4歳児の7割がベランダの柵を登れる! 子どもの転落事故 今すぐにできる「ベランダ・窓」7つの対策〔専門家が解説〕
子どもの事故の多くは家庭内で起きる。特に初夏に増加する「ベランダ転落」について、7つのポイントで今すぐできる対策を紹介。専門家のアドバイスと、住宅の安全対策に関する補助金についても解説。
【写真】ベランダの柵「4歳児の7割が登れる」驚きの実験結果「気がついたら、2歳の息子が窓を開けてベランダへ。室外機に手をかけているのをみてヒヤリとしました」
これは、実際にあった事例の一つ。(出典:東京くらしWeb〔東京都消費生活部〕)
交通事故を除く子どもの事故の多くは、家庭内で起こります。中でも後を絶たないのが、痛ましいベランダ転落事故。防ぐために私たちできることは何でしょうか?
今すぐできる対策について、専門家のアドバイスをもとに紹介します。
転落事故が急増
東京消防庁によると、5歳以下が墜落事故で救急搬送された件数は、5年間で63件。
最も多いのが5月(16件)、次いで10月(9件)です。(東京消防庁管内 2020~2024年)
▲月別救急搬送人員(東京都)
出典:東京消防庁〔こどもが住宅等の窓・ベランダから墜落する事故に注意!〕
東京に限らず全国的に、初夏や初秋にあたるこの時期は、エアコンをつけるほどではないものの、風を通すために窓を開ける家庭が多くなります。
すると、子どもが開いている窓に接する機会も自然と増え、事故のリスクが高まるというわけです。
転落事故 ベランダが最多
▲転落箇所別の死亡事故件数
出典:消費者庁〔住宅の窓及びベランダからの子どもの転落事故に係る事故等原因調査について(経過報告)〕
消費者庁の調査では、1993年から2023年までの30年間で、9歳以下の子どもが住宅から転落して亡くなった事故は170件にのぼりました。
そのうち、ベランダからの転落が103件と最も多く、次いで窓からが47件という結果が出ています。
▲年齢別の死亡事故件数
出典:消費者庁〔住宅の窓及びベランダからの子どもの転落事故に係る事故等原因調査について(経過報告)〕
とくに事故が多いのは、1~4歳。歩き始めから行動が活発になるころにかけて多くなっています。
なぜ、こうした事故が繰り返されてしまうのでしょうか?
ベランダの柵、4歳児の7割が登れる
東京都が行った検証実験では、ベランダの柵の高さに相当する110cmの壁を子どもたちが登れるかどうかを調べました。すると……
■注意喚起動画「STOP! 子供の転落事故」(東京都)より
・6歳児のほぼ全員が登れた
・4歳児の約7割が登れた
・2歳児でも、足がかりを使ってわずか15秒で乗り越えた子がいた
個人差もありますが、4歳児の平均身長はベランダの柵より少し低い100cm前後、6歳児はベランダの柵より僅かに高い114cm前後です。
つまり、子どもは自分の目線や頭より上の高さも乗り越えられるということ。足がかりになるようなものがなくても、ベランダ柵から転落してしまう可能性は高いのです。
室外機や椅子、プランターなどが足場になればなおさら、柵は簡単に越えられてしまいます。
子どもの転落事故について、安全と事故防止の専門家・大野美喜子さん(NPO法人Safe Kids Japan理事/産業技術総合研究所 人工知能研究センター主任研究員)はこう説明します。
「子どもは、『見たい』『登りたい』という思いを原動力に、驚くような行動を取ることがあります。しかも、昨日まではできなかったことが、今日にはできてしまう素晴らしい力をもっています。だからこそ、大人が思っている以上の運動能力を発揮するのでしょう。その一方、危険を認識する力はまだ十分に育っているとは言えません」(大野さん)
事故の報道では「親が目を離した隙に」と言われがちです。しかし、親が24時間365日ずっと子どもから目を離さないなんて現実的ではありません。
大野さんも、「トイレに行ったり電話がかかってきたりと、子どもを見ていない時間は誰にでもあります。むしろ、子どもから少し目を離しても、事故が起きない環境をつくることが大切なのです」と言います。
「目を離す瞬間があるのが当たり前」と考えたうえで、どうやって事故を防ぐかを考える。そんな発想が現実的ではないでしょうか。
だからこそ、日常の中に転落リスクを減らす習慣と対策を取り入れることが重要なのです。
では、どのように対策をすれば良いのでしょうか?
転落事故を防ぐ7つのポイント
子どものベランダ転落事故を防ぐポイントは以下の7つ。〔参考:東京くらしWEB(東京都)〕
1.子どもを短時間でも一人にしない
ベランダのある部屋に子どもを一人で残さず、目の届く範囲で過ごさせることが大切です。
2.子どもだけで留守番をさせない
わずかな外出でも、子どもだけを家に残すのは避けましょう。
3.ベランダで子どもを遊ばせない
子どもがベランダを「楽しい場所」として認識しないようにすることが大切です。
4.ベランダ柵の近くに足がかりを置かない
プランター、椅子、テーブルなど、子どもがよじ登るきっかけになる物は置かないようにしましょう。
5.日頃から危険性を伝える
「ベランダは危ない場所」「登ったらダメ」など、繰り返し伝えることで、子どもの意識づけにつながります。
6.エアコン室外機の設置場所に注意する
柵から60cm以上離すか、上から吊るすなどして、足場にならない工夫を。
7.補助錠を取り付け、しっかり施錠する
ベランダの出入り口には、子どもの手が届かない位置に補助錠を設置し、確実にロックをかけましょう。
転落事故について大野さんはこう解説します。
「窓からの転落も、ソファーやベッドなど足掛かりになるものがリスクになります。網戸があっても、外れてしまうので予防にはなりません。また、ベランダで足がかりになるものがなくても、子ども自身が椅子を持ってくるケースもあります」
さらに「もっとも大事なのは、子どもが一人で窓を開けたりベランダに出たりしないように、補助錠を設置すること」と強調。賃貸・持ち家を問わず手軽に取り付けられる補助錠はとても有効な手段なのです。
最大30万円! 子育て世帯向け補助事業
国や自治体も、子どもの安全を守る住環境づくりをサポートしています。
たとえば、国土交通省は、共同住宅オーナー向けに最大100万円を補助する「子育て支援型共同住宅推進事業」を展開。(国土交通省/子育て支援型共同住宅サポートセンター)
東京都でも、マンション住まいの子育て世帯向けに、安全対策の改修に最大30万円の補助金が受けられる事業があります。(東京都/子育て世帯向け補助事業〔「子供を守る」住宅確保促進事業〕)
ほかにも独自の支援制度を設けている自治体があるので、お住まいの地域の制度を調べてみましょう。
子どもの命、対策して守る
子どもは、ほんの一瞬のうちに驚くような行動を取ります。
でも、私たちが「備える」という選択をすれば、その一瞬を未然に防ぐことができるのです。
大野さんが理事を務めるNPO法人「Safe Kids Japan」では、保健師が子どものいる家庭に訪問して補助錠を設置する「家庭訪問プログラム」を実施(2024年度)。
保護者からは「予防対策の重要性を改めて考える機会になった」「リスクを具体的に教えていただきながら設置できたので、さらに意識が高まった」と好評でした。
「Safe Kids Japan」では、補助錠の選び方をまとめたリーフレットも発行しています。
出典:NPO法人 Safe Kids Japan
大野さんは、こうアドバイスします。
「『子どもを一人でベランダに出さないようにしているから大丈夫』という方も多いですが、それは予防対策ではありません。一人で『出られない』環境を作るほかに、子どもを守る方法はないのです」
家族の安心のために、今日からできることを、ひとつずつ始めてみませんか。
(取材・文/中村藍)
参考・出典・引用
東京くらしWeb〔東京都消費生活部〕ベランダからの子供の転落に注意!
東京消防庁 こどもが住宅等の窓・ベランダから墜落する事故に注意!
消費者庁 令和6年 消費者安全調査委員会 住宅の窓及びベランダからの子どもの転落事故に係る事故等原因調査について
こども家庭庁 令和5年乳幼児身体発育調査(調査結果の概要)