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世界でここだけ!生まぐろ市場でオペラを歌う【和歌山県那智勝浦町】

ローカリティ!

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和歌山県那智勝浦町。生まぐろ水揚げ日本一の漁港。その漁港のまさにまぐろのセリが行われている市場でオペラ「カルメン」の上演が行われた。

魚市場でオペラをするなんて日本でここだけ、いや世界でここだけ!しかも、出演者はプロだけでなくこのために作られた近隣の市や町の有志による合唱団。この合唱団の一員として参加した筆者が「さわかみオペラin紀州勝浦生まぐろ市場コンサート」の裏側を語る。

2024年10月19日、どんよりと曇った空の下、私は勝浦地方卸売市場にある「第一売場」に向かった。16時から上演するオペラ「カルメン」のためだ。

那智勝浦町は2021年から生まぐろ市場でオペラを行っている。オペラを通じた地域活性化に取り組んでいる「さわかみオペラ芸術振興財団」の提案によるものだ。オペラは高尚なもので庶民のものではないと思われがちで、パリのオペラハウスのように着飾った人が集うもののように感じる。だが、生まぐろ市場で行われるとなると話は違う。子どもから老人まで、老若男女が「オペラってどんなの?」と興味津々に市場を訪れる。

2021年、2022年はプロのオペラ歌手による上演。2023年は大雨のため中止。

今年、2024年はみんなでオペラを作り上げようと歌好きの2歳から78歳の有志63人が集まって合唱団を作った。合唱団の名は「TUNAGOOD(ツナぐ)」。

第一回の練習は5月。本番まで約5カ月という短期間での練習が始まった。月1回3時間の練習、しかもフランス語。楽譜を手にした時、誰もが「本当に歌えるだろうか」「フランス語が呪文のように聞こえる」「これを暗譜?」そう頭を悩ませた。

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24年9月28日撮影

合唱指導にはさわかみオペラ芸術振興財団から世界的オペラ歌手武井基治(たけいもとはる)さんが毎回駆けつけた。さすがプロ、私たちが「武井マジック」と呼んだその特別な練習方法によって、どんどん歌えるように上達していった。

24年9月28日撮影

やっと一曲歌えると「もっと歌えるだろう」と曲数が増える。私たちは限られた時間の中で練習を工夫した。

・オペラ「カルメン」の動画を日常に見る・フランス語を簡単なカタカナに書きなおす
・移動中の車の中で歌う
・楽譜を小さな紙にコピーし、仕事や家事の合間にいつでも見られるようポケットに入れておく
・自分たちで練習会場を借りて練習する

などなど、それぞれが、考えられることをした。

10月18日本番前日、私達は初めて出演するプロ歌手全員と一緒に練習を行った。

私はその歌声と演技を目の当たりにし、とてつもない感動を受けた。その感動を言葉にするとしたら「出演するんじゃなかった!観客席で見れば良かった。この歌声と演技を心の底から堪能したい」。オペラは見るものだと感じたのだ。

19日、オペラ当日。
朝早く、いつもは生まぐろが並べられる市場に客席やスピーカー、舞台などが設営された。

24年10月19日撮影
24年10月19日撮影

合唱団は、各自が用意した衣装に着替え、控室で何度も何度も楽譜を見直し、歌い出すタイミングや歌詞を確認。知らぬ間に誰もが無理だろうと思ったフランス語の歌詞は、楽譜を見なくても口ずさめるようになっていた。

午後、本番と同じ通し稽古が終わり、「不安」から「楽しむ」に気持ちが変わったのは私だけではないはず。

16時、開演のアナウンス。327人の観客と大きな拍手。

プロの歌声が市場中に響き渡り、私たち合唱団も舞台の横で大きな声で歌った。歌うって楽しいなあ。演技をするって楽しい。誰もが緊張せず、笑顔でオペラを楽しんだ。

降りそうだった雨は幸いにも降らず、オペラが進むにつれ会場は夕日に包まれていく。自然が作り出す照明と海風に乗って情緒的な歌声、情熱的な歌声が観客を包み込み、オペラ「カルメン」はクライマックスを迎えた。

オペラにとってこんな最高のロケーション、他には無いだろう。

オペラの練習が始まった当初、「オペラで地域活性」なんて無理だろうと思った。でも、オペラを終えた今、「もしかするとできるかもしれない。」そんな気がする。「こんなユニークなことをやっている町、見にいこう」「オペラと言えば那智勝浦町」と言われる日がくるかもしれない。いや、そうなってほしい。

オペラは見るものでなく楽しむもの。楽しんだ者勝ち。「来年も歌いたい」そんな感動で幕がおりた。

どこにもない、世界でここだけの「生まぐろ市場コンサート」を町の自慢としたい。多くの人に見てほしい、そして一緒に歌ってほしい。来年は、もっともっと多くの人を巻き込んで楽しんでいこうと思う。

24年10月19日撮影

※写真はすべて筆者友人提供

もとだてかづこ

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