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『アバター』にも影響を与えた森林学者が訴える、カナダの原生林の危機的状況。日本でも進む「木質バイオマス発電」の課題

OTEMOTO

2024年5月に来日した、カナダの森林研究者のスザンヌ・シマードさんとレイチェル・ホルトさん。カナダで進む原生林伐採の実態を伝えるため、東京都内でメディアブリーフィングを開催。再生可能エネルギーとして注目される木質バイオマスに関する、森林生態学的な見地からの問題について訴えました。

再生可能エネルギーのひとつとして、近年注目されている木質バイオマス。残材や未利用の間伐材といった木材が原料の資源で、これを燃料にした木質バイオマス発電は二酸化炭素排出を抑制し、地球温暖化の防止にも役立つとされている、次世代の発電方式です。

サステナブルな側面が強調されている一方、木質バイオマスを含む日本で使用されているバイオマス発電用燃料の約8割は輸入品。木質バイオマスのひとつである木質ペレット(木材などを乾燥させ粉砕し固めたもの)の日本の輸入相手国1位はベトナム、2位がカナダとなっており、国内の供給体制では十分に賄えず、海外調達に依存しているという現状があります。

写真はイメージです
Adobe Stock / petergyure

こうした状況に警鐘を鳴らすのは、カナダのブリティッシュコロンビア大学・森林生態学教授のスザンヌ・シマードさん。米タイム誌が発表した2024年の「世界で最も影響力のある100人」にも選出されている、世界的に著名な森林生態学者です。

「カナダのブリティッシュコロンビア州は、生物多様性に富んだ豊かな森林が多いことで知られています。手付かずの原生林も豊富ですが、カナダから輸出される木質ペレットなどの木質バイオマスは、こうした原生林から伐採された木材が使われているケースが多いのです」

スザンヌ・シマード / ブリティッシュコロンビア大学・森林生態学教授
『マザーツリー:森に隠された「知性」をめぐる冒険』の著者。植物のコミュニケーションと知性に関する研究の先駆者であり、複雑でテクニカルなコンセプトを、魅力的かつ奥深い方法で伝える科学者として賞賛されている。
Hirohiko Namba / OTEMOTO

貴重な原生林が失われているという現状

「なかでも、マザーツリーと呼ばれる大木が真っ先に伐採されています。ブリティッシュコロンビア州の原生林では、炭素の約50%が菌根類の働きによって地下に蓄えられていることが調査でわかっていますが、菌根類のネットワークを広げる中心的な役割を果たしているのがマザーツリー。皆伐(区画内全ての樹木を伐採すること)によってこうしたネットワークが破壊されてしまうことで、炭素吸収源も失われることにもつながります」

来日メディアブリーフィング資料より

ジェームス・キャメロン監督の映画『アバター』の世界観にも影響を与えたと言われている、スザンヌさんが提唱するマザーツリーの概念。ブリティッシュコロンビア州では原生林や老齢林の皆伐に地元市民からの抗議も相次いでおり、スザンヌさんたちも「マザーツリー・プロジェクト」と名付けたマザーツリーの保全活動などを通して、森林の炭素貯蔵量と生物多様性を維持することに努めています。

背景にあった需要の高まり

環境や生態系に多大な影響を与えるにもかかわらず、カナダでは森林の伐採がを続き、木質ペレットの輸出量も右肩上がりとなっています。その背景には、日本やイギリスなど木質バイオマス発電を推進する国の需要の急増があるといいます。

独立系生態学者・独立コンサルタントのレイチェル・ホルトさんは、これにより残材や未利用の間伐材といった廃棄された木材を利用してつくるという前提が崩れ、次々に森林が伐採されていると訴えます。

「ブリティッシュコロンビア州では、年平均で20万ヘクタール(東京都の面積に匹敵)の森林が伐採されています。州政府や業界団体は『木質ペレットの原料の約8割は残材などである』としていますが、製造過程でのトレーサビリティは十分ではなく、原料が実際にどこからきているのかを正確には把握できていないのが現状です。仮に残材が原料の多くを占めていたとしても、それらも元は原生林や老齢林から切り出されたものなのです」

レイチェル・ホルト / 独立系生態学者・独立コンサルタント
独立コンサルティング・Veridian Ecological Consultingの代表を務める。ブリティッ
シュコロンビア大学で博士号を取得。原生林の生態系及びその管理に25年以上携わる。これまでに、森林に関するBC州の独立系監視機関であるBCForest Practices Boardの副委員長や、Columbia Mountains Institute of Applied Ecology理事を務める。
Hirohiko Namba / OTEMOTO

「木質バイオマス発電の発電効率は20〜30%程度と低く、もし使用するのであれば海外に輸出するのではなくカナダ国内で使用することが望ましい。さらに、輸送時には温室効果ガスも発生するため、遠方まで運ぶことは合理的ではないのです」

来日メディアブリーフィング資料より

森林が豊富な日本。それでも…

日本は、森林率が約66.4%と、世界平均の約30%を大きく上回る世界有数の森林国。豊かな森林があり、全国各地に未利用の間伐材なども多くあるといわれています。

秋田県の五城目町で地域資源エネルギー事業を行う株式会社このほしでは、町内に森林が多くあるにもかかわらず、エネルギー資源調達を町外に依存していることに着目。地域では林業も盛んなため、未利用の間伐材などを燃料にして木質バイオマス発電を行えば、エネルギーも自給自足できるのではないかと考えたといいます。

しかし、検討を進めた結果、豊かな森林資源はあるものの、木質バイオマスを用いて地域のエネルギーを賄うことは構造的に困難だということが判明。資源としてすでに買い手がついているケースが多いことに加え、林業の規模が縮小していることも理由のひとつでした。

働き手の数が少ない現状では、今まで通り木を伐採し木材にするだけでも精一杯。木質バイオマスを用いた再生可能エネルギー発電の普及には、こうしたリソースにおける課題もあるといえそうです。

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