【ニューオープン】日本最初の「ガチ四川」陳家私菜銀座店の料理を解説【前編】
はじめに
最近は、ガチ中華の語もだいぶ定着してきて、たまたま所用でWikipediaのガチ中華の語で検索したら、(本当にそうかいろいろ検討したい部分はあるものの)かなり詳細に立項されていました。
Wikipediaの記事では、ガチ中華の定着について以下のように記されていました。
「池袋駅北口(西口)にあるビルに2019年11月にオープンした中華料理専門フードコート「友誼食府(ゆうぎしょくふ)」が、ガチ中華ブームの火付け役とされる。この他にも、爆買いブーム只中の2015年の年末に池袋にできた火鍋チェーン「海底撈火鍋」をメルクマールとして挙げる者もいる。なお、ガチ中華に分類される味坊が東京都神田にオープンしたのは2000年、池袋のガチ中華代表店とされる「永利」は1999年開業である。」(注1)
引用元:Wikipedia
このように、1999年開業の<永利>や2000年開業の<味坊>をガチ中華(当然、当時は「ガチ中華」の語はまだなかったですが)の初期の店として紹介しています。
今回紹介する<陳家私菜>もそうしたガチ中華の草分けの店の一つで、1995年に赤坂見附の一ツ木通り(注2)に本格四川料理の店として開店したのをそのはじまりとします。
この<陳家私菜>は、赤坂、五反田、渋谷、秋葉原など、主に都内の山手線圏内に店舗を展開してきましたが、今回、8店舗目になる銀座店が10月30日にオープンしました。
今回は<陳家私菜>銀座店のプレオープンイベントの様子と、その際に出された料理を中心に、<陳家私菜>の魅力について紹介したいと思います。
1. <陳家私菜>銀座店開店と<陳家私菜>オーナーの陳龐湧氏について
<陳家私菜>銀座店は、有楽町・日比谷と新橋をつなぐ高架下のグルメ街<日比谷グルメゾン>の中に位置します。
有楽町・日比谷近辺に詳しい方なら、有楽町と新橋の間の明治期の赤レンガの高架になっているとこの帝国ホテルに近いあたり、あるいは泰明小学校を線路の方に向かったところといえばわかるのではないかと。
<陳家私菜>銀座店入口。「陳家私菜」のネオンが目印です
<陳家私菜>銀座店は高架下の商業施設ですが、店の内装は、銀座・日比谷を意識した現代的な作りになっています。
特に目を引くのが、料理の様子を直接見られる中央のガラス張りのオープンキッチンです。
ガチ中華の店ではキッチンを直接見せることはあまり多くないですが、今回、食事とともに、調理の様子も楽しんでもらおうということで、こうしたレイアウトにしたそうです。調理をする様子見て、「すみません、あれと同じものをください」とオーダーするのもいいかもしれませんね。店の広さも最大120人は入れるとのこと。個室もあります。
オープンキッチンの中で削られる刀削麺。点心師の手さばきはいつまでも見てられます
店の様子。細長い店舗で、奥に個室があります
この<陳家私菜>オーナーの陳 龐湧(ちん・ばんゆう)氏(本記事では陳さんとお呼びさせていただきます)は1988年に来日。当初は日本語を勉強するための学生として来日し、学生中に三井物産勤務となります。
陳さんの弟が上海の名門老舗ホテルの<錦江飯店>で四川料理のコックをやっていたことなどもあり、その後、料理の道を志し商社を退職。
ヒルトンホテルの中華料理レストランに入り、一から料理の道を歩みます。ヒルトンホテルの後は、西武のグランドプリンスホテル新高輪の<古稀殿>で潘継祖(ばん・けいそ)総料理長の指導を仰ぎ、また東京は錦糸町にかつてあった名店「大三元」などで修業をし、1995年、赤坂見附に<陳家私菜>一号店「湧の台所」を開店します。
まだ麻辣味に日本人が馴染みのなかった時代、本格四川の味を提供したところ「こんな辛い料理が食べられるか」と客から叱られたそうです。しかし、四川の本場の味を日本人に受け入れてもらえるよう工夫しつつ、でも四川の味の根本をかえることなく、四川料理の普及に努めてきました。
陳さんは「ガチ中華」が、日本に根付いた魁の一人と言えるかと思います。今回のプレオープンイベントでの陳さんの挨拶では、そうした経歴も踏まえつつ、
日本で料理の修行をし、またお店を経営してきて、長年、日本人にお世話になった。
日本は自分にとっても第二の故郷とも思えるところで、日本人にお世話になった恩返しをしたいと考えている。
今回、銀座に店を構えることになり、店の内装など非常にこだわって作った。
でも、良い素材のおいしい料理をリーズナブルな価格で提供したいという点は変わっていない。
料理の素材が素晴らしいという日本の強みと、中国の本場の香辛料の良さを合わせて、本当においしいものを提供したい。
という旨の挨拶がありました。
挨拶をする<陳家私菜>オーナー陳 龐湧氏
菊池一弘氏
編集長 中村正人
今回のプレオープンイベントに協力した菊池一弘氏と東京ディープチャイナ編集長中村正人。菊池氏からは四川フェスと<陳家私菜>について、中村からは、1980年代後半の「ガチ中華」定着以前の陳氏の経歴と中国の留学生状況が語られました。
なお、中村が手に持つのは東京ディープチャイナ企画の謎解きゲーム「池袋で中華×街歩き×謎解きゲーム!?|池袋ディープチャイナミステリー」のチラシ。こちらも皆さんふるって参加ください。
https://deep-china.tokyo/mystery-ikebukuro/
2. <陳家私菜>銀座店の名物料理の数々
さて、今回のイベントで出された料理の解説と行きたいのですが、実は今回料理が15品も出されており(注3)、全部を紹介するととても記事が長くなりますので、名物や筆者が気になった料理とお酒の紹介をしたいと思います。
出されたメニューの一覧!全15品!
2-1. 「名物皇帝よだれ鶏(国産大山鶏使用)」/「国産大山鶏蒸し葱生姜香味ソースがけ」
実は<陳家私菜>で私が一番好きな料理がこの「名物皇帝よだれ鶏」です。
「名物皇帝よだれ鶏」。ルビーのような赤いタレが魅力
料理としては四川料理定番のよだれ鶏(口水鶏)で、茹で鶏にラー油ベースのタレをかけたものとなります。
<陳家私菜>の「名物皇帝よだれ鶏」はタレの鮮やかなルビー色を見ると、激辛料理を想像しますが、実はそこまで辛くなく、山椒、胡麻などの陳家私菜自慢の香辛料が香り、むしろ辛さよりも香辛料の香りを楽しむ料理となっています。(注4)
ぜひ初めての人は、辛さは普通か中辛程度の辛さを選択して、香辛料の風味を楽しむことをお勧めします。
このタレをさっぱりと茹でられた鳥取の大山鶏によく絡めて食べると、鶏の脂とたれのさっぱり感が合わさって、いくらでも、これから宴会料理を食べられる気にさせてくれます。
また添えられた砕いたピーナッツともやしも、非常に良いアクセントとなっています
今回たまたま相席で料理芸人・クック井上。と<汁なし担々麺専門店タンタンタイガー>の東山広樹氏と相席になったのですが(お二人とも<陳家私菜>は初めて)、クック井上。氏が、「このタレ、メシとか麺とか他の料理にもかけて食べたい」といったのはまさしく炯眼。
クック井上氏の笑顔。この小籠包は一口で食うのが正解とのこと
この銀座店で出されるかはまだわかりませんが、赤坂見附の一号店、<陳家私菜・湧の台所>ではランチによだれ鶏定食があり、このタレをご飯にかけてたべるのがとてもおすすめの定食となっています。
赤坂見附<陳家私菜・湧の台所>のランチのよだれ鶏定食。銀座店でも多分ランチとして出るのではないかと
もし、銀座店のランチで「よだれ鶏定食」がありましたら、ぜひ皆さんも頼んでみてください。なお、以前、陳さんに伺ったところ、「タレ、ご飯にかけるのも良いけど、干豆腐と会えるのも良いよ!」とのこと。そちらも確かにおすすめです。
また、いままで<陳家私菜>になかった新しいメニューとして「国産大山鶏蒸し葱生姜香味ソースがけ」も出されました。
「国産大山鶏蒸し葱生姜香味ソースがけ」。陳さんの話では鄧小平の奥さんが上海の錦江飯店とゆかりがあって、その縁で鄧小平の故郷、四川でも出されるようになったとの由。一度現地にも食べに行ってみたい
これは鶏肉の白茹でに葱と生姜をたっぷり載せたもの。陳さんの話では、これは陳さんの弟がかつて働いていた上海の錦江飯店の名物料理の一つでしたが、上海から四川に輸入された料理だそうです。
四川料理というと、ついつい麻辣味の辛い料理を思い浮かべますが、こうした辛くない四川料理を楽しめるのも<陳家私菜>の魅力の一つです。
2-2. 名物・頂天石焼麻婆豆腐
陳家私菜を代表する料理の一つが、この名物の名を冠する石焼麻婆豆腐です。
名物・頂天石焼麻婆豆腐。食べる前に、店員さんが豆腐を崩してくれます(写真は崩した後)
麻婆豆腐にはやはりご飯がつきもの
この料理の一番の特徴は韓国の石焼ビビンバでもつかわれる、石焼深皿を使っている点です。店のサイトの説明では、麻婆豆腐で重要とされる8つの要素「麻辣燙香嫩鮮酥捆」(注5)のうち、「燙」(タン。出来立ての熱さを示す。)を保持するために陳さんが考案したといいます。(注6)
たしかに石焼深皿に麻婆豆腐を盛り付ける形は、<陳家私菜>の独自のものとなっています。これは私の推測ですが、一号店<陳家私菜>「湧の台所」が赤坂見附にできたことから、赤坂に多い韓国料理の石焼ビビンバなどから着想を得たのではないかと、私は睨んでいます。機会があったら、今度、陳さんに聞いてみたいと思っています。
盛り付け方も非常にユニークな「頂天石焼麻婆豆腐」ですが、豆腐と肉そぼろ餡の汁、いずれもかなり力強い濃厚な味となっています。これは、一つは、豆腐を大山鶏の出汁で煮ていて、そのため鶏の出汁が効いていてとても味の強い麻婆豆腐となるのだそうです。そしてもう一つは、使っている豆板醤も、豆板醤の産地で有名な四川省郫都区(ひとく)の郫県豆板醤(ピーシェントウバンジャン)の6年間熟成ものを使用しているため、色と香りがとても濃い汁となっています。
この「頂天・石焼麻婆豆腐」、7割、8割くらいたべたら、熱さの残る石焼深皿に少し置いておく、あるいは深皿からすくう際に深皿の壁に豆腐や汁を押し付けてからとるのが、私はお勧めです。そうすると少し豆腐や肉に焦げ目が出来、汁もとろみを増して、初めの時とは少し違った、おこげ的な濃厚な食感になります。ぜひ石焼深皿を使った味変もお楽しみください。ただし焦がしすぎるとおいしくなくなるので、その点は要注意!
※本記事は、2024年8月に行った陳龐湧氏へのインタビューと10月の銀座店のプレオープンイベントの取材をもとに、構成いたしました。残りのスペシャル料理は後編にて。
【Special thanks】
料理芸人・クック井上。氏, <汁なし担々麺専門店タンタンタイガー>東山広樹氏, 櫻田芽衣氏(取材アシスタント)
注1 「ガチ中華」(Wikipedia 2024年10月29日アクセス)
注2 ロス・インディオス&シルヴィアの『別れても好きな人』に出てくる、赤坂一ツ木通りです。え、古い?
注3 イベントだしポーション少ないかなと思ったら、普通の量で出てきて、最後は参加者全員、お腹が苦しいくらいになって、帰って行きました…
注4 胡麻の風味については<汁なし担々麺専門店タンタンタイガー>の東山氏によると、「二八醤(中華料理で使われる調味料の一つ。練りごまを使用した芝麻醤と無糖のピーナッツペーストを使用した花生醤を二対八で合わせた合わせ調味料)を使っているかも」との指摘でした。もしも再現レシピに挑む方があれば参考にされてください。
注5 「麻辣燙香嫩鮮酥捆」はそれぞれ「麻」(マー)花椒のしびれる味。「辣」 (ラー)唐辛子の辛さ。「燙」(タン)出来立ての熱さ。「香」(シャン)調味料やスパイスの香り。「嫩」(ネン)豆腐の口触りの滑らかさ。「鮮」(シェン)新鮮な豆腐のフレッシュさ。「酥」(スー)肉そぼろ餡のほろほろとした触感。「捆」(クン)豆腐と肉そぼろ餡の程よい絡み具合を指します。
注6 「年間100万人が集い、50万食を紡ぐ「進化した麻婆豆腐」~世界が認めた石焼麻婆豆腐の四川料理店」(<陳家私菜>HP)
(吉村 風)
店舗情報
陳家私菜 銀座店
千代田区内幸町1-7
日比谷グルメゾン1階
03-6811-3200