息子に知的障害はない!?小学校入学後に上がったIQ。転籍すべき?でも…【読者体験談】
監修:新美妙美
信州大学医学部子どものこころの発達医学教室 特任助教
知的障害特別支援学級に通う息子。放デイの先生から「自閉症・情緒障害特別支援学級では?」と言われ……
現在7歳の息子は、おしゃべり好きで人なつっこいのですが、不安感が強めです。小学校入学後、7歳7か月でASD(自閉スペクトラム症)の診断を受けました。聴覚過敏や触覚過敏の特性もあります。
息子はこども園の年少の頃から、半年に1回程度の頻度で新版K式発達検査を受けていました。その結果、全領域DQ82という数値が出ていました。この検査結果を活用することで、夫や両親への説明がしやすくなり、また園の先生との情報共有にも役立ちました。
もちろん知的障害(知的発達症)の有無についても気になっていたため、WISCを受けることも検討しました。しかし、当時の息子は多動傾向があり、指示を理解することも難しそうだったため、検査を受けても判定不能になるのではないかと考え、見送りました。
就学相談の結果、知的障害特別支援学級が望ましいとの答申を受け、現在は知的障害特別支援学級に所属しています。しかし、小学1年生の1学期半ばに放課後等デイサービスの先生から、
「えっ、○○くんは知的障害特別支援学級なんですか?自閉症・情緒障害特別支援学級だと思っていました」
と言われました。
放デイの先生の言葉が頭の中でめぐり、(息子にとって本当に合っている場所は今のクラスじゃないの?)と、不安がじわじわと広がっていきました。これまでの選択が正しかったのか、自信が揺らぎ始め、(知能検査を受けなければ)と決意しました。
知能検査の実施と結果
小学1年生の夏の個別面談で、知的障害特別支援学級の担任の先生に相談したところ、「学校を通じての知能検査は、小学4年生頃を目処に行う予定です。それ以前に受けても正確な結果が出にくいことが多いので、今は見守っていきましょう」と言われました。私自身も、息子の学びの様子を見ていて今の知的障害特別支援学級が合っているように思えたため、(急がなくてもいいか……)と納得しました。
しかし、その数か月後、放デイでWISCを受けられる機会が訪れました。放デイの運営会社が、ある大学と共同研究を行っており、そのモニター募集の一環として、作業療法士によるWISC検査が実施されることになったのです。息子は最初「えー、やだな~」と言っていましたが、検査を行う作業療法士さんが子どもの扱いに慣れた優しい方だったため、安心した様子で検査に臨みました。作業療法士さんによると、「何度か集中が途切れたり、離席して話し始めることもありましたが、声かけをすれば着席し、課題を再開できました」とのこと。問いに対する理解は十分だったそうです。
そしてWISC結果、息子のIQは平均値の範囲内に収まっていることが分かりました。
「息子には知的障害(知的発達症)がない……?では転籍しなければならないの?」私は驚きとともに、どうすればよいのか不安でいっぱいになりました。
転籍する?勉強では相対評価に、現在良好な人間関係もリセット?
秋の個別面談の際、知能検査の結果を担任の先生に伝えました。すると、先生から「自閉症・情緒障害特別支援学級への転籍も視野に入れながら考えましょう」との提案がありました。ただし、2年生での転籍は時期的に間に合わないため、3年次の転籍を視野に動く方針となりました。
しかし、私は「本当に転籍すべきなのか」と強く迷っています。主に気になっているのは、「勉強」と「人間関係」です。
私が息子の学びの場を考える際、大切にしている指標は以下の3点です。
・勉強を負担感なく毎日続けられる場所か
・毎日行きたい(行ってもいい)と思える場所か
・つまずいたときに立ち止まったり、ゆっくり進んだりできる雰囲気があるか
息子は不安感が強いため、「難しい」「しんどい」と感じたときに適切にサポートを受けられる環境が望ましいと考えています。そのため、担任の先生から「知能検査の結果からすると、通常学級か自閉症・情緒障害特別支援学級かを選ぶことになると思いますが、どうお考えですか?」と尋ねられたとき、私は「自閉症・情緒障害特別支援学級で検討したいです」と即答しました。
また、転籍のメリットとして、息子の学力や得意なことを伸ばし、将来の選択肢が広がることを期待しています。しかし、同時に不安も大きく、特に「成績の付き方の変化」や「授業進度の違い」が気がかりです。息子の学校の自閉症・情緒障害学級では、成績は「相対評価」で、授業進度は通常学級と同じだそうです。息子は失敗することや負けることへの恐怖心が強いので、そうした変化を柔軟に受け入れられるのか……。
また息子は現在の知的障害特別支援学級のクラスメイトや先生との関係が良好で、学校生活を楽しんでいます。一方、自閉症・情緒障害特別支援学級の担任はキビキビしたタイプの先生のようで、息子は「あの先生、苦手。よく大きな声出してるし、怖い」と話します。また、自閉症・情緒障害特別支援学級には「大きな怖い声を出す子がいる」「乱暴な子がいる」とも言っています。
もちろん、クラスの雰囲気は年度によって変わるものですが、今の環境が安定しているだけに、「本当に転籍して大丈夫なのか」という気持ちは消えません。
自閉症・情緒障害特別支援学級か、知的障害特別支援学級か——今後の選択に向けて
息子はこの1年で忍耐力がつき、見通し不安も軽減されるなど成長が見られます。そのため、今後どの環境が最適かを慎重に見極める必要があります。知的障害特別支援学級であれ、自閉症・情緒障害特別支援学級であれ、息子に合った学びの場がどこなのか――私はこれからも考え続けていくことになりそうです。
イラスト/マミヤ
エピソード参考/苗
(監修:新美先生より)
知的障害特別支援学級に在籍しているのに、知的障害(知的発達症)がないことが発覚したという悩ましい状況について聞かせていただきありがとうございます。このようなこと、実は結構よくあります。例えば自閉特性のため幼少期のコミュニケーション面の発達が特にゆっくりなお子さんでは、就学前の時点では知能検査が実施できなかったり、実施できても数値が低めに出ていたりして就学時は知的障害特別支援学級に在籍することになったのに、数年後コミュニケーション面が追い付いてきて検査に取り組みやすくなり、知能検査を実施、再検したら実は知的障害域ではなかったというようなことは起こり得るのです。知的障害特別支援学級は原則は知的障害(知的発達症)がある方のための学級なので、最新の知能指数が知的障害域でない場合、転籍を迫られるということも起きうることです。
知的障害特別支援学級では、個人に合わせた学習をしていて必ずしも学年相応である必要はなく、自閉症・情緒障害特別支援学級では学習は原則、学年相応の学習指導要領に沿った学習をすることになっているので、知的障害特別支援学級から自閉症・情緒障害特別支援学級に転籍すると、お子さんによっては、学習がいきなり飛んでしまったり、難しくなってしまったりということがあるかもしれません。
このような時に転籍をしない選択肢があるかどうかは、地域や学校によっても異なります。お子さんにとって転籍をしたほうがいいのかしないほうがいいのかについては、直近のこと、将来のことさまざまな視点から検討していく必要があり、知能検査の数値だけで決められるものじゃないですよね。悩める状況は現在進行形のようなので、また機会があったらどのように決めていったのかについても聞かせていただければありがたいです。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。程度に応じて軽度、中等度、重度に分類されます。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。