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人との距離感が近すぎ?発達障害息子、幼少期から友だちトラブルが続き…高校生になった今は

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人との距離感が近すぎ?発達障害息子、幼少期から友だちトラブルが続き…高校生になった今は

監修:新美妙美

信州大学医学部子どものこころの発達医学教室 特任助教

人への好奇心が旺盛すぎる幼少期に困惑

息子のタクは小学1年生の時にASD(自閉スペクトラム症)とADHD(注意欠如多動症)と診断されています。幼い頃からとても人懐っこく、初めて会う子にもすぐに話しかけてどんどん距離を詰めるタイプでした。友だちになりたいというより、最初から仲間意識を持って関わっているような感じで、相手の子がびっくりして引いてしまうこともしばしばありました。きっと幼稚園などで教わった「みんな仲良くしようね」という言葉を、そのまま素直に受け取っていたのだと思います。

公園で遊んでいるといろいろな子を追いかけてついて行こうとしたり、通りすがりにちょっと親切にしてくれた大人に対しても「優しい人だ!」と思うと手を繋ごうとしたりもっと一緒にいたがったり……私が冷や汗をかきながら止めに入ることもよくありました。

今思い返すと心の距離感だけでなく身体的な距離感も近くて、自然と親密さを求めていたのかなと思います。ただ当時は3歳児健診などでも特に指摘はなく、「人懐っこすぎる」という個性なのかなと思っていました。ただ、外出中は常に緊張感をもって見守る必要があり、「人との適切な距離感をどう教えればいいんだろう」と悩む日々でした。

小学校でのつまずきとタク本人の苦労

小学校に入ってからも、タクは変わらず誰とでもかかわろうとする姿勢を持ち続けていました。ただ学年が上がるにつれて、まわりの子どもたちは少しずつ“仲良しグループ”のような関係性を築いていきます。そんな中でも、タクはあくまで「その時に一緒に遊びたい子」と自然にかかわろうとするので、すでに遊ぶ約束をしている子たちに声をかけてもうまくいかないことが多く、外で友だちと遊べる機会がなかなか持てず、親としてはヤキモキするような場面が続きました。

本人としては悪気もなくただ「楽しいことを一緒にしようよ!」という気持ちがあるだけ。でもその思いが空回りしてしまい、時には断られたり、すれ違いが生まれてしまうことも……。それが悔しくて、気を引こうとちょっかいを出したり、大きな声を出してしまったりすることがありました。

その結果、クラスで注意を受けて人目も気にせず教室で泣いて伏せてしまうこともあったそうです。担任の先生から連絡を受けて、友だちが見ていても感情を抑えきれない様子を聞いた時は私も胸がギュッとなりました。ただそんな中でもタクは「学校が大好き!」という気持ちはずっと変わりませんでした。行き渋りをすることもなく、毎朝元気に登校していた姿が印象的でした。

私はというと、悩みながらもできることは試してみようと工夫しました。私が友だち役になって会話のシミュレーションをしたり、子ども向けの「友だちとの関わり方」をテーマにした絵本を一緒に読んだりしました。また、友だちとの関係だけにこだわりすぎないように、家族でたくさん出かけていろいろな人や場所に触れる機会を意識的に増やしました。「世界は広い」と感じてもらえることで、友だち関係でつまずいた時にも気持ちがふっと緩むことがあるかもしれない、そんな思いもあってのことでした。

悩んで支えられて……見えてきたタクの長所

タクの対人関係に悩み続ける中で、たくさんの人に相談しました。特別支援学級の担任の先生や、かかりつけの小児神経科、市役所の発達相談窓口、そして児童相談所……。状況を変えたい一心で、何度も同じ説明を繰り返す日々。それでも「すぐには変わらないから根気よく伝えていこう」「時間をかけて一緒に見守っていきましょう」と言われることが多く、もどかしさと不安で気持ちが沈むこともありました。

そんな中で心が軽くなったのは、ある相談員さんに「定型発達のお子さんもトラブルはあるし、みんな人間関係について学んでいく途中ですよ」と言ってもらえた時。その一言で「タクだけが特別難しいわけじゃないんだ」と少し肩の力が抜けたのを覚えています。また、放課後等デイサービスの先生からは「タクくんは誰とでも話せて面倒見が良くて、ほかの子たちにとても慕われていますよ」と言われたことがあり、それが本当にうれしかったです。今まで“困りごと”として見ていた特性が、環境によって“強み”として活かされていることに初めて気づいた瞬間でした。

学校でも、思わぬ形でタクの特性が活きた場面がありました。クラスにいる場面緘黙の子どもがタクにだけは気さくに話せると教えてもらったことがありました。クラスの子たちが「タクは〇〇くんの通訳だよ」と自然に頼っていたことも、とても印象に残っています。誰とでも自然に距離を縮めるタクの特性が誰かの力になっていることが何よりうれしく誇らしく思えました。

高校生活での人間関係とこれから……

幼少期から人との距離感が近すぎてハラハラする場面がたくさんあったタクですが、高校生になった現在では一気に踏み込んでしまうことはだいぶ減り、相手の様子を見ながらかかわろうとする姿が増えてきたと感じています。失敗もたくさんしてきましたが、中学・高校生活の中で「親友」と呼べる子もできて、つながりの質も変わってきたように思います。

その変化の背景には、家庭での地道なコミュニケーションの積み重ねもありました。高校入学前には、父親からも「いきなり距離を詰めると壁を作られることもあるんだよ」と何度も話してもらい、人間関係の動画などもたくさん一緒に見て、イメージを共有するようにしました。さらにタク自身も工夫をしていて、入学してすぐの自己紹介の時、「僕ってちょっとお調子者なところがあるんだけど、先に謝っとくね!ごめんね(笑)」と自分から軽く伝えたそうです。そうしたユーモアが、まわりの子に「面白い」と受け止められて、自然と受け入れてもらえたようです。

もちろん、これからも人間関係でつまずくことはあると思います。でも、タクの特性によって誰かに感謝されたことや助けになったことがたくさんあったことを私はずっと覚えていたいし、タクにも伝えたいと思っています。人との関係は、いつも簡単ではないけれど。それでも、タクはタクらしく、ゆっくりでも自分のペースで前に進んでいる。そんな姿に、私もたくさんの勇気をもらっています。

執筆/もっつん

(監修:新美先生より)
タクさんのお友だちとのかかわり方について、幼少期から高校生時期までの変化・成長を聞かせてくださりありがとうございます。
人との距離の取り方に困難さがある場合、小さい頃は「人懐っこい」と慕ってもらえる機会が多くても、年長するに従い、周囲が困惑したり、浮いてしまうことがありますね。
もっつんさんは、自ら会話の練習相手になったり、絵本を使って学んだりと、ご家庭でSST(ソーシャルスキルトレーニング)的な取り組みをされて、丁寧にコミュニケーションを積み上げてこられたというのは素晴らしいです。また、友だち付き合いでつまずいた場合に備えて、視野を広げる、世界を広げるような機会を意識的に増やすというのも、とても素敵なサポートですね。タクさんは、高校生になった今は対人スキルもずいぶん成長し、親友もできているとのこと、うれしいですね。
もちろん人にもよりますが、ASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如多動症)があって対人関係に困難がある場合、小中学生ぐらいがもっとも、同年齢の方とのギャップが大きくハラハラする時期で、高校生年代ぐらいになるとだいぶ成長してきて、折り合いをつけたり、距離を測ったりといったことが意識できるようになる方も多いように思います。小中学生の時期に、対人面で大きく傷つくことがなく、コミュニケーション面でのサポートが乏しすぎてご本人が十分に守られないということがなければ、ご本人なりに、対人・コミュニケーションスキルを身につけていけることが多いかと思います。対人関係の不器用さは焦り過ぎずに温かく見守り、お子さんの対人レベルに見合った分かりやすく具体的な対処法を段階的に練習したり、うまく行かない面をサポートしたりしていくことが大切かと思います。

(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。

神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。

ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。

ADHD(注意欠如多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。

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