくいう筆者も同世代として特別な思い入れを抱きながらドラマを観ていた覚えがある。
この作品において、タイトルの “クリスマス” はギミックに過ぎない。恋愛適齢期の男女にとって、言うなればクリスマスは “いかに意中の相手と過ごすことができたか” ということに設定されたゴールでもある。ストーリーの中ではそのことが必然的に描かれていたわけではないが、全10回で構成されたこのドラマは、キャスト人気も手伝って10月20日の初回放送から視聴率は20%を突破。回を追うごとに注目度は高まりクライマックスとなる最終回の12月22日には26.9%の高視聴率をマークする。
そして主題歌のチャートアクションもそれに呼応するように順位を上げ、12月19日には最高位の2位に浮上。当時大人気のMr. Children「Tomorrow never knows」のヒットに阻まれ、惜しくも首位獲得はならなかったが、年跨ぎでヒットチャートを席巻することになった。
この曲のポテンシャルからすれば、ドラマタイアップの後押しなどなくても、一定の成功は得られただろう。だが、全米、全英チャートと足並みを揃えるようにチャートを駆け上がり、世界同時ヒットをもたらした瞬発力まで得ることはできなかったはずだ。それは洋楽ファン以外からもリスナーを呼び込むことができたドラマタイアップの貢献がなければ、成し得なかった快挙である。
この曲に込められたマライアの想いとクリスマスソングを歌い継ぐという使命感
この作品に込められたマライアの想いは、幼少の頃の悲しい記憶の裏返しとも言われており、“他には何がなくてもいい、ただあなたにいて欲しい” という歌の内容は、彼女の切実な願望が込められたものとされている。“あなた” とは必ずしも恋人ではなく、時には家族であったりするかも知れない。この楽曲がリスナーたちの心に響くのは、彼女が自身にとって幸せなクリスマスを想って歌っているからで、それだけ彼女は強い使命感を感じながら、ホリデーシーズンに臨んでいるのである。
今年はアルバムリリースから30周年を迎えるアニバサリーイヤーということもあって、記念アルバム『メリー・クリスマス ~30th Anniversary Edition~』のリリース、そして恒例のクリスマスツアーの実施と精力的に活動を続けている。今シーズンも世界中のヒットチャートでゾンビの如く甦ってランキングを賑わせ、各地で再びセールス記録を更新することになるのだろう。