プロで生き残るために実践していること、考えていること! 巨人、高梨雄平投手の連載日記「ナシさんのアリな話 鉄腕奪取」第6回!
第6回 プロで生き残るために実践していること、考えていること!
投手として自分の強味は「雑に使える」こと!
『ラブすぽ』読者のみなさん、読売ジャイアンツの高梨雄平です。前回のコラムの最後に、僕はプロ野球の世界に「メシを食いに来た」と書いたのですが、今回はプロ8年目を迎えた僕が、「メシを食う」ために、何を考えて、何を実践してきたのかを伝えたいと思います。
まず僕は、プロ入りしてから一貫して、「リリーフ」という役割でマウンドに立ち続けています。たくさん投げても壊れないし、左で変なところから投げているし(笑)、誰が見ても「リリーフタイプ」の投手だと思っているので、今のポジションには不満も一切ありません。もし、僕を「先発」で使いたいという球団があったとしたら、「ちょっと……大丈夫ですか?」と聞き返してしまうかもしれません(笑)。
もちろん、可能性はゼロではないので、先発のためのトレーニングを積んで、そこだけにフォーカスしたら、ローテの7.8枚目。つまり谷間に頑張って入れるか入れないか。「それって僕である必要なくない?」とも思うんです。
投手として、自分が持っている要素を考えたら、左のリリーフとして1イニングだったり、もっと短いイニングを任せられる――「雑に使える」のが自分の強味なんです。
「雑」と言ってしまうと、ネガティブな印象を持つ人もいるかもしれませんけど、僕のマインドセットはちょっと違います。重要なのはプロの世界に何をしに来ているのか」ということ。
野球が上手くなりたい――。良いプレーがしたい――。子どもたちに尊敬される野球選手になりたい――。もちろん、それは大事なことなんですけど、あくまでも「手段」であったり、後からついてくること。僕はプロ野球という世界に「メシを食いに来た」ので、そのための最善の方法が「雑に使われる」ことなら、何も気にしません。
「ケガをしないこと」が最優先!
もちろん、それには「積み重ね」や「実績」も必要です。一言で「雑に使われる」と言っても、実際に雑に使われてもケガをしなかったり、数字を残せなければ意味がない。なんの実績もない選手が「僕、雑に使っても大丈夫なんで!」と言ったところで、誰も信用してくれません。こればかりは、1試合1試合、1年1年、結果を積み重ねていくことでしか得られないものだとも思います。
その上で、「積み重ねる」ために今まで大事にしてきたのが「ケガをしない」ことです。プロ入りの時から、その稼ぎ方が自分には一番合っているだろうなという仮説を立てて、トレーニングやケアを続けてきました。プロ野球選手として、時間が限られている中でどういう能力を伸ばすか――。それを考えたときに、タフな選手であることが自分には一番向いているなと思ったんですよね。
プロの中には、2~3年に一回は故障するけど、万全なら圧倒的な数字を残すタイプの選手もいます。そういう選手も年俸は上がりますけど、自分はそういうタイプではない。意識するのは、とにかく穴をあけないこと。プロの世界は故障でいなくなる選手が本当に多いんです。であれば、一軍で投げられる最低限の能力を持ちつつ、故障もしないことを目指す。1年単位だと評価されにくいかもしれないけど、5年とか10年のスパンで見ると、そういう選手もしっかり評価されるはずなんです。
プロの世界でも、リリーフで長い期間、投げ続けている人って数えるほどしかいないんです。左で言えば、岩瀬仁紀さん(元中日)、山口鉄也さん(元巨人)、宮西尚生さん(日本ハム)……最近だと岩崎優さん(阪神)はリリーフ転向後、毎年投げ続けていて、めちゃくちゃ尊敬しています。ただ、みなさんが「故障をしていない」かどうかは分かりません。もしかしたら故障を抱えながら投げ続けているのかもしれない。
ただ、ひとつ言えるのは、プロ野球の世界でリリーフとして「メシを食えている」人たちは総じて「投げ続けられている投手」だということです。>
……と、ここまでいろいろと書いてきたのですが、実は僕自身「今現在は毎年投げ続ける」ためにメチャクチャ節制しているとか、身体のケアに気をつかいまくっているかというと、実はそうでもなかったりします(笑)。お酒も飲むし、意外と好き勝手に生きている。だから、自分の中で「投げ続けることのむずかしさ」みたいなものは、実はあまり感じていないんです。
でも傍から見れば3年離職率80%くらいの企業で8年間ニコニコ仕事していることになるので、そう考えると「むずかしいことやっているのかな」とは思います(笑)。
あえて「長続き」できたことの要因を挙げるとすれば、つねに「バランス」だけを考えているからかもしれません。たとえば、「球速を上げる」ことは当然メリットもありますが、関節や靭帯にこれまで以上の負荷がかかるリスクもある。そこで、どちらを取るのか――。そうやって、メリットとデメリットを秤に欠けながらあらゆることでバランスをとることだけを考えています。
もちろんリスクを恐れてばかりいたら、選手として成長できません。「維持する」ことを考えても「加齢」という現象があるので、同じことだけを続けていたら必ずどこかでバランスは崩れます。
結局、最初の話に戻るんですけど「プロの世界でメシを食う」ためには何をやって、何を捨てるのか――。そのバランスをとり続けることが、実は一番大切だし、むずかしい気もします。
その意味では、僕がお酒を飲んだり、好き勝手に生きているのも、ある意味で「バランス」をとる行為なのかもしれません。ストイックに、野球のことだけを考えて24時間、365日過ごしたら、今よりも技術は伸びるかもしれない。ただ、それをしたらどこかでメンタルが崩れるかもしれないし、先に身体が悲鳴を上げる可能性もある。抜くところは抜きつつ、「野球」に悪影響が出ない程度にとどめておくことも、必要なはずです。人間としての生活を楽しむことが結果的に野球に活きると今は考えています。
大切なのは、どんな行動にも根拠を持つこと。お酒を飲むことに関しても、僕は飲まない生活も試したうえで、「飲む」ことを選択しています。その上で、「これ以上飲んだら野球に影響が出る」というラインは守る。
「プロ野球の世界でメシを食う」
これを突き詰めるうえで、野球のことはもちろん、プライベートな事柄も含めて「最適解」を選択すること。それが、僕が8年間、プロの世界で意識し続けてきたことかもしれません。
ただ、ここまで書いてきて、読者の皆さまに勘違いしてほしくないことがあります。それは、最初からバランスをとろうとしていたわけではないと言う事です。野球の事だけを考え、とにかくたくさんの量をやる、時間をかけるなど、一度は自分のリソース全てを極端に突っ込むことで、「やること」と「やらない」こととのバランスが見分けられる。ワークライフバランスや効率といったことは、最初から考えるものではないと「僕は」思っています。
文章って、伝わるように書くのが非常に難しいですが、僕も楽しく続けていきますので今後も是非お付き合いください。