一歳若返る!?2025年1月29日は旧正月 沖縄では何をするのか?行事、お供物や拝み方(グイス)について
実家も嫁ぎ先も沖縄の仏壇持ち家(沖縄では一般的に長男が祀る仏壇のある家)に生まれ たものとして、幼い頃から筆者が体験し、年中行事を取り仕切る役割のウフヤーアンマー(仏壇持ちの女性)から見聞きした「年中行事」の知識を紹介しつつ、現代風にアップデートしていくコラム!今回は「旧正月」を紹介します。
沖縄の「旧正月」とは?
現在では沖縄でも多くの地域で主流となっている、新暦(太陽暦)の正月は、新正月と呼ばれていて、明治時代以降に沖縄に導入されたという歴史から大和正月(ヤマトソーガチ)と呼ばれたりします。それに対して沖縄で古くから祝われてきた陰暦(太陰太陽暦)による正月は、旧正月、旧正のほか、沖縄正月(ウチナーソーガチ)と呼ばれることもあります。 その名の通り、沖縄では新正月では日本風にお祝いをして、旧正月には沖縄風の飾り物やお供え物が用意されます。 旧暦行事が今も色濃く残る糸満市などでは、現在も多くの家庭で旧正月を盛大にお祝いします。これは糸満市だけではなく、漁業が盛んな漁師町で見られる傾向です。
2025年の「旧正月」は何日?
では2025年の旧正月はいつになるのでしょうか? 今年の旧正月は2025年1月29日(水)になります。 地域によっては旧正月も親戚めぐりをして、仏壇に家族の健康祈願をしたりお年玉を準備している地域もあります。 私は生家も嫁ぎ先も那覇なので、親戚めぐりをしたりすることはありませんでしたが、沖縄特有の正月料理を準備して、仏壇に供えるというのが一般的でした。
沖縄では「旧正月」に一歳、若返る!?
沖縄では「旧正月」に一歳、若返るといわれます。それはいったいどういう意味なのでしょう? お水取りの儀式についてお伝えします。 旧暦を中心に生活していた琉球王国時代には、本島北部の国頭村辺戸大川から水を汲んで、首里城に献上する「お水取り」という行事もありました。 当時は時之大家子(易者)を国頭村辺戸につかわせて、辺戸のノロ(※ノロ (祝女)は、 琉球神道 における女性の 祭司であり神官。 地域の祭祀を取りしきり、 御嶽 の祭祀を司る。)に祈願させた若水を持ってこさせて、首里にある恵方の水(その年において最も縁起の良い方角の水)と共に、王様に献上していました。 また一般家庭でも元旦未明に、男の子が泉や井戸から初水(元日の朝に初めてくむ水)を汲んでヒノカン(火の神)、仏壇、床の間の花生けの水にしていました。 若水(初水と同じ意味)でお茶をたてて供え、飲むと生気が蘇生されると言われています。 現在では旧正月の朝一番に汲む各家庭の水道水で良いと言われているようです。 年を重ねるたびに「生気を養い、若返る」行事があったというのは興味深いですよね。 10数年ほど前から、このお水取り行事は復活しています。琉球の最北端の聖地とされる安須社(アスムイ)に流れる辺戸大川(ウッカー)の水を、若返りの聖水として首里城に献上し、大切にしたといわれています。
沖縄県糸満市の旧正月
沖縄本島でも特に旧暦での生活リズムが今も色濃く残る漁師町「糸満」の旧正月は、糸満漁港で航海安全や豊漁を願う大漁旗が所狭しとはためきます。漁師(ウミンチュ)は日の出前、船に長さ6.7メートルの竿を設置して、先端に松や竹を飾り、次いで船名やカジキ、鯛などの魚が描かれた色鮮やかな旗を掲げます。 また海神が祀られている拝願所(ウガンジュ)として有名な白銀堂で、一年の航海安全と豊漁を祈願します。海神の祀られる白銀堂は、糸満漁師の精神的支柱とも言われ、大切にされています。
「旧正月」の拝みとグイス
旧正月のお供えもの
<床の間> 〇鏡餅(三方(お供え物を置く台)に三色の色紙をのせる) 〇みかん、炭、昆布 〇若水・お酒(徳利やカラカラにいれて、盃とセットで置きます) 〇生花(松竹梅などを選んで水引をあしらい豪華に活けます) ※「床の間」は本来、「男性が取り仕切る習わし」と言われています。床の間がない場合は玄関や居間などにお供えします。 <ヒヌカン(火の神)> 〇酒、花生け(若松、竹など) 〇ウカリー(赤・黄色・白の3色の色紙 を重ねたお飾り) 〇ウチャヌク(もち粉で作った白もちを3段重ねたもの) 〇タントィクブ(炭に昆布を巻いたもの) <仏壇> 〇ハレの料理 ・ソーキ汁 ・クーブイリチー ・ターンム(田芋)の田楽 ・中身汁 〇ウチャトゥ(お茶二つ) 〇ウカリー(赤・黄色・白の3色の色紙 を重ねたお飾り)の上にタントィクブ(炭を昆布で巻いたもの) 〇花(好みで) 新暦のお正月の定番料理であるお雑煮の代わりにモツがたっぷり入った「中身汁」を作ったり、豚肉と白かまぼことこんにゃくを似て白みそで煮込んだ「イナムドゥチ」、昆布や大根と豚のソーキ肉をじっくり煮込んだ「ソーキ汁」を食べて旧正月のお祝いをします。
旧正月のグイス(拝み)
年頭拝みのグイス サリ、アートートー、ウートートー(自己紹介) 「巳年(その年の干支)の年が明けました。 新年あけましておめでとうございます。 昨年は、この家・屋敷で家族全員が笑顔で健康に過ごさせていただきありがとうございます。迎えました2025年も家族一同、みんな幸せに過ごせますよう火の神様の御前から、天の神様、地の神様、十二支の神様、四方の神様、竜宮の神様にお願い致します。 365日、朝は日の光に照らされて、夜は月に光に照らされて、道中、事故や怪我もなく、魔物、病魔、また他人からの災いが有りませんようにお守りください。家族も和合し健康に過ごし、仕事も繁盛させてください。昨年より勝って良い年でありますように。 サリ、アートートー、ウートートー。 ・若水を盃に入れヒノカンに水を供えて、年の始めのあいさつと家族の健康を祈願します。 ・床の間にヒノカンと同じようにミズトウ(水をコップに供える)して、年頭祈願をします。 ・仏壇に若水でお茶を点てて、ウチャトウ(お茶を湯呑に供える)して、年頭祈願をします。
我が家の旧正月
新暦でのお正月が一般的になった現代において旧暦のリズムで行う年中行事は、自分たちのルーツである「ご先祖様」を大切にしている気持ちを、子々孫々に伝えていくためにあるものだと個人的には思います。 生家が那覇(現在の「のうれんプラザ」近辺)で長年、商売をしていたこともあり、旧正月は市場が賑やかで旧正月の祝い料理に必要な昆布などを売る乾物屋さんや、沖縄の伝統料理には欠かせない豚肉を扱う精肉店が、繁盛していたことが印象に残っています。 現在では沖縄を代表する大型スーパーマーケットでも、旧正月にまつわる一式が売られているので、正月料理を一から手作りするご家庭も減ってきたのではないでしょうか? 私の嫁ぎ先では、姑が洋裁で家庭を支えてきた「一家の大黒柱並みに働く女性」だったことから、旧正月の家庭料理は販売品で済ませ、この時期、旬の「ターンムの田楽」だけは手づくりして仏壇にお供えし、今年一年の家族の健康と無病息災を祈っています。 仕事に育児にいそがしい現代女性、仏壇の祭祀を司るウフヤーアンマー(仏壇持ち家庭の女性)の世代交代により、行事料理の簡略化は進んでいくだろうと思います。 大事なのは家族全員が健康で無事に新年を迎えられた「感謝の気持ち」をご先祖様にお伝えすることではないか?と個人的には思う次第です。 2025年の「旧正月」も家族全員そろって、美味しい正月料理に舌鼓を打ちながらお互いが息災であることを、喜び合いたいですね!