1990年代の洋楽シーン【ブリットポップ】ブラー派 vs オアシス派の論争は再燃するか?
リレー連載【1990年代の洋楽シーン】vol.1 ブリットポップ
当連載では、1990年代に洋楽シーンを沸かせた音楽ジャンルを毎回ピックアップしながらシーンの背景を紐解いていきます。
グランジの反動のとしてのブリットポップ
1990年代、ついこの前のことのように思ってしまうのは私だけだろうか? 実際はすでに30年ほど前なので、1990年代のポップミュージックは既に音楽史の出来事として語られるべき対象といえる。こうした背景を鑑み、Re:minderでは1990年代の洋楽における主要なムーブメントとそのシーンを代表するアーティストや作品をシリーズで取り上げていく。今回はブリットポップとブラーの『パーク・ライフ』について考えてみよう。
ブリットポップとは、その呼称から察しがつく通り、イギリスのバンド群の活況を表す言葉として、BBCラジオのDJが使い始めたことが起源とされている。1990年代初頭に世界を席巻したアメリカ発のグランジ・ムーブメントに対するイギリスからの反動として1994年頃から使われ始めた。
ブリットポップ・シーンのバンドの音楽性は様々だったが、共通してイギリスの伝統的なポップ感覚を持つバンドが多く、キンクスやロキシー・ミュージック、XTCに通じる知的なセンスを感じさせるところが魅力と言える。ブラーとオアシスをツートップに、パルプやスウェード、エラスティカ、スーパーグラス、ブルートーンズ、エコーベリー、シェッド・セヴン、メンズウェアなど、多くのバンドが毎週のようにデビューしていた。
ブラーが国民的ロックバンドとしての地位を確立した「パーク・ライフ」
その中でも最もイギリスらしいひねくれたポップセンスを発揮していたのが、ブラーだった。
ブラーはデーモン・アルバーンを中心に結成された4人組で、1991年にアルバム『レジャー』でデビューしている。デビューアルバムは当時のイギリスのトレンドだったマッドチェスターのビートやサイケデリックな曲調が特徴的な作品だ。イギリスのチャートでも最高7位を記録したヒット作だが、ブラーの独自性はあまり感じられず、当時、雨後の筍状態だったマッドチェスター・サウンドのフォロワーという程度の印象しか残っていない。
しかし、セカンドアルバム『モダン・ライフ・イズ・ラビッシュ』では、マッドチェスター・サウンドの影響は影をひそめ、ブラーの独自性が発揮されてくる。本作では前述したイギリスのロックに通底するひねくれた感覚とポップな要素が融合したサウンドが特徴的で、キンクスやXTCの影響を感じさせながらも若いバンドの持つ勢いも感じられる傑作になっている。
イギリスでのプレスの評価も軒並み高く、大きな自信を得たブラーは、サードアルバム『パークライフ』を1994年にリリースする。そして、この作品でブラーはブリットポップ・シーンにとどまることなくイギリスの国民的ロックバンドとしての地位を確立したのだ。
そのサウンドは、前作同様に “ひねくれてるけどポップ” という特徴はそのままに、それまでのイギリスのポップミュージックの様々なジャンルからの影響を巧みに取り込み、多種多様な音楽スタイルを披露している。その幅広さはエレポップからラウンジミュージックまでバラエティー豊かな音楽性で、まるでおもちゃ箱をひっくり返したような何が出てくるか分からない楽しさや弾けるようなポップネスで統一されており、そこが本作の大きな魅力となっている。
クラブでも鉄板ナンバー「ガールズ&ボーイズ」
アルバムの冒頭を飾るのは彼らの代表曲でありシングルとしてもヒットした「ガールズ&ボーイズ」だ。1980年代エレポップ調のシンセリフのイントロから弾むベースラインが絡みつく。デーモンの鼻声ボーカルも浮ついた感じがご機嫌だ。享楽的なまでに踊れる本曲は、当時、ロック系クラブでは毎晩のようにヘビーローテーションで盛り上がる鉄板ナンバーとして大人気だった。他の収録曲も珠玉のひねくれポップが次から次へと展開され、どの曲も圧倒的なクオリティーの高さを誇っている。
また、歌われる歌詞は英国の日常を切り取ったような物語が歌われており、その視点もシニカルで傍観者の目線で歌われている。グランジ、特にカート・コバーンは他人の痛みを自分の痛みとして歌い、その悲しみや憤りがグランジの表現を特徴づけていたことを考えると、デーモン・アルバーンの視点はカートと真逆で対称的だ。そんなところがブリットポップがグランジに対するイギリスからの反動と言われる所以なのかもしれない。
英国内で圧倒的な評価を勝ち取った本作は、チャートでも首位を獲得し、リリースから90週間もの間、トップ40圏内に留まり続け、最終的に120万枚を売り上げる大ヒット作品となった。こうしてブラーは名実ともにイギリスの国民的ロックバンドへと登りつめたのだ。そして、『パークライフ』がリリースされた1994年、オアシスがデビューする。
英国全体を巻き込んだ ブラー派vsオアシス派 という論争
中産階級出身のブラーと労働者階級出身のオアシス。対照的な両バンドはプレスを通じてお互いを罵り合い、1995年にはチャートでも首位争いを演じ、英国全体を巻き込んだ “ブラー派 vs オアシス派” という論争にまで発展した。正にこの時こそがブリットポップ・ムーブメントの最高潮の瞬間だったと言えるだろう。
メディアが仕掛けたムーブメントという一面はあるにせよ、1990年代年代半ばのブリットポップ・シーンを賑わせたバンドたちは、パンク以降のUKインディーバンドやニューウェイヴのアーティストたちとは比較にならないレベルで注目を集め、大きなセールスを上げるまでに盛り上がった。
そして、日本においても、それは同様で、それまではインディーロックを聴いているとマニアックな音楽ファンと捉えられることが多かったが、ブラーやオアシスの活躍により、ごく一般的な音楽ファンにもインディーロックは認知されるまでに浸透した。
現在進行形のブリットポップ3大バンド
当時のブリットポップ・シーンを彩ったバンドたちの多くはすでに消滅してしまっているが、ブリットポップ3大バンドのブラー、オアシス、パルプは30年経った今でも存在感を誇示している。
ブラーについては、2023年にアルバム『ザ・バラード・オブ・ダーレン』をリリースし、イギリスではチャート首位を獲得し、同年のサマーソニックではヘッドライナーを努めている。そして、オアシスは遂に再結成を発表し、10月には来日公演も決定している。東京ドーム2デイズのチケットは即日完売の人気ぶりだ。
パルプも今年久しぶりに来日し、1月4日に開催されたフェス『rockin'on sonic』ではヘッドライナーを務め、フロントマンのジャーヴィス・コッカーは相変わらずのナードなパフォーマンスを見せてくれた。
もう一度見たい!ブラー vs オアシス
ブリットポップの隆盛から30年が経過し、ブラー、オアシス、パルプが揃い踏みで活躍している2020年代のロックシーンを誰が想像できたのだろう? 近い将来、新作リリースとともに “ブラー派 vs オアシス派” の論争が再燃したりして、老いも若きも巻き込んだブリットポップ・リバイバルなんてことを期待するのは欲張りだろうか?
“歴史は繰り返す” という言葉を信じてみるのも悪くはなさそうだ。