高い再生能力を持つ特別天然記念物<オオサンショウウオ>の秘密 別名は「はんざき」?
「はんざき」と呼ばれる生きものを知っていますか?
実は、オオサンショウウオの呼び名(地方名)のひとつで、岡山県ではメジャーな呼び方です。
岡山県にも生息する特別天然記念物・オオサンショウウオ。その生態や秘密を知ることで、希少生物の保全について考えてみましょう。
<はんざき>とは?
「はんざき」とは「半分に引き裂かれた」という意味の言葉です。
サンショウウオの仲間であるオオサンショウウオはイモリ同様に高い再生能力を持ち、失った手足を再生することが可能。このことから、「身体が半分に裂かれても生きている」という民間伝承が生まれ、オオサンショウウオのことを「はんざき」と呼ぶようになったと言われています。
また、「身体が半分に裂けているように見える大きな口を持つ」という見た目から「はんざき」と呼ばれるという説もあります。
呼び名の由来を見ても、特徴的な生態を持つことがわかりますね。
オオサンショウウオ属は4種が知られる
オオサンショウウオは、有尾目オオサンショウウオ科オオサンショウウオ属に分類される世界最大の両生類。
オオサンショウウオ属には、日本在来の1種(学名:Andrias japonicus)のほか、中国在来のチュウゴクオオサンショウウオと呼ばれる3種とスライゴオオサンショウウオの計4種がいることが分かっています(2024年5月現在)。
スライゴオオサンショウウオは生息地では絶滅したと考えられている一方、2024年の研究で日本の水族館・動物園で2個体が飼育されていることが判明しています。
オオサンショウウオ属(Andrias属)の全種は「種の保存法」に基づく「国際希少野生動植物種」に指定されており、ワシントン条約で商業目的の国際取引が原則禁止されています。
現在日本の河川に生息している、もしくは水族館で飼育されている多くの種は、日本在来のオオサンショウウオとチュウゴクオオサンショウウオの交雑種。各地方で交雑種が増えていることから、日本在来のオオサンショウウオの存続が危ぶまれています。
また、在来種とチュウゴクオオサンショウウオ、その交雑種は見た目で見分けることがほとんど不可能です。
希少生物で特別天然記念物にも指定
オオサンショウウオは、環境省レッドリスト2020年で絶滅危惧種II類(VC)に指定されている希少生物です。また、愛知県、滋賀県、岡山県、山口県、福岡県、大分県では絶滅危惧I類に指定されています。
なお、国指定の特別天然記念物にも指定されており、保全が必須です。
特別天然記念物とは、文化財保護法第109条第2項の規定により文部科学大臣が天然記念物のうち特に重要なものであると指定したもので、動植物やその生息地、地質鉱物などが主となります。
オオサンショウウオの特徴や主な生息地
オオサンショウウオは岐阜県以西の本州、四国、九州の一部に生息し、一生を水の中で過ごす「完全水生」の生きものです。
川底が砂利になっているような綺麗な水が流れる川で、土の護岸などの穴を住処にして生息し、9月初旬ごろに産卵。夜行性なので昼間はほとんど見ることができません。飼育下での寿命は50年以上とされています。
肉食性で歯が鋭く、噛まれると指を食いちぎられる恐れがあります。繁殖期にはオス同士が戦うことがあり、噛んだ相手を殺してしまうほど。くれぐれも野生のオオサンショウウオを捕獲しようとはしないようにしましょう。
なお、許可なく捕獲すると、種の保存法に基づき、罰金刑や懲役刑に処される恐れがありますので気をつけてください。
岡山県真庭市の湯原温泉にあるオオサンショウウオ保護センター(別名:はんざきセンター)や広島県広島市にある安佐動物公園では、全長150センチのオオサンショウウオの標本が展示されています。
近年、野生のオオサンショウウオは50~100センチほどにしか成長せず、100センチを超えるような大きな個体は野生ではほとんど確認されないそうなので、とても貴重な標本です。
近年のオオサンショウウオが大きく育たない理由として、ダム建設やコンクリート護岸化などによるエサの減少や巣穴を作れないなど、生息環境の悪化が原因とされています。
そのため、河川の護岸化やダム建設において、オオサンショウウオが生育できるように改善が進んでいるそうです。
オオサンショウウオの秘密
オオサンショウウオにはほかにも驚くべき秘密があります。
生きた化石
オオサンショウウオは化石の解析によって約3000万年前からほとんど形態が変化しておらず、「生きた化石」と呼ばれています。
なお、2024年には、岡山理科大学などによる骨組織の解析から、「生きた化石であること」が証明されたそうです。
9月9日は「オオサンショウウオの日」
オオサンショウウオの形が数字の「9」に似ていること、繁殖期である9月ごろに活動が活発化することから、京都水族館が日本記念日協会へ申請し、2018年4月18日に認定されました。
京都水族館では、オオサンショウウオを約20匹飼育しています。
毎年9月9日頃になると、京都水族館を中心に地域一体となって「オオサンショウウオの日」を盛り上げるイベントを行っているんですよ。
寿命が長い
江戸時代に来日した医師であるシーボルトによる観察記録では、日本から持ち帰ったオオサンショウウオ1匹が51年間生存したそう。
持ち帰った際の大きさが20~30歳相当であったことから、飼育下では71年以上の寿命であると考えられています。
なお、飼育した個体で114年生きたという記録もあるそうです。
とてもおいしい?
白土三平の人気漫画『カムイ外伝』や北大路魯山人『魯山人味道』などに記載があり、オオサンショウウオはとてもおいしいといいます。
しかし、現在は種の保存法に基づき国際希少野生動植物種に指定されている生物であり、地域によっては特別天然記念物にも指定されています。
くれぐれも捕獲して食べることなどないように。法律で罰せられます。
省エネだけど意外に俊敏
オオサンショウウオは省エネタイプの生きもので、あまり動きません。呼吸は1時間に数回ほどで、1週間に1匹の魚を食べれば生きていけるそう。
ただ、エサを捕獲する際は、一瞬でガバっと水ごと魚などを丸飲みする俊敏さを見せます。これだとエネルギー消費を抑えて食事できそうですね。
前あしと後あしで指の数が違う
オオサンショウウオでは前あしに4本、後あしに5本の指があり、前後で指の数が異なります。
これは両生類独自の進化の結果で、カエルでも同様です。
オスは子煩悩
まず、オスは繁殖期前に子育てに適した巣穴を見つけ掃除。そこへメスが産卵すると孵化まで1ヶ月ほど面倒をみるだけでなく、幼生が巣立ちする孵化2ヶ月くらいまでお世話を続けるそう。
なお、メスは卵を産むだけみたいですが、オスがいなければ子どもは全滅するので、手が抜けないのでしょう……。
岡山では祭りが開催される
岡山県真庭市にある湯原温泉では、毎年8月8日に奇祭「はんざき祭り」が開催されます。
大はんざきの山車(太郎と花子)や道中ばやし踊り連、黄金色に輝く「はんざきねぶた」も登場する楽しいお祭りです。
8月7日には子供向けイベントが開催され、8日は「はんざき・フォーラム」や総踊り、ライブなどが行われます。
日本で唯一のはんざきを祀る神社
そんな湯原には大はんざき伝説があります。
旭川にあった龍頭(りゅうず)の淵に、体長が三丈六尺(10メートルあまり)で胴回りが一丈八尺(5メートルあまり)の大きなはんざきが住みつき、牛馬や人を飲みこんでいたそう。
そこで、三井彦四郎という若者がこの大はんざきを退治しましたが、祟りが起こったためはんざきの霊を祀ったのが「鯢(はんざき)大明神」。
この伝説から、毎年はんざき祭りが行われるようになったのだとか。
オオサンショウウオはどこで見られる?
夜行性の希少生物なので、野生ではほとんど見ることができませんが、多くの水族館などで観賞できます。
足立区生物園(東京)や世界淡水魚園水族館 アクア・トトぎふ(岐阜)、琵琶湖博物館(滋賀)、京都水族館(京都)など、多くの水族館で観察することができる生きものです。水族館に行ったらぜひ、オオサンショウウオを探してみてくださいね。
また、岡山県真庭市のオオサンショウウオ保護センター(はんざき保護センター)や、安佐動物公園(広島)、瑞穂ハンザケ自然館(島根)など、主要な水族館以外の施設でも観察することができますよ。
岡山県北の蒜山高原にある遊園地「ヒルゼン高原センター・ジョイフルパーク」の駐車場の隅でも飼育されているので、遊園地で遊ぶ際にはぜひオオサンショウウオも観察してみてください。
もし、川でオオサンショウウオを見かけた場合、生死にかかわらず役所へ連絡が必要です。捕獲すると処罰を受ける恐れがあるため、気をつけましょう。
川が増水したあとなどに稀に流されてくる場合があります。つい先日も、岡山県北でオオサンショウウオが見つかった事例が発生したそうです。
つぶらな瞳の大きなお口の愛嬌のあるオオサンショウウオ。じっくり観察して、オオサンショウウオの魅力に浸ってみませんか。
(サカナトライター:額田善之)
参考文献
真庭市-ひと・しぜん・いきもの 伝説の川の王者王サンショウウオ
環境省-オオサンショウウオ以外のオオサンショウウオ属及び オオサンショウウオ属内の種間の交雑個体
安佐動物公園飼育記録集-オオサンショウウオの生態と保全の現状
文化庁-国指定文化財等データベース
環境省-【ご注意下さい!】オオサンショウウオ属の譲渡規制について
岡山理科大プレスリリースーオオサンショウウオの骨組織は絶滅した両生類に類似 現生動物に類例なく、「生きた化石」を骨が裏づけ
真庭観光WEB-岡山の奇祭 湯原温泉 はんざき祭り