【あんぱん】実母を想う幼い兄弟が切ない...今週ラストは今田美桜&北村匠海へバトンタッチ
毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「実母を想う幼い兄弟」について。あなたはどのように観ましたか?
※本記事にはネタバレが含まれています。
国民的アニメ『アンパンマン』の原作者で漫画家・やなせたかしと妻・小松暢をモデルとし、中園ミホが脚本を、今田美桜が主演を務める第112作目のNHK連続テレビ小説『あんぱん』第2週が放送された。
父・清(二宮和也)を亡くし、母・登美子(松嶋菜々子)と共に伯父・寛(竹野内豊)の家に身を寄せた後、母にも置き去りにされた嵩(木村優来)。一方、のぶ(永瀬ゆずな)も父・結太郎(加瀬亮)が渡航中に亡くなり、朝田家は草吉(阿部サダヲ)のあんぱんを食べて生きる力をもらうが、その矢先、釜次(吉田鋼太郎)が仕事中に腕を怪我してしまう。まさにサブタイトル通り「フシアワセさん今日は」から始まった第2週。
フシアワセだらけの中にも、光は射す。母が戻らず不安を見せる嵩に、寛は少年雑誌を見せる。それは嵩と漫画との出会いとなった。憂いと気品をまとい、目に輝きを持つ木村優来が実に素晴らしい。
一方、のぶは家族を元気づけようと、草吉を強引に家に連れてきて、あんぱんを焼いてもらって売ろうと言う。
ヒロインらしく猪突猛進なのぶに好感が持てるのは、察する力の強さと、素直さがあるためだろう。子ども達が寝た後、大人がお金の工面を相談するのを布団で聞いてしまい、気を遣って弁当を持たずに学校に行ったり、自分ができることを探してあんぱん作りを思いついたりするのぶ。しかし、子どもらしく、金勘定はわからないため、草吉に売上の6割をよこせと言われると、快諾し、草吉が逆に、それではのぶたちの稼ぎにならないと教える羽目になる。
草吉の「がめつい」「口は悪いが、根は優しい」人物像は、ますますばいきんまん的だが、「優しい」キャラを引き出すためにのぶや嵩が、「がめつい、口が悪い」キャラを引き出すために、釜次や朝田家の大人たちが配置されている気がする。草吉を不当に詐欺師扱いしたり、失礼な発言をしたりする無礼者の釜次、草吉を雑に扱う朝田家の面々が、若干損な役回りだ。
草吉は石を積んだ即席窯と、団子屋から譲ってもらったあんこで、瞬時に見事なあんぱんを作り上げ、さらに羽多子(江口のりこ)が草吉にパン作りを教えてくれと頼み、反対する釜次を説得し、釜次があっという間に本格的な窯を作って、美味しそうなあんぱんが完成する。
このとんとん拍子の展開には、ヒロイン・喜美子が焼き物の窯作りへの狂気とも思える執念を抱き続けた展開を知る『スカーレット』(2019年度下半期)や、一代目ヒロインの祖父の代から受け継がれてきたおまじない「おいしゅうなれ、おいしゅうなれ」を唱え、心を込めて作り上げるあんこに親しんだ『カムカムエヴリバディ』(2022年度下半期)と比較し、ツッコミを入れる朝ドラファンもいた。
しかし、モノ作りのリアルよりもファンタジーを重要視している描写は、アニメ『アンパンマン』でジャムおじさんがアンパンを作る描写に重ねているのだろうし、材料が乏しい場所であちこちから調達し、なんとかしてしまうのは、日頃から数々のメカを作り上げ、2024年映画『それいけ!アンパンマン ばいきんまんとえほんのルルン』では「ウッドだだんだん」まで作ってしまった器用なばいきんまんを思い出す。
ともあれ、ファンタジー展開はここまで。アンパンは美味しく作れても、売れない。そこにはパンを食べる習慣が人々にないという問題があった。
一方、第1週目で気になっていたのが、幼かった弟・千尋(平山正剛)が実母・登美子のことも兄・嵩のことも覚えていなかったこと。これは史実とは異なるだけに、覚えていないほうが嵩の寂しさが強調されるからだろうと思ったら、実は千尋は母と兄のことを覚えていて、にもかかわらず養父母に気を遣い、覚えていないフリをしていたことが今週わかった。
千尋は、幼い頃の記憶がなく、物質的にも愛情にも恵まれた環境でのびのび育った子ではなかった。むしろある種、兄よりも複雑な思いを抱え、人の心を思いやることのできる、早く大人にならざるを得ない子だったのだ。
ある日、嵩のもとに登美子から手紙が届く。そこにはまだ迎えに行けないことが書かれていたが、そんな折、千尋が高熱を出し、嵩は登美子に会いたいかと尋ねると、千尋は「かあちゃまに会いたいき」と言う。あれだけ愛情を注いで育てていても、幼い頃に別れた実母を「かあちゃま」と呼び、会いたがるのだから、養父母にはなかなか残酷だ。
そして、嵩は名目では熱を出した弟に会わせたくて、本音では自分が母に会いたくて、のぶのアドバイスに従い、母のはがきの住所をたどって会いに行く。しかし、登美子は再婚し、今の家庭に子どももいて、夫には嵩を「親戚の子」と紹介する。さらに嵩に、もう来てはいけないと言うのだった。
失意で帰路につく嵩に、アンパンと飲み物を差し出したのは、羽多子とのぶ。余り物を売りに行くという名目でのぶを誘って、ひとけのない農道を歩いていたのは、再婚した母に会いに行き、おそらく失意で戻ってくる嵩を励ますためだったのだろう。
嵩は千尋に約束を守れなかったことを詫び、自身の寂しい思いも捨て、母が去るときの絵を破り捨てる。登美子は嵩を置き去りにする前、嵩の散髪をし、耳が夫(嵩の父)清に似ていると言った。そこにはまだ消えていない清への愛情も、その面影が重なる嵩への愛情も感じられたが、これが登美子なりの踏ん切りのつけ方なのか。
御免町から高知市内までの距離感や、どこを歩くと海沿いになるかなどの細かな点はさておき、そこから年月を経て、本役の今田美桜と北村匠海にバトンタッチ。
史実通り、病弱だった千尋は兄より背が高くなり(中沢元紀)、漫画を読みながら歩く兄に注意するほどしっかり者になっているが、相変わらず兄弟仲は良さそう(史実では柔道も兄より強くなり、兄が不合格となった高校に受かり、後に京大に進学する)。そんな2人をのぶがからかい、相変わらずの俊足で追い抜いていく。
次週は登美子が再び登場するようだし、大人になったのぶの妹達――河合優実、原菜乃華も登場。物語が大きく動き出しそうだ。
文/田幸和歌子