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「中学校で開花」「家庭と学校は両輪」主体性を信じた教員と保護者が語るリアルな声〔ある公立小学校教員の驚きの実践〕

コクリコ

子どもが主体性を発揮し、いきいき過ごすために、学校と保護者はどのように連携したらいいのでしょうか。子どもの主体性を重視した授業に取り組む現役の公立小学校教員・大窪昌哉氏と、かつての教え子の保護者3名に、先生と保護者の協力のあり方、信頼関係を築くヒントなどをうかがいます。

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子どもが主体的に行動するためには、周囲の大人が意志や決定を尊重し、信じて見守る姿勢が不可欠です。子どもの主体性を大切にした授業を行う現役の公立小学校教員・大窪昌哉先生は、「保護者と教員が良好な関係性を築けると、子どもたちの主体的な学びはより深まる」と話します。

連載第4回では、大窪先生の前任校の保護者3名にもご参加いただき、教員と保護者が信頼関係を築けた理由、主体性を信じてもらえた子どものその後などを、座談会形式で語っていただきます。

【大窪昌哉(おおくぼまさや) プロフィール】
大学卒業後、一般企業の経理部に7年間勤務し、小学校の先生になるため30歳で退職。通信大学で小学校の教員免許を取得して、逗子市内の小学校にて教員人生をスタート。2024年度から葉山町立上山口小学校に勤務。

【座談会参加者】
大窪先生が2019年度~2021年度に担任した子どもの保護者3名。お子さんは全員同学年。小学校4年生(2019年度)から大窪先生が学年の担任に。翌年の小学校5年生時(2020年度)にコロナ禍の一斉休校があり、大窪先生は子どもの主体性を重視した授業を開始。

内山さん
息子が小4のときに大窪先生が担任。小5~小6は別のクラス。

門脇さん
娘が小4のときに大窪先生が担任。小5~小6は別のクラス。

小野寺さん
娘が小5~小6のときに大窪先生が担任。小4は別の先生が担任。

左側から時計回りで内山さん、大窪先生、門脇さん、小野寺さん。  写真:川崎ちづる

大人が「主体性を信じる」で変わった子どもたち

──大窪先生がお子さんたちを担任していたのは、門脇さん、内山さんが4年生、小野寺さんは5~6年生のときです。みなさんのお子さんが5年生のとき、大窪先生は主体性を大切にする授業に大きく舵を切りましたが、当時、お子さんにはどんな変化がありましたか?

小野寺さん(以下小野寺):子どもの「顔色」が変わったと感じました。

小野寺:うちの娘は天真爛漫だけど、学校に対しては少し斜に構えていました。それが大窪先生が担任になってから「学校大好き」に変わり、夏休みも学校に行きたくて「早く休みが終わらないかな」と言うくらいになりました。

「子どもが変わりました!」と語る小野寺さん(写真手前)。  写真:川崎ちづる

──かなり大きな変化ですね。

小野寺:あんまり楽しそうだったから、「先生はどんな授業をしているの?」と聞いてみたら、「おおくぼっちは別になにもしてないよ」って言うんです(笑)。今、考えると、自由進度学習など子どもたちが進める授業のことだったんでしょうね。

夜に友だちとオンライン勉強会をしていることもありました。「三権分立」がテーマで、自分たちで調べる社会の授業でしたが、学校では時間が足りなかったから続きをやりたいと子どもたちが自主的に集まっていたとか……。

大窪先生(以下大窪):そうそう、ある子が提案して始まったんです。

門脇さん(以下門脇):大窪先生のクラスだけじゃなく、当時は学年全体で「決まった宿題」は出さない方針でしたよね。自分が勉強したいことを自主学習として取り組むのが宿題で、担任の先生に「自主学習をすごく頑張っていますよ」と言われたのを思い出しました。

内山さん(以下内山):私は、子どもが4年生のときに大窪先生に担任してもらったのですが、個人面談で相談した際、子どもをしっかり見てくれている安心感がありました。

小野寺:子どもたちが4年生のときに大窪先生が学年の担当になって、その後5、6年と持ち上がり、学年全体がすごく安定したと思います。5年生でコロナ禍になってイベントは次々中止、林間学校にも行けなくなりました。「代わりに何かやろう」となったときに、先生方は子どもにすべて委ねてくれました

大窪:子どもたちが話し合って、全部決めたんです。学校でキャンプファイヤーをして、レトルトのご飯とカレーを温めて食べて、歌を歌って……。

子どもたちが実施したワンデーキャンプの様子。  写真提供:大窪昌哉氏

火をおこしてカレーを温めました。  写真提供:大窪昌哉氏

小野寺:自分たちで考えて創ったものだから、すごく特別で忘れられない時間になっていました。「子どもの主体性を信じる」ってこういうことなんだなと、私も教えてもらいましたね。

中学校でさらに開花した主体性

──当時のお子さんたちは現在、全員が公立中学校の3年生です。小学校高学年で経験した「任せてもらえる」経験は、具体的にはどんな部分で花開いていると感じますか?

門脇:おかしいと思ったことには声をあげる。その上で、解決のために行動するようになり、校則などいろいろなことを変えていっています。

小野寺:体育祭など毎年同じ流れだった行事も、子どもたちが先生に提案して話し合って変更したんです。自ら行動する力が炸裂しています。

門脇:部活動でも小さな「いざこざ」を自分たちで解決する姿勢が常にあって、顧問の先生とも対等に話をしています。働きかければ自分たちの考えや意見を反映できる。そう信じて行動できるのは、小学校時代の経験があるからだと思います。

大窪:すごくうれしいですね。だけど、家庭での基盤も大きいです。子どもは家で言いたいことを言えるから、学校でも口に出せる。内山さんのお子さんは、環境学習のとき大手お菓子メーカーに「過剰包装を変えてほしい」と自ら電話していましたよね。あのときの行動力はすごかった! 家庭での見守りが、自信を持った行動につながるんだと思います。

内山:すごく張り切っていました。その後、包装が紙に変わって、「僕のおかげだ!」とうれしそうでした。

小野寺:子どもの主体性を考える上で、家庭と学校は両輪ですね。

「主体的な子ども」は学校と家庭の信頼関係がキモ

──学校と家庭の「両輪」を回すためには、先生と保護者がお互いを理解することが重要です。ただ、現状ではとてもハードルが高いと感じます。どうしたら信頼関係が築けるでしょうか。

門脇:「正解」はないし、大窪先生がいれば必ず同じような学年になるわけでもないから、常に話し合える関係が大切だと思います。

──保護者としては、先生との距離感は悩ましいです。たとえば、宿題が多いと感じても、それを伝えるのはなかなか難しい。

小野寺:これは下の子(小4)の話ですが、先日の面談で、スポーツを頑張っているので宿題ができない日があるけれど、親としてはそれでいいと思っていることを伝えました。ドリル的な宿題よりも余白と休息が必要な日もあるという考え方を、最後は先生も受け入れてくれました。考えが完全に一致していなくても、話すうちにお互いがわかるし、信頼関係は築けます。伝え方に工夫は必要になりますが。

門脇:担任と話すことも大切だけど、子どもと先生の相性もあります。学年のほかの先生ともゆるくつながれたら、さらに安心です。

小野寺:当時は、そういう「学年全体で関わる機会」がありました。ちょうど大窪先生が担任になった年に、数年前に廃止された親子のレクリエーション企画を保護者主導で復活させようとしていて。先生側からすると「忙しいし関わりたくない」が本音だと思うんですけど、大窪先生はすごく協力的で、積極的に動いてくれました。

内山:PTAではなくやりたい人がやる「自主企画」で、カレーを作ってみんなで食べるとか、水鉄砲合戦とかもありました。

小野寺:親も子どもも一緒に楽しめる機会があると、普段の学校生活のちょっとしたすれ違いが全部、整うんです。単に一緒に遊ぶだけですが、保護者と先生がつながるきっかけにもなる。そうすると、お互いに頼みごとをするハードルが低くなって、子どもにとっていいことばかりです。

学校と家庭の連携については、特に盛り上がりました。  写真:川崎ちづる

大窪:教員としても、楽しくやっているとその先に保護者とのつながりができて、自分の授業や子どもへの関わりを理解してもらいやすくなる。それでうまく回ることって、実はたくさんあります。

小野寺:今、先生方は本当に忙しくて難しいけど、イベントがあれば、学校を介さず保護者同士で解決できることも増えるんです。だから、少しでも一緒にできたら……と思います。

PTAではない「みんなが楽しい」活動を

──確かに、先生と保護者がイベントなどで関わることができれば、信頼関係ができるかもしれません。一方で、共働き世帯が増え、保護者も先生同様に時間がなく忙しい状況です。PTAを解散する学校なども出ています。

小野寺:従来型のPTA的によくある「決まったことに奉仕する」内容だと難しい。無理にやらされる環境では、人は集まらない。でも、「得意なことで関わってください」なら、やりたい人も増えるという実感があります。

門脇:「みんな楽しい」が大事です。その場に集まった人が「やってみたい!」と思うことならなんでもいい。これまでのやり方は一度忘れて、まずは親自身が楽しめる状態を作ることが必要な気がします。

内山:目に見えて「子どものため」になる活動だと、やる気が出る人も多いです。海外では、お祭りの売り上げが子どもたちの修学旅行費に加算される国もあります。バンド演奏で投げ銭をもらう、何かを作って売るなど、さまざまな方法で協力しています。

座談会は、教員と保護者とは思えないほど対話が弾みました。  写真:川崎ちづる

大窪:保護者と教員の関係性ができれば、変わっていくことも多いと思います。現状は、「子どものため」という思いは共通しているのに、ボタンを掛け違えてしまっている。保護者が教室にくると教員は監視されていると感じたり、反対に学校から連絡があると保護者は子どもに対して注意を受けるんじゃないかと恐れてしまったり。そこを解きほぐしていくことが大切なんだと、改めて感じました。お互いに「そんなことを考えていたんだ」と知る機会を、もっと作っていきたいですね。

大窪先生の実践や保護者の方のお話からは、「子どもはそもそも主体的な存在」で、大人がそれを邪魔しない環境さえ整えれば、積極的に自ら行動することが伝わってきます。

保護者は子どもを心配するあまり、先回りして口や手を出したくなりますが、それが子どもの主体的な行動の妨げになっていないかよく考える必要があるでしょう。主体性は「育てる」ではなく、気づいたら「出ている」もの。それを肝に銘じ、子どもと一緒に楽しみながら日々を過ごしていきたいものです。

─◆─◆─◆─◆─◆─◆

写真:竹花康

【大窪昌哉(おおくぼまさや) プロフィール】
大学卒業後、一般企業の経理部に7年間勤務し、小学校の先生になるため30歳で退職。通信大学で小学校の教員免許を取得して、逗子市内の小学校にて教員人生をスタート。2024年度から葉山町立上山口小学校に勤務。子どもたちと学びを楽しみ、みんながいきいきとした素敵な時間や場を共創するために、さまざまな学びの場へ参加している。

取材・文 川崎ちづる

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