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「デカい!怖い!」恐るべき『巨大な女妖怪』たちの伝承

草の実堂

画像 : 長面妖女 草の実堂作成

「巨大娘」は、その名の通り、巨大な女性を指すものであり、創作においてはフェティシズムや萌え要素の一つとして根強い人気を誇る。

しかし、神話や伝承の中には、その巨体を活かして人間を脅かす恐ろしい巨大女の逸話が存在している。

ここでは、そんな恐ろしい巨大な女妖怪たちを紹介しよう。

1. 長面妖女

画像 : 長面妖女 草の実堂作成

長面妖女(ちょうめんようじょ)とは、江戸時代の俳人・堀麦水が加賀・越中・能登(現在の石川県や富山県)に伝わる奇妙な話を集めた短編集「三州奇談」に登場する妖怪である。

話の内容は、次のようなものである。

(意訳・要約)

昔、加賀国(石川県)に、津原徳斎という者がいた。

ある夜、徳斎が家路についていると、持っていた提灯の火が消えてしまった。
仕方なくそのまま歩いていると、前方に提灯の火らしきものが動くのが見える。

「これは僥倖」と、その灯りについていくと、どうやら灯りの主は女のようだった。

「知り合いかな?」などと思い歩を進めたが、家の近くに差し掛かったところで、女が榎の幹に寄りかかってこちらを向いたように見えた。

「なんだろう?」と思ったが、ふと良く見てみると、灯りが明らかに目の上よりも高い位置にあることに気づく。
驚いて見上げてみると、なんと先程の女が異常に巨大化し、 ニヤニヤ笑いながら徳斎を見下ろしていたのである。

しかも、その顔の長さは1丈(約3m)ほどもあり、体との比率のアンバランスさがより不気味さに拍車をかけている。

徳斎は肝を冷やし、急いで我が家へと駆け込んだ。

そして家の者を叩き起こし、榎の木のところへ戻ってきたが、女はすでに影も形もなかった。

特に実害はなかったようだが、あまりにも不気味で出会いたくはない存在である。

2. 倩兮女

画像 : 鳥山石燕『今昔百鬼拾遺』より「倩兮女」 public domain

倩兮女(けらけらおんな)とは、江戸時代に妖怪絵師・鳥山石燕によって描かれた画集「今昔百鬼拾遺」に収録されている妖怪の一つである。

巨大な女が不気味な笑みを浮かべ、塀の上からケラケラと笑っている姿で描かれている。

この妖怪について、石燕は次のように解説している。

(意訳・要約)

楚(中国)の宋玉という男は、大変な美男子として有名だったという。

ある時、隣に住む美女が土塀に登って、宋玉をうっとりした笑顔で見つめていた。
(しかし宋玉が誘惑されることは、一度もなかったそうだ)

この倩兮女とかいう妖怪は、その堀に登った女のように、妖艶な笑顔で多くの男を誘惑した女の幽霊であろう。

楚の宋玉の逸話は、南北朝時代の中国で製作された詩集「文選」に収録されたものであり、石燕はこのエピソードを基に、倩兮女を創作したと考えられている。

3. ポルードニツァ

画像 : ポルードニツァ 草の実堂作成

ポルードニツァ(Poludnitsa)は、東スラヴ(ロシア・ウクライナ・ベラルーシなど)に伝わる神秘的な存在である。

その姿は、白い服を着た長身の美しい女性だとされるが、地域によっては老婆・幼女、あるいは骸骨のような姿をしているとも伝えられている。

麦の収穫の際、きちんと昼休みをとらない人間を病気にしたり、巨大な鎌で切りつける等の方法で懲らしめるという。

また、ポルードニツァは子供にとって非常に危険な存在であり、誘拐する、フライパンで焼く、生き埋めにするなどの恐ろしい伝承が各地に残っている。

これらの伝説からポルードニツァは「熱中症の擬人化」であると考えられている。
また、大人たちは「子供が畑で迷子にならないように」と、この恐ろしい精霊を躾の一環として利用していたともされる。

近年は日本でも、地獄のような酷暑が問題となっている。

熱中症、すなわちポルードニツァの祟りを避けるためにも、我々も無理をせずしっかりと休憩をとるべきであろう。

4. ハクラック

画像 : ハクラック 草の実堂作成

ハクラック(Hakulaq)とは、アメリカ大陸のネイティブアメリカン、ツィムシアン族やギックサン族の伝承に登場する、巨大な女怪物である。

海もしくは湖に潜み、人間が水辺に近づいてくるのを虎視眈々と狙っているという。

驚くべきことにハクラックは「己の子供を利用して人間を狩る」そうだ。

ハクラックは自身の子供を水に浮かべ、泣き喚くよう指示をする。
まるで赤ん坊が溺れているかのように、演出をするというわけだ。

良識のある人間ならば、当然赤ん坊を助けようとするだろう。
しかし、赤ん坊を水から引き上げた瞬間、ハクラックは待っていましたとばかりにその姿を現し、「よくも私の子供をさらったな」などと無茶苦茶な言いがかりをつけてくる。

そして、その巨体で荒波を起こし、人間を溺死させるのだ。
子供をダシに使うとは、なんと悪辣な妖怪であろうか。

ハクラックと似たような存在に、日本の産女(うぶめ)という妖怪がいる。

画像 : 鳥山石燕『画図百鬼夜行』より「姑獲鳥」 public domain

これは、血まみれの腰巻きを付けた女妖怪で、赤ん坊を抱えて水辺などに現れ、道行く人間に「子供を抱いてくれ」とせがむそうだ。

言われるがまま赤ん坊を抱いてしまうと、まるで石のようにどんどん重くなり、最後には押しつぶされてしまうという。
見事耐え切れば神通力を授かるともいうが、大抵の人間は圧殺されて終わりである。

他にも、古代中国の地理書「山海経」には、赤ん坊のような鳴き声で人間をおびき出し、襲い掛かって食い殺してしまう妖怪について多数言及されている。

古今東西、人間の庇護欲につけこむ戦法は効果的であるようだ。

参考 : 『日本妖怪大全』『神魔精妖名辞典』他
文 / 草の実堂編集部

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