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「顔にパタパタ」に抵抗があった昭和世代の男性を変えたスキンケア商品「VARON」。人気の秘密をブランドマネジャーに聞いた

OTEMOTO

メンズスキンケア商品「VARON」が、ミドル・シニア世代の男性たちから支持を得ています。「化粧は女性がするもの」という固定的なイメージがある中、とりわけ「男らしさ」を求められてきた昭和生まれの男性たちに、このスキンケア商品はなぜ響いたのでしょうか。VARONのブランドマネジャーでサントリーウエルネススキンケア事業部の西山雅大さんに聞きました。

サントリーウエルネスのメンズスキンケア商品「VARON」
Akiko Kobayashi / OTEMOTO

ーーVARON(ヴァロン)は男性用のスキンケア化粧品、しかもミドルやシニアをターゲットにしているとのことです。なぜこの市場に注目したのでしょうか。

スキンケアといえば女性がするものであり、男性で肌のケアをする人は若者や一部のモテたい人にすぎないというのが、これまでの"常識"でした。

実際、男性スキンケア市場の金額規模は、女性のスキンケア市場に比べると数パーセントといわれています。私は以前からずっと女性のスキンケア商品や美容ドリンクを担当してきて、シニア男性にとってもスキンケア商品の潜在的なニーズはきっとあるだろうと感じていました。

「顔にパタパタ」の抵抗感

ミドルからシニアは、見た目の変化を顕著に感じる世代です。自分に似合う服を選んだり、育毛剤を使ったり、体型を維持するためにジムに行ったりと、見た目に気を使っている人も多いです。ただ、「顔にパタパタやる」ことには抵抗があります。なぜなら、知るきっかけがないからです。メイクとスキンケアの違いを知らない男性も少なくありません。

ドラッグストアに男性用化粧品のコーナーはありますが、若いイケメンがモデルになっていて、シニア男性は何を選べばいいかわかりません。化粧は女性がするものだという固定観念から、「恥ずかしい」「周りの目が気になる」といった感情が先に立ち、スキンケアのハードルになっていました。

OTEMOTO

ーーシニア男性の心理をリアルに分析されていますね。

サントリーウエルネスは、サントリーグループの健康事業を担う会社として、「セサミン」などの健康食品やサプリメント、スキンケア商品をつくっています。健康は一人ひとりのライフスタイルや人生の豊かさに直結するため、お客様の声を聞くことを重視しています。

社長の沖中直人は「お客様の視点に立つのではなく、お客様の立場に立て。そのためにお客様の靴を履いたのか」とよく言っており、2020年からは「オンライン家庭訪問」などで全社員がお客様と対話する機会を設けています。

オンライン会議で気づく老化

ーーVARONの商品開発で、男性たちの声がどのように生かされたのでしょうか。

男性向けのスキンケア商品を検討するにあたっては、100人以上のデプス調査(1対1のインタビュー)を実施しました。

ミドル・シニア世代の男性たちの話を聞いてわかったのは、定年退職して自宅でのんびり過ごしているようないわゆる老後のイメージもまた、固定観念だったということです。

60代、70代で現役で働いている方もいますし、退職後の第二の人生をアクティブに楽しんでいる方もいます。一方で、これから長い人生をどう生きていったらいいかという漠然とした不安や孤独感を抱えている方も多くいらっしゃいます。

また、コロナ禍でリモートワークが増えたことで、オンライン会議システムの画面上に並んだ自分の顔を見て、老化を実感したという声もありました。

"人生100年時代"に向けて心身ともに健やかな状態でいるために、自信を持って人と関われるようにする役割もスキンケアにはあるはずだと確信でき、商品開発の推進力になりました。

サントリーウエルネス スキンケア事業部
西山雅大さん
Akiko Kobayashi / OTEMOTO

ーースキンケア商品を使うのは「恥ずかしい」という思いや、「男たるものスキンケアなんて」といった抵抗感はどう解消していったのでしょうか。

これまでやったことがないことをやってもらうハードルは高いだろうと感じていました。VARONのサンプルができた時点でホームユーステストという形でモニターさんに使っていただき、使用感の満足度は9割を超えていました。あとは、手に取りやすくするための設計が必要でした。

その一つは、オールインワンであることです。

化粧品メーカーは、化粧水、美容液、クリームを同じシリーズで展開し、「ライン使い」を提案することが王道です。しかし、化粧水を自分で買ったことがない男性が、いきなり洗面所に何本もボトルを並べるのは勇気がいります。家族の目が気になるからです。1本だけであれば手に取りやすいだろうと考えました。

また、これまでスキンケアの経験がない男性向けだからこそ、1本で感動するレベルの使用感を目指しました。オールインワンは手間をかけずにケアできますが、効果を実感できなければ意味がありません。そこで、化粧水と美容液とクリームの成分を順番に肌に浸透させる技術を採用しました。

この技術は過去にすでに発見されていたものですが、再現性が難しく、多くの企業や研究機関で量産化が課題となっていました。サントリーでは創業からの「やってみなはれ」の精神で、1000回を超える試作を重ね、ようやく製品化に成功しました。効率性や生産性を真っ先に求められていたら実現できなかったと思います。

Akiko Kobayashi / OTEMOTO


ーー家族の目が気になるというのは意外でした。

ミドル・シニアは、リアルな生活を重視する世代です。メディアやインフルエンサーの発信よりも、いつも隣にいるパートナーや、週5日ともに過ごしている職場の人から言われることのほうが大きな影響力をもつのです。

特に妻や娘、職場の女性たちは、男性から見るとスキンケアのプロであり、貴重なアドバイザーです。身近な女性たちから背中を押してもらえるような、ポジティブな会話が生まれることを目指しました。

「どの香りがいいと思う?」

VARONは、3つの香りと無香性を用意しています。お勧めしたい人に手渡しすることを想定し、10日間の体験セットのボックスをつくりました。ボックスにはミニボトルのほか、3つの香りを試せるサンプルも入っています。

同じ商品で異なる香りを複数つくるのは在庫管理の観点では異例なのですが、あえて選べるようにしたのは、「どの香りがいいと思う?」と、身近な人とコミュニケーションできるからです。

VARONの10日間体験セットは手土産としても活用されている
Akiko Kobayashi / OTEMOTO

当社の役員にVARONを使ってもらったときも、あえて女性の秘書から体験セットを渡してもらうようにしました。10日間の体験が終わる頃に私が役員のところに感想を聞きに行くと、役員は「こんなもの使わせて......」と恥ずかしそうにしているんですが、秘書が「そういえば肌艶が良くなりましたよ」「今の時代、男性がスキンケアするのは当たり前ですからね」などとフォローしてくれた途端、うれしそうな表情になるんですよね。

シニア世代の男性たちが、周りの後押しによって新しい価値観を自分ごととして獲得していく様子を見て、手応えを感じました。

管理職や役員層にとっては身だしなみを整えることはビジネスにも役立ちますから、「ゴルフ中の日焼けや乾燥をケアできる」「使ってみたら10日間で変わった」といった口コミの力は強いです。東京・銀座の高級クラブで体験セットを手土産にしていただいたり、ゴルフ場にサンプルを置いてもらったりしています。

ーー一部の男性だけの習慣ではなく、男性のスキンケアが当たり前になる日がくるのでしょうか。

特別な人だけに向けた商品ではなく、誰でも手に取りやすくなるよう、デザインや伝え方にはこだわっています。

VARON(ヴァロン)というネーミングは、スペイン語の男性(VARÓN)、英語の男爵(BARON)からとり、濁音があることもポイントです。高級感を意識しつつも、スタイリッシュになりすぎないよう、ロゴをやや大きめにしてアーチ型に配置するなど、古きよき時代の紳士のイメージをデザインしています。

紳士が身だしなみを整えるバーバー(理容室)をイメージしたというロゴ
Akiko Kobayashi / OTEMOTO

VARONは2022年3月に発売し、2024年で出荷本数は累計70万本となりました。お客様には80代の方もおり、シニアに対するイメージを決めつけないようにしたいと改めて感じています。

年齢を重ねても生き生きとした肌艶や表情で過ごしたいし、性別に関わらず自分のためのケアをして、自己肯定感を高めたい。そんな思いを抱えているひとりひとりの人生を応援していきたいです。

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