男性育休が増えない理由は? パパやパートナーの育休についてお聞きしました
17.13%――これは日本の男性の育児休業取得率です。(※1)
この数字を見て、どう感じますか?
2021年6月、ユニセフが発表した報告書『先進国の子育て支援の現状』によると、日本の育児休業制度は経済協力開発機構(OECD)および欧州連合(EU)加盟国41か国中で1位。しかし、この“世界1位”の制度を持つ国で、どうして父親の育休取得率はこれほどまでに低いのでしょうか?
子育てをママがひとりで背負わず、パートナーと一緒に楽しめる社会にしたい――。そのためには、男性の育児休業に対する周囲の理解やサポート、職場環境やキャリアへの不安を取り除き、ハードルをもっと低くすることが大切です。
そこで、ミキハウスでは「ミキハウスクラブ」のメンバーを対象にアンケート調査を実施しました。パパやパートナーの育児休業取得の実態や、育休中のパパがどんな育児を行ったか、ママの声など、リアルな体験をもとにした生の声が寄せられました。そこから見えてくるこれからの子育てのあり方や、社会に求められることについて考えていきます。
目次パパ(パートナー)の育休取得の実態どうしたら男性育休が増える?育休中のパパ(パートナー)はどんなことをしてる?子育てしやすい社会になるために求めるもの
パパ(パートナー)の育休取得の実態
赤ちゃんを迎えることは、家族にとって、そして人生にとっても一大事です。新しい命を大切に育んでいくことは、なにものにも変えがたい喜びを運んでくれますが、それと同時に妊娠期間とはまた違った苦労や心配ごとが増えてくるのも事実です。
産後のママにとって、からだと心をゆっくりと休める間もないまま始まる赤ちゃんのお世話はとにかく大変。そんなときにパパ(パートナー)のサポートがあることは、何よりも心強いものです。
ミキハウスが行ったアンケートでは、パパ(パートナー)の育休取得率は40%弱。厚生労働省の調査よりその割合は多いものの、依然として半数以上が育休を取得していない(しない)ことがわかりました。
育休を取得しなかった理由としては「職場の雰囲気や同僚の理解不足」「上司や組織のサポート不足」という回答が目立ちました。
2022年4月に施行された育児・介護休業法の改正により男性の育児休業取得推進が義務化され、「産後パパ育休」制度の創設や「育児休業の分割取得」など、企業側も男性の育児参加を後押しする流れが生まれ始めています。しかし、実際に育休を取得するとなると、まだまだ周囲の理解やサポートが不足しているのが現状です。
どうしたら男性育休が増える?
実際に育児休暇を取得した人の回答を見ると、職場のサポート体制への満足度が高いことがわかります。
このことから、男性の育休取得には周囲の理解とともに、育休中の業務の分担や復帰後のキャリアサポートなど、職場内でのサポート体制の充実が不可欠です。
大切なのは、子育てを女性だけのものと考えず、「男性も育児をするのが当たり前」という意識を広めること。また、育休が職場でのキャリアに響かないこと、さらに休業中の経済的な不安を抱かずに済むサポート体制の整備も重要です。
アンケートによると、パパ(パートナー)が育休を取得して育児を分担することは、その後の子育てや夫婦関係にも良い影響を与えるという回答が多く見られました。
新生児の子育ては目を離すことができない時期。そんな時期にママとパパが協力し、子育ての大変さを共有することは、育児への向き合い方だけでなく、夫婦関係の絆を深めることにもつながります。
その意味で、男性の育休取得は家族として強い結びつきを形成するための大切な時間を作ることと言えるでしょう。
育休中のパパ(パートナー)はどんなことをしてるの?
では、実際に育児休暇を取得したパパ(パートナー)は、どんな育児をしていたのでしょうか。
まずは育休の期間について、次の表をごらんください。
パパ(パートナー)の育休取得期間を見ると、1か月未満と1〜3か月がほぼ同じ割合という結果に。
育児・介護休業法では、「産後パパ育休」は子どもの出生後8週間以内に4週間まで取得が可能、「育児休業制度」では原則子どもが1歳(最長2歳)になるまでの期間に取得が可能です。いずれも分割して2回取得することができます。
ママの育休とパパ(パートナー)の育休を交互に取るなど、育児と職場復帰を上手に両立するために、事前にしっかりと計画を立てることが大切かもしれません。
それでは、パパ(パートナー)はどんな育児活動をおこなっているのでしょうか。
多くのパパ(パートナー)は、おむつ替えや食事、入浴、寝かしつけといった子どもの日常のお世話を中心に、家事の一部を担うことで子育てに参加しています。子どもと遊んだり、家事を手伝ったりするパパ(パートナー)の存在は、ママの安心にも繋がっています。
また、第2子以降の出産の場合は、上の子のお世話も大切な育児のひとつ。保育園への送迎やお風呂、遊びなどはパパも参加しやすく、ママは新生児のお世話に専念できるメリットもあります。
育休中のパパ(パートナー)の育児の実態について、アンケートに寄せられたママからのコメントの一部をご紹介します。
“産後は夫が食事の準備、買い出し、上の子の送迎とお風呂、洗濯、掃除もしてくれて助かりました。 産まれた子にミルクをあげたり、寝かしつけをしてくれたり。 私が動けるようになってからは、少しずつ家事を分担して行うようになりました”
“里帰り出産をしたため衣食住は実母が見てくれました。その間、自宅にいる夫は上の子と遊んでくれたりどこかへ連れて行ってくれたりしました”
“上の子も下の子も里帰り出産だったため、産後1か月、夫は私の実家に泊まり込みで子どもの世話をメインでやってもらっていました。 里帰り終了後は、買い出しと上の子の保育園の送迎はすべてやってもらい、そのほかは私の様子を見て、できることを自発的にやってくれています”
育児に積極的なパパ像が垣間見える回答が多く寄せられましたが、中にはこんな回答もありました。
“里帰り出産だったため夫も一緒に実家に帰省しましたが、夫は実家にいる間は家事も育児もほとんどせず…。自宅に戻ってからはケンカの毎日でしたが、おむつ替えだけはできるようになりました。やってほしいと伝えると、不十分ではあるが何となくやろうとする気持ちはあるようです”
育休を取ったのはいいものの、育児をすることなく「ただの休暇」のようにすごしてしまうパパにイラッとさせられるママも少なくないようです。育児できるパパに時間をかけてなってもらえばいい、なんて心の余裕など、産後のこの時期のママにありません。育児をサポートするのではなく、自分も育児をするのである――そんな当事者意識をもっと多くの男性にもってもらう必要がありそうです(もちろんそのような意識を持たれているパパ(パートナー)もたくさんいるとは思いますが)。
子育てしやすい社会になるために求めるもの
アンケートでは男性の育児休業について「どのような制度があれば取得しやすいか、または取得したいと思うか」についてもお聞きしました。実体験をもとに寄せられたさまざまな回答の中で、特に共通して挙げられた意見は次の3つです。
国による男性育休取得の義務化/企業の義務として強制力をもたせる給料を100%補填する取得期間を1か月〜半年と、長期で取れるようにする
まずは男性育休取得の義務化。アンケートの回答からは、産後すぐの体力的にもつらい時期にパパ(パートナー)の支えを求める切実な姿が見えてきます。
再び、ママからのコメントを一部ご紹介します。
“妻の産休と同等の強制力を持った男性育休制度。理想は出産予定日1週間前から産後10週くらい。父親がそばにいてくれるだけで産後の母体保護にもなると思う”
“最低でも産後の床上げが終わる1か月は育休を取得してほしい。今の職場は女性でも産休だけで復帰される方がほとんどなので、男性の育休取得なんてとても無理。職場側から取得を促すような風潮を作ってほしいし、社会全体で意識改革をしてほしい”
“産後1か月は母体の体調も管理すべきだと思うので、1か月程の強制的な育児休暇取得制度があればよいと思う”
“パパの職場では育休を取得している男性もおられますが、部署による差が大きいのが現状です。パパの上司は「育児はママがするもの」という考えのため、男性が育休を希望しても取らせてくれないようです。上司や同僚の考え方の違いで取得のしやすさに差が出ないような制度があればいいなと思います”
記事冒頭にも書いたように、日本は世界でトップクラスの育休制度を持つ国。その制度がうまく運用されていないのであれば、国の政策としてももう一歩踏み込む必要があるというママたちの本音が聞こえてきます。
続いて多かったのは、給料を100%補填するという意見です。子育てにはお金がかかるのに給料が安くなるのは困る、というのは当然です。
また、アンケートの回答の中で印象的だったのが、サポートする職場の同僚の負担を気にした意見です。決して職場に迷惑をかけたいわけではないけど育休は取得したい、というジレンマが見て取れます。
“「育休は必ず取る」という風潮にし、給料の減額の代わりに国から補助があればよい”
“給料が全額支給される。同じ部署の方へ仕事の負担がかからない仕組みづくり。 半年ぐらい気にせずに取ることができればいいなと思います”
“育休を取得する人も職場でサポートする人にもプラスになるような制度があったらいい”
“個人事業だと育休を取ると無給になるので、個人事業主でも手当などが出る制度がほしい”
3つ目は取得期間に関する意見です。育休は取れたものの、職場での無理解や復帰後のキャリアへの影響を気にしながら期間を決めないといけない現実もあります。
“長期の育休だと会社にも迷惑をかけるし、周囲からいい顔をされなかったりする事があり、復帰後がやりづらくなりそう。育休という名前で数週間のお休みを何回か取れたり、有休とは別枠で急にお休みが取れたりするといいなと思います”
“育休でどれだけ休んだとしても、社内の昇格人事に影響しないという確約があれば取得する人が増えると思う”
育休制度はあるけれど、職場の人間関係やその後のキャリアを考えると十分に活用できないという事情が見え隠れします。
その他にも、育休制度に関してママからはさまざまな声が寄せられています。
“うちの場合は社員数が少なく、休むとその穴埋めが難しいから簡単に育休を取ることができません。ある程度人数が増えて誰かが休んでも回せるような会社になってもらいたい”
“昔ながらの考えの方が多く、会社で育休を取ったという前例がありません。もっと若い従業員が気兼ねなく育休を取りやすい職場環境になったらいいと思います”
“企業の理解の薄さ。年代が上の人は特に「育児は女性(ママ)がやるもの。男性は働く」という意識が強く、共働き時代に合っていない考えが根強い。都道府県で企業の向けに今の育児についての講座を開くなど、理解を深めて広めてもらうのがいいと思う”
“現在の育休制度は素敵だと思います。主人が自営業のため、ほかの方とは違い休みたい時は休める環境ですが、育休制度などありません…”
どれも切実な問題ですが、このリアルな声をひとつひとつ汲み取っていくことで、男女共に堂々と育休を取れて、子どもを育てながら職場復帰できる、安心して子育てができる社会になるのではないでしょうか。
最後に当事者であるパパにも、理想的な育休制度についてのご意見をお聞きしたところ、以下のようなご意見が寄せられました。
“給料やボーナスが全額出れば1年取れるようになるし、会社にも国から育休取得者がいる所は何かしらの支援があれば理想だと思う”
“育児休業取得直近3年くらいの年間手取り額で一番多い年と同額の手当てが支給されるとともに、強制的に育休を取得しなければいけない制度が良いと思います”
“産後1年間、いつでも、何回でも取得できるのは一番理想的です。それを実現するため、その間仕事が増えた同僚たちに対するサポートに注力してほしいです”
たしかに「いつでも何回でも育休が取れるのが理想的」というのは頷けます。一方で、サポートする側の負担だけが増えたのでは本末転倒です。子どもがいるいないに関わらず、働く人が働きやすい環境にするにはどうしたらいいのか。また、一歩進んで、育休制度の活用が促進することで、結果的に職場にもよい影響をもたらすような好循環が生まれるにはどうしたらいいのか――このあたりの議論がより進んでいくことを願っています。
男性も育児休暇を取得し、夫婦で子育てがしやすい社会であることは、少子高齢化が加速するこれからの時代にとって非常に重要な課題です。すべての大人がかつては子どもだったのですから、今を生きる大人たちは、子どもたちの成長を温かい目で見守り、手を差し伸べる優しいまなざしを持つ存在であってほしいと願います。そのためにも、子どもや子育てへの理解を深め、余裕を持ったサポートができるよう、国や企業、地域の協力が欠かせないのだと感じました。誰もが安心して、かけがえのない子育ての時間と向き合える世の中になっていくといいですね。
※1 令和4年度(2022年度)雇用均等基本調査