演者の身体性を活かした演出も「ルーキーチーム」の魅力 舞台『Take Me Out』2025の稽古場写真&レポートが公開
2025年5月17日(土)より有楽町よみうりホールにて、舞台『Take Me Out』2025が開幕する。この度、ルーキーチームの稽古場写真&レポートが届いたので紹介する。
本公演は、2002年初演のリチャード・グリーンバーグによる戯曲。メジャーリーグを舞台に同性愛者であることを告白した名選手とそのチームを描いた作品。人種差別問題や性的マイノリティ、階級、スポーツにおける男らしさといったテーマを基に、メジャーリーグの華やかな選手たちの関係を捉えながら、そこに渦巻く閉鎖性によって浮き彫りになる社会的マイノリティに深く切り込んだ『Take Me Out』。「また挑戦したいと常々願っていた戯曲」と語る藤田俊太郎が今回初めて、2チーム体制にてそれぞれ違った演出を行うという新たな試みに挑む。
2018年の再演を支えたオリジナルメンバーに新メンバーを加えた経験豊かな「レジェンドチーム」。そして『Take Me Out』の新しい試みとして、一般公募計330人の中からオーディションを勝ち抜いてきた実力の持ち主である12人の新メンバーのみで構成する「ルーキーチーム」の2チームが結成された。
「ルーキーチーム」には、富岡晃一郎、八木将康、野村祐希、坂井友秋、安楽信顕、近藤頌利、島田隆誠、岩崎MARK雄大、宮下涼太、小山うぃる、KENTARO、大平祐輝(スウィング)の12名。甲子園出場経験もある八木、坂井を筆頭に、平均身長180cm越えの体躯と実力を兼ね備えたキャスト陣が集結。オーディションを勝ち抜いてきた結束力と負けん気で、レジェンドチームとは違った『Take Me Out』を創り上げる。
なお、本公演は6月8日(日)まで有楽町よみうりホールにて上演。その後、愛知、岡山、兵庫でも行われる。また、『Take Me Out』2025は、文化庁による劇場・音楽堂等における子供舞台芸術鑑賞体験支援事業の対象公演となっており、小学生~18歳以下の子どもを無料で招待する。詳細は公式サイトにて。
「ルーキーチーム」稽古場レポート
2018年から7年のときを経て新演出、しかも「レジェンドチーム」と「ルーキーチーム」の2チームによって上演される『Take Me Out』。この作品の魅力、そして作品が形作られる過程を知ってもらうべく5月5日、都内某所で「ルーキーチーム」の稽古場見学会が開催された。
多くの応募があったため、見学会は2回に分けて実施。見学者が稽古場に入ると、キャストから快活な挨拶の言葉が飛ぶ。そして演出の藤田俊太郎から趣旨説明があったのち、1幕途中までの通し稽古が始まった。
舞台に現れ、ボールを宙に放っては手のひらに落とすメイソン役の富岡晃一郎。そこにキッピー役の八木将康が登場。さらにMLBの愛唱歌『Take Me Out to the Ball Game』の一節を織り交ぜたアッパーな楽曲に合わせて、ユニホーム姿のキャストたちによるステージングが始まった。野球の動きを取り入れた躍動感あふれるダンス。キャストの力強いかけ声が稽古場に響く。
場面は動から静へ。チームの中心選手であるダレンが、自身がゲイであると告白したことが、すべての騒動の始まりだったこと。投手陣の一角を担っていた日本人投手カワバタの不調。そのため二軍から昇格してきた投手シェーンが起こした波紋……。すべてを知っている冷静さと諦念を感じさせる八木の語り。それを受けるダレン役の野村祐希の言葉には、淡々とした中に静かな決意が漂い、これから起こる事態への興味をかき立てる。
場面転換で舞台上はロッカールームに。レゲエ調の楽曲とともに出自や個性を反映した衣裳をまとったチームメートが登場。中でもヒスパニック系の選手マルティネス、ロドリゲスを演じる島田隆誠、岩崎MARK雄大が、印象的な衣裳にふさわしい存在感を放っていた。
騒動について話すキッピーとダレン。監督のスキッパーは、ダレンが告白してもチームはなにも変わらないと断言する。その揺るがぬ信条を体現するのはKENTARO。そして八木はキッピーの誠実さをまっすぐに表現している。それに対して野村は、本心をはっきり言わないダレンをオフビートに演じてみせる。噛み合わない二人の会話。その端々に反応して笑いを誘うトッディやカワバタ。そして安楽信顕が演じるジェイソンの空回りは善意の第三者、その言動の安易さを描き出す。
試合後のロッカールームで、ダレンを苛立たせる行動を取る近藤頌利のトッディ。近藤の演技はロッカールームに渦巻くマッチョイズムを象徴し、チームメートたちが守ろうとしているのが、同じ「男」としてのダレンであることを明らかにする。ダレンに誠実であろうとするキッピーもそこから逃れられず、ダレンが苛立つ真の理由には気づけない。
それはダレンと仲がいい他チームの選手、デイビーも同様だ。宮下涼太が演じるデイビーは疑うことなく自分の幸せ――家族についてダレンに語る。「普通」ゆえの鈍感さと残酷さ。デイビーの言葉に口ごもり、当たり障りのない返事をするダレン。その姿には、マイノリティの痛みと孤独が影を落とす。
続いてメイソンとダレンとの出会いのシーン。富と名誉に肯定的で、積極的にアプローチしてくるメイソンに、ダレンは丁寧に受け答えをしながら一線を引く。そして負け始めるチームをカワバタ役の坂井友秋、そして再浮上するチームをシェーン役の小山うぃるが、ピッチングの演技で表現。こうした演者の身体性を活かした演出も「ルーキーチーム」の魅力といえる。
メイソンが野球は民主主義のメタファーであり、そこでは思想や信条と関係なく、必ず敗者が生まれることを語る。富岡はメイソンの台詞を通じて、さりげなく人生の苦さに触れる。ここで1回目の稽古場見学会は終了。カーテンコールの練習では、見学者から惜しみない拍手が送られた。最後に藤田が「レジェンドチーム」と「ルーキーチーム」には、同じ演出のシーンは一つもなく、キャストの個性に合わせてすべて変えることが明かされ、見学者を驚かせた。
2回目の稽古場見学会までの間には、藤田とキャストたちが車座になり、修正点についての確認が。ロッカールームでの細かな動きや、ダレンに対するトッディの絡み方やチームメイトたちの反応、デイビーの居住まいなどについて、藤田から演出指示が伝えられた。
それを踏まえた2回目の稽古場見学会では、大筋の流れは変わらないものの、ダレンを軸にした人物間の関係性がよりクリアに。ダレンと周囲のディスコミュニケーションからは、無意識のうちにコミュニティに安住し、自分とは異なる他者が存在することを想像しない、マジョリティの怠惰さ、それを思い知らされてきたマイノリティの諦念が浮き彫りになっていた。
アメリカ社会の多様性、個人の主義信条、そして偏見が絡み合い、形作られていくロッカールームの群像。それはたゆまず続く藤田の綿密な演出でブラッシュアップされ、さらに密度を高め、心揺さぶるものとなって本番初日を迎えるに違いない。
果たして物語はこのあとどう展開するのか。そしてダレン、チームメイト、そして観客はどこへ連れ出されるのか。ぜひ「ルーキーチーム」と「レジェンドチーム」の両方を観て、確かめていただきたい。