壁にぶつかってもあきらめたくない――大学非公認アプリを開発した徳島大学院生が、前向きに取り組み続けられる理由とは?
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現在、徳島大学の大学院で学ぶ松山晃大さんは、徳島大学の講義情報やレポート提出・学内情報などを一括で管理できるモバイルアプリ「トクメモ+」を大学生時代に開発した。大学の非公認ながら学内で利用者は約半数に上るという。なぜアプリを開発しようと思ったのか、そして今後どうしていきたいと考えているか、松山さんの思いを伺った。
本記事のフォトギャラリー利用者視点を活かした開発がスタート! プロトタイプは約1週間で作成
※トクメモ+-ホーム画面
「『トクメモ+』を開発したきっかけは、元々ある徳島大学の公式アプリに自分でさらに便利な機能を付け加えようと思い、1週間ぐらいでプロトタイプを作って、試しに友人に使ってもらったっていうのが始まりです。友人は、『あんまり使わんな、別にいらんなあ。』っていうぐらいの感じでした。そこから少しずつ改良を加えていって、今リリースしているようなアプリに作り込んでいきました。」(松山さん)
大学2年の時にゲームを作りたいと思い立ち、それまではパソコン自体をあまり触る機会がなかったところから本格的にプログラミングを学び始めた。
「最初は、最高のゲームを作ってやろうって思って勉強し始めて、ゲーム制作は最終的には挫折してしまったんですが、それがきっかけでプログラミングに興味を持ち始めました。例えば、雨の日になると、傘を持っていけよって通知してくれるLINEのbotアプリを作ったりとか、写真の中に綾鷹が写っていたら『選ばれたのは綾鷹でした』っていうのを表示させるお茶の種類を画像学習で判別して教えてくれるアプリとか、ラズベリーパイ(プリント基板の上にCPUやコネクタ、入出力に必要なインターフェースなど、最低限の機能を搭載した手のひらサイズの小型コンピューター)を使って、自分自身を監視する監視カメラを作ったりとか、いろんなことをしていましたね。」(松山さん)
開発にあたっての2つのこだわり「お金がかからない選択をする」「大学に迷惑をかけない」
※トクメモ+-起動直後のログイン中の画面
「『お金がかからない選択をする』ために無料サービスを駆使していて、Appleのアプリ配信に必要なライセンス料(年15000円)のみで、低コストに抑えています。『大学に迷惑をかけない』ということに関しては、例えば、自動ログインの機能の仕組みとしてあるプログラムコードを大学のウェブページに送信しているんですけど、大学のサーバーに過剰にリクエストをかけないように状態を管理しています。 」(松山さん)
ユーザーが増えて、自分を知らない人たちも使ってくれるようになったのが嬉しかった。クチコミでアプリが広がった実感や、ユーザーから「このアプリは友人におすすめしてもらって知った」と言われた時は、このアプリが一時的なブームではなく、既に当たり前に使ってもらえる存在になっていて、価値を生み出せたことが嬉しかった。
「このアプリをリリースしてから、社会人エンジニアの方からも反響をいただいて、『トクメモ+』のアプリ開発をきっかけに、多くの人との繋がりを作ることができました。その流れで自分のやりたいことを見つけて、 現在の就職先を決めるきっかけにも繋がったのですごく嬉しかったですね。」(松山さん)
アプリ開発の魅力
「魅力的だと感じる部分はすごく沢山あるんですけど、やっぱり『ものづくり』ですね。自分の作ったものが動いたっていうところに、自分の中では変わらない面白さがあると感じますね。」(松山さん)
アプリ開発は順調なことばかりではなく、壁にぶつかることも。
※学部4年生のときに、大学公認学生団体を立ち上げて直ぐの年間予定発表の様子
「『トクメモ+』アプリの開発当時、大きな課題が三つありました。一つは『アプリを運営するための費用』。二つ目は『開発者や技術の継承』。最後に『個人情報であるパスワード入力への抵抗感』です。パスワード入力に抵抗を感じさせてしまっていたっていうことに関してはある程度乗り越えることができたのかなと思いますが、残りの2つは未だ葛藤中ですね。
※学部4年生のときに、大学公認学生団体で使用したポスター
最初の2つに関しても色々な試行錯誤を繰り返して、アプリを大学公認にできないか学校に相談をしたり、 運用費用を減らすために、大学のコンピューター部に相談してサーバーを設置させてもらったりしました。また大学公認の学生団体を設立して、課題の解消を目指すことに加え、利用者を増やす努力も行うなど、考えられる解決策を色々チャレンジしました。」(松山さん)
試行錯誤の結果、大学から依頼があればアプリの運用を引き継いでくれるという会社を見つけた松山さん 。今後はあらためて大学の公式アプリにすることはできないか、もう一度相談するつもりで検討を進めている。
「この話が進んだら、今ある課題は乗り越えられるのかなって思っています。」(松山さん)
「トクメモ+」アプリは徳島大生に嬉しい機能が満載
実際「トクメモ+」には、学生が使いたくなるような便利な機能がもりだくさんだ。
※トクメモ+-部活動の紹介画面
「『トクメモ+』では、さまざまな学内の情報や部活動情報をまとめて確認することができます。加えて、アプリを開くだけで自動ログインできるので、大学のオンラインサービスを利用するレポート提出などは、格段に手間を省くことができたと思います。」(松山さん)
現在はその便利さが周知され、徳島大学では約半数の学生が使ってくれているという。
松山さんの新たな挑戦とは
現在、新たなアプリを開発している松山さん。それは「トクメモ+」とは全く関係のないものだという。
「いま開発しているアプリでは『色覚特性』を持つかたの見える色、感じている色をアプリで再現しようと思っています。改めてアクセシビリティ※の重要性を広めるきっかけになるようなアプリになればと。」(松山さん)
※アクセシビリティとは、一般的に「利用者が機器・サービスを円滑に利用できること」という場合に使われる。
気になったことや、興味あることに挑戦するのは、「トクメモ+」アプリを開発していたときと同じ不屈のスピリットが松山さんの行動理念にあるからだ。
「色覚特性を持つ人って身近にいて、日本人男性でも20人に1人は、色覚特性を持っていて、身近な問題でもあるんですよね。実は『トクメモ+』アプリの開発時、アプリで使用する色を決めるために、色覚特性についても調べていて、それをきっかけに、技術カンファレンスに登壇して色覚特性についてお話しする機会があったんです。
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※修士2年のときに、色覚特性について発表している様子
カンファレンスでは『
なぜiPhoneのボタンはデフォルトで青色なのか?
』についてお話ししたのですが、その理由に色覚特性が関係している可能性があることを知らない方が多かったんです。そのときに、例えば見えない色があっても、それぞれにグラデーションがあったり、青が見えづらい方は確率的にとても少ないことなど、詳細については知らない方が多いことを知りました。
そこで、もっとアクセシビリティの重要性や感じ方を広めたいなと思い、アプリ開発を始めました。」(松山さん)
実際に松山さんの友人も色覚特性をもっていることが、気持ちの面でも開発の後押しになっている。
「色覚特性を持っている人の気持ちを知るためには、色覚特性の人が見ている景色を共有することが大事だと思っています。いまも撮影した写真を色覚特性の人が見える景色に反映してくれるアプリはあるんですけど、リアルタイムで撮影時に反映してくれるアプリがないので、そういうものを作りたいと思っています。」(松山さん)
そんな松山さんに、今後の夢を聞いてみた。
「ざっくりとしていますが、何か特定の技術分野 においてエキスパートになりたいという夢はありますね。ただ、興味関心は実際に働いてから変わると思っているので、5年を目安に何かの突出した人材になれたらいいなと思っています。」(松山さん)
日々前向きにチャレンジし続けている、松山さん。成功に向けて頑張っていく中で、自分の人生の幅が広がっているからこそ、今の松山さんの優しさと突破力が同居する人柄に繋がっているのではとインタビューを通じて感じた。
■松山晃大さん 関連リンク
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学生の50%以上が使う大学非公認アプリを作った話 - Qiita
取材・文/櫻井 奏音
(ガクラボメンバー)