子どもの科学への好奇心を育むために、親や大人ができること――宇宙飛行士・野口聡一さんにインタビュー!
子どもが科学に興味をもつためには、どのような環境やはたらきかけが必要なのでしょうか。大人になっても好奇心をもち続ける科学者は、どのように科学の魅力に引き込まれたのでしょうか。53か国で翻訳されているベストセラー「はじめてのサイエンス」絵本シリーズの日本語版が、2025年の春から順次刊行されます。本シリーズの推薦者である宇宙飛行士の野口聡一さんに、ご自身の幼少期のお話や、「STEM教育」の本来の目的など、「子どもの探求心を育てるためのヒント」についてお話をうかがいました。
(NHK出版公式note「本がひらく」より転載。本記事用に一部を編集しています)
科学に興味をもち、興味を膨らませていったきっかけ
――野口さんご自身はどのようなきっかけで科学に興味をもち、どのように興味を膨らませていかれたのかをお聞かせいただけますか。
子どものころ、わたしの家には本がたくさんあり、母が読み聞かせをよくしてくれました。「本を通じて外の世界に接することができるように」と思ったのでしょう。絵本や漫画の中には、宇宙旅行や未来の乗り物の話がいっぱい出てきました。その影響なのか、小学校では理科や国語が好きでしたし、文集には将来の夢のとして「ロケットに乗りたい」と書いていたほどです。「知らない世界のことをもっと学びたい、自然や生き物、広い宇宙のことを知るのは楽しい」という気持ちが、科学に対する興味の第一歩だったと思います。
――では、子どもの科学への好奇心を育むために、親ができることとは何でしょうか。
2つあると思います。1つは、子どもたちが感じる小さな「科学的好奇心」を摘み取らず、大事に育てていくことです。道端に咲いているこの草はなんだろう、空に浮かぶあの雲はどうしてあんなかたちをしているのかな、この機械はどうやって動いているんだろう……といったように、子どもたちの「科学」への入り口は、さまざまなところで、ごく小さなきっかけから始まります。子どもたちがそのような科学的好奇心をもったとき、適当にごまかしたり、否定したり、笑ったりしてはいけません。どんなに偉大な科学的発見であっても、きっかけはごく小さな観察から生まれるものなのです。
――きっかけはごく小さな観察から始まる……子どもの目線に、親がしっかりと向き合うことが大切なのですね。
そうですね。もう1つは、文字を習うのと同じように、科学でもしっかりとしたアプローチを学べるよう、親が手助けすることでしょうね。わたしがNASAで宇宙飛行士として勤務していたころ、わたしの子どもたちはアメリカの現地校に通っていました。アメリカでは「科学好きな子どもたちを育てたい」という目標のもと、STEM教育(科学:Science、技術:Technology、工学:Engineering、数学:Mathematicsの頭文字)がとても盛んです。この教育は単に計算が得意になる子どもを増やすためではなく、子どもたちが科学的思考プロセスを身につけることを目的にしています。つまりしっかりものごとを「観察」し、観察結果を自分なりに分析して「仮説」を立て、その仮説をみんなが納得する方法で「検証」するというプロセスを統合的に学ぶ。そうすることで、子どもたちの自主性や創造性が育まれ、さらにはユニークな問題解決能力を伸ばすというゴールにたどり着きます。
――STEM教育の目的はまさに、「子どものころから科学に興味をもつことのメリット」そのものだといえそうですね。
子どもたちは世の中のしくみを知りたい、さまざまな自然現象や機械の働きを学びたいという、純粋な探求心をもっています。子どもたちの知的好奇心を刺激し、探求心を伸ばし、オールラウンドな問題解決能力がつくように後押しすることが大事だと思います。そのためには、まずは文字を読んで理解する「言語能力」が必須なのはいうまでもありませんが、それと並んで大切なのが「科学的思考力」といえるでしょう。今から400年前の時代を生きたイタリアの物理学者・天文学者ガリレオ・ガリレイは「自然は数学の言葉を使って書かれている」と言いました。科学に対する興味を刺激し、言語能力と科学的思考力をバランスよく伸ばしていくことが、子どもたちに健全な学習をもたらすのではないでしょうか。
――ベストセラー絵本の「はじめてのサイエンス」シリーズが、いよいよ日本でも刊行されることになりました。野口さんから見たこのシリーズの魅力と、その理由をお聞かせください。
このシリーズの魅力は、子どもたちにとって身近なものを使った実験をとおして、科学のさまざまな分野の事象を体験できることでしょう。そこから「おもしろい」「不思議だな」「なんでこうなるんだろう」という気持ちが生まれ、それが「本で調べてみよう」「今度はこの実験をやってみたい」といった次のアクションにつながるとすばらしいなと思います。
たとえば『レモン』で紹介されているレモンの汁の不思議なはたらきは「化学反応」という化学の実験につながりますし、『ふうせん』で取り上げられている風船を使った楽しい遊びは、飛行機が飛ぶ原理や、遠くの宇宙に行くためのロケットの働きを学ぶきっかけになっています。
実はわたし自身も、国際宇宙ステーションに長期滞在しているときに、さまざまな「宇宙おもしろ実験」を行い、その様子をYouTube で配信していました。地上ではすぐに地面に落ちてしまう重たいもの(自分のカラダもそうです!)がいつまでもクルクルと回っている様子や、コーヒーと牛乳が空中でゆっくりと混ざってカフェオレができる様子など。子どもたちが「これっておもしろい!」とか「こんなことが起こるのはなんでだろう?」と感じて、そこから科学的探究心が始まってくれるといいなと願い、科学を身近に感じられるような取り組みをしていました。
――野口さんにとって、「おうち実験は最高の〇〇!」 の〇〇に入る言葉は何でしょうか?
おうち実験は最高の「ぼうけん」! 遠い宇宙に向けて旅立つのも、新しい物質を作り出すのも、自然界の不思議な現象のひみつを解き明かすのも、すべて「ぼうけん」です。身の回りにあるものでも、家の窓から観測できる自然現象でも、なんでも「ぼうけん」の対象になるはず。その第一歩が「おうち実験」といえるでしょう。このシリーズが、その小さな一歩を踏み出す手助けをしてくれることを期待します。
――最後に、お子さんと保護者の方へのメッセージをお願いいたします。
このサイエンス絵本シリーズは「科学のさまざまな分野に、遊びをとおして触れることができる」「科学への好奇心の芽を育む」ということを目標にしています。子どもたちがすぐに手に入れられるモノや身近な自然現象を題材にして、子どもたちを科学の世界に連れて行ってくれることでしょう。子どもの科学への好奇心を育みたいと願い、おうち実験をお手伝いする保護者の方も、「自分も子どもと一緒におうち実験を6冊ぶん楽しんじゃおう!」と一緒に楽しむ気持ちでサポートされるとよいのではないでしょうか。
野口聡一(のぐち・そういち)
1996年に旧宇宙開発事業団(現JAXA)の宇宙飛行士候補者に選ばれ、2021年には「世界で初めて3種類の違う帰還(滑走路、地面、海面)を達成した宇宙飛行士」としてギネス世界記録に認定。国際NPO「Genius 100」財団が選出する「世界の100人」に選出される。「宇宙からのショパン生演奏」でYouTube Creator Award受賞、ベスト・ファーザー イエローリボン賞受賞。ボーイスカウト日本連盟特別功労賞、日本質的心理学会論文賞、電気通信普及財団賞(テレコム学際研究特例表彰)受賞。著書に、『宇宙飛行士・野口聡一の着陸哲学に学ぶ 50歳からはじめる定年前退職』(主婦の友社)、『野口聡一の全仕事術』(世界文化ブックス)、「どう生きるか つらかったときの話をしよう」(アスコム)、「宇宙飛行士野口聡一の全仕事術」(世界文化ブックス)、「すばらしき宇宙の図鑑」(KADOKAWA)など。
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